やぼうのミズチ
『青の世界』のまわりが森でかこまれた湖の昼下がり、青い肌の巨大な女性『グウレイア』が魚たちとたわむれていました。
グウレイアは身体が水でできていて、優しさと美しさをかねそなえた女神で、あらゆる生き物から『水の女王』と親しまれています。
(ふふっ……、今日もいろんなかわいいお魚たちを見られてうれしいわ。!……水面が何かあわただしいわね……。)
「グウレイアお姉さん、たいへんです!」
湖に飛び込んだ一匹の雄のカエルがあわてた様子でグウレイアに何かを伝えに来ました。
「どうしたの、『ケロッグ』?」
「『ミズチ』と名乗る大きなヘビがお姉さんと勝負したいとのことです!」
「何ですって!?」
カエルのケロッグから自分に勝負を挑む生き物がいることを聞かされたグウレイアはおどろきました。
湖のほとりでは、大きな雄のヘビがどっしりとかまえていました。
ヘビの強そうな出で立ちに生き物たちはみな、一目散に逃げ出しました。
「水の女王グウレイアよ……、うぬがこの湖におるのはわかっておる……。さあ……、われの元に来い!このミズチがうぬを下してくれるわ!」
ミズチは湖にいるグウレイアに呼びかけました。間もなくグウレイアが湖から現れました。
「はじめまして、わたくしは水の女王グウレイア。わたくしとの勝負を望むミズチなる大蛇はあなたですね?」
グウレイアはミズチに名乗りました。
「いかにも。水の女王よ、うぬを下してわれが王とならん!いざ勝負!」
ミズチは水の女王であるグウレイアをやぶって自分が王になると言い放ちました。
「わたくしはにげもかくれもしません……。お相手しましょう……。」
グウレイアはミズチの勝負を受けることにしました。
ミズチはグウレイアに飛びかかり彼女の身体に巻き付きました。
ミズチは大きな身体でグウレイアをしめあげました。
ところがグウレイアはびくともしません。
(!……な……、何だ……。水で出来ているはずなのにまるで鉄のようだ……。)
ミズチはグウレイアの身体が鉄のようなかたさになっていることにおどろきました。
(だが……、われは力の限り……、うぬをしめあげてくれる!)
ミズチはさらにグウレイアをしめあげようとしましたが、やはりびくともしません。
間もなく、ミズチの力が弱まっていきました。
(くっ……、なぜだ……、なぜびくともせぬ……。それどころかわれの方が……。)
ミズチはつかれ始めたのです。そして、しめつけが弱まりきったところでグウレイアはミズチを抱きました。
(ふっ……、われも力尽きたか……。)
「ふふっ……、あなた……、とっても強いのね……。」
「!……ぬ……、ぬしは痛くないのか……?」
グウレイアの意外な対応にミズチは面くらいました。
「わたし、痛みを感じないの。でも、あなたのしめつけの強さを感じることなら出来るわ。」
グウレイアは痛みを感じないが、相手の強さを感じることなら出来るとのべました。
「なぜ、われが強いのだ……?われのしめつけを物ともせぬぬしが……。」
ミズチは自分のしめつけを物ともしないグウレイアがなぜ自分を強いとのべるのか気になりました。
「あなたの強さなら誰かを守ることも出来るはずよ。」
グウレイアはしめつけが強いミズチなら誰かを守ることも出来るはずとのべました。
「誰かを守るだと……?」
自分の力をえものを狩るために使ってきたミズチはグウレイアの言葉にとまどいました。
「ええ、強いということは誰かを守れるということでもあるの。そう、これからはその力をみんなのためにお使いなさい。」
グウレイアはミズチに自分の力をみんなのために使うようさとしました。
「ふっ……、われの負けだ……。やはり……、水の女王はだてではないな……。」
グウレイアの優しさにうたれたミズチは負けをみとめました。
「わがやぼう叶わぬ今となっては……、われはもう王は望まぬ……。水の女王よ……、われはこれよりぬし……、いや、そなたと共にあろう……。そしてそなたらの力となろうぞ……。」
そして、ミズチはグウレイアの力となることを申し出ました。
「ふふっ……、わかりました。改めてよろしくお願いします。」
グウレイアは笑みを浮かべました。
しばらくして、ケロッグが湖から出てくると、さっきまで勝負をしていたミズチとたわむれているグウレイアがいました。
そんな光景にケロッグはとまどいました。
「……グ……、グウレイアお姉さん……。勝負の方は……?」
ケロッグはミズチに恐れながらもグウレイアに勝負の行方をたずねました。
「勝負どころじゃなかったわ。そう、このミズチとも仲良くなれたもの。」
グウレイアはケロッグにほほえみました。
「うむ……、われは決めたのだ……。この水の女王の力となることを……、そしてみなを守ることもな……。」
ミズチもケロッグに自分もグウレイアと共にあることを伝えました。
「ということは……、ぼくたちもお姉さんと同じように味方ってことですか?」
ケロッグはミズチに自分たちの味方なのかたずねました。
「うむ、われも女王と同じくぬしらの味方だ。安心するが良い。」
ミズチはケロッグにグウレイアと同じ味方だと伝えました。
「ありがとうございます。(ほっ……、食べられてしまうかと思ったよ……。それにしてもグウレイアお姉さんはすごいや……、こんな手強い生き物とも仲良くできるなんてね……。)」
ヘビが天敵のケロッグはミズチが敵でないことに安心すると同時に、彼のような手強い生き物とも仲良くできるグウレイアの器量を感じました。
こうしてミズチもグウレイア達の仲間となったのです。