なっとうくん
白く、あったかいふわふわの上に、なっとうたちはいました。
「そんなに、くっつくなよ。」
「そんなこといっても、しかたないでしょ。みんなネバネバしてるんだから。」
「そうだ、そうだ。」
なっとうたちは、声をそろえて言います。
「そのネバネバがいやなの!」
一粒のなっとうは、みんなから離れようと、上に向かってジャーンプ。
「ヤッター、 はなれたー」
みんなと離れることができた「一粒のなっとう」は外へと飛び出しました。ほかのみんなは飛び出した一粒のなっとうを追いかけ、つかまえようとしますが、ネバネバでくっつきあい、身うごきできません。その時、
「あわてなくても、だいじょうぶよ。ほら」
ちょっと粒の大きな「なっとう先生」が、白いネバネバの糸をもって言いました。その糸は、飛び出していった一粒のなっとうから出ている糸でした。
外へ飛び出した「なっとうくん」自分から糸が出ているとは気づかず前へ進みます。
「やっと一つになれたけど、このネバネバ、それとこのニオイ。どうにかなんないかな。」
なっとうくんは自分のカラダのネバネバとニオイが好きではありません。どうにかできないかと思い外に飛び出してきたのです。
しばらく進んで行くと前から赤い服を着た小柄でかわいいお豆さんがやってきました。
「すみません。ちょっといいですか?」
「なにかしら、それにしてもあなた、ニオイがすごいけど。どうしたの?」
赤いお豆さんに聞かれたなっとうくんは、
「このニオイと、からだのネバネバをどうにかしたくて外にとび出たけど・・・なんとかならいですか?」
「そんなこと言われてもね。お風呂に入るとか、それよりあなた名前は、私はあずきっていうのよ」
「ぼくは、なっとうです。」
「わたしは、豆の一族なんだけど、あなたも、もしかして仲間かしら?」
「それは、よくわかんないです。それより、からだのネバネバ、それにニオイのほうが気になって・・・」
「そう、なんとかしてあげたいけど。」
考え込むあずきさん。何かを思い出し、
「そうそう、もしかして、えんどう豆さんだったら何か知っているかも」
といい、えんどう豆さんのおうちを教えてくれました。なっとうくんは、あずきさんにお礼をいい、えんどう豆さんのおうちを目指し進んでいきます。
「ちょっと、なっとうくん、うしろに何かついているわよ」
あずきさんの声はなっとうくんにとどきませんでした。いまだに、糸を出つづけているのに気づかない、なっとうくんです。
えんどう豆さんのおうちに着いたなっとうくんは元気よく、
「ごめんください。こんにちは」
声をかけます。
「だれかな」
ドアを開けたのは、しわ顔のえんどう豆さんです。
「いや~すごいな。このニオイ!」
思わず声が出てしまったえんどう豆さん。
「ごめんなさい。ぼく、なっとうって言います。ちょっと教えてもらいたいことがあって、あずきさんに、聞いてきました。」
「あずきさんに?ふ〜ん。どんなこと」
「ぼくのニオイとネバネバをどうにかできないかと・・・」
「う〜ん。ニオイとネバネバを・・・なんともね〜」
えんどう豆さんは、シワ顔のシワをさらにふやしながら考えました。
「おっ、そうだ。ちょうどいま帰ってきてる弟にも聞いてみるか。」
「お〜い、グリーンピース。いるかい」
「ほ〜い」
奥から、えんどう豆さんの弟でツヤツヤした顔のグリーンピースさんがやってきました。
「この、なっとうくんがさ。ニオイとネバネバどうにかできないかって、うちに来たんだ」
「どうにかっていっても。シャワーでもあびれば、どうにかなるかも?」
「おまえさ、オレより先に、世の中に出て物知りなんだから、何かないんかい。」
えんどう豆さんは、弟のグリーンピースさんが自分より早く外に出て世の中の経験が長く、何か知っていると思ったのですが、何もわかりませんでした。
「ごめんな。役に立てなくて。」
「いえ、そんなこと。」
なっとうくんは小さな声で返事をし、うなだれてしまいました。
「そういえば、いとこで“えだ豆」”って子がいるんだ。えだ豆も早くから世の中に出て色々知ってるはずだから聞いてみるといいよ。それに、お姉ちゃんもいるから、行って聞いてみたらいいよ。でも、お姉ちゃんは忙しいからな〜。まぁ、行ってみるといいよ」
なっとうくんは、えだ豆さんのおうちを教えてもらい、そこへ向かいました。あいかわらず、糸を出し続けています。
えだ豆さんのおうちに着いたなっとうくんは、グリーンピースさんに聞いてやってきたことを話し、自分のカラダのニオイとネバネバがどうにかならないか聞いてみました。
「ごめんね、今はえだ豆いないのよ。もうちょっと早く、そう夏に来ればね。」
そう言って、こたえてくれたのは姉のだい豆さんでした。
「だい豆お姉さんは何か知りませんか?」
なっとうくんは、今まで聞いてきたお豆さんたちとは、だい豆さんがどこかちがう感じがすると思いながら聞いてみました。
「わたしね、ほら、ちょっと前に外に出たばっかりなのよ。涼しい秋にならないと外に出れないから。だから、あんまり世の中のことわからないのよ。」
もうしわけなさそうに、だい豆さんは言いました。
「だい豆さんて、顔の肌がつやつやで金色に輝いて、とてもキレイですね。それに比べてボクは・・・、ネバネバでニオイが・・・」
なっとうくんはキレイな、だい豆さんを見て落ち込んでしまいました。でも、どこか、似た何かがあると感じました。
「ありがとう。そんなにほめてもらって。なっとうくんもかわいいわよ。」
だい豆さんにほめられ、ちょっと照れてしまったなっとうくん。
「だい豆さんは、忙しいんでしょ。見るからにわかります。」
「そうなのよ、いろんなところに引っ張りだこ。カラダがいくつあっても足りないの。」
「いろんなところからですか?たとえば。」
「たとえばね。う〜ん。」
だい豆さんは、カラダをひねりながら、
「そうそう。まずね、大きな、大きなお風呂に入るの。それからいろんなすがたに変身していくのよねー。」
「変身ですか?今のままでも、すごくキレイなのに。」
「でもね、変身した方が、人気が出るし、みんなのためになるんですって。」
「みんなのためですか。」
なっとうくんは、だい豆さんをうらやましく思いました。
それから大豆さんは、考え考え、
「一つ目はね、白くて四角い形のお豆腐さんに変身。二つ目は白い飲み物の豆乳さんでしょ。三つ目は甘〜いきな粉。四つ目は・・・」
「そんなに。他にもあるんですか?」
「あるある。え〜とね、しょう油さん、一番人気があるのよ。それからおみそさん、これは色が白いのと茶色もあるけど、それから、あら、あなたも茶色ね。」
「色か!そういえばボクも茶色だ。」
なっとうくんは、うれしくなり、
「ほかに何があります。」
いきおいこんで聞いたなっとうくんに、だい豆さんは圧倒され後ろに下がりながら、
「ちょっとまって。今、考えているから。」
なっとうくんは、ジリジリしながらまちます。
「そうね、お風呂に入ったあとなのに、また暑いところに入れられて、すごくいっぱい汗をかいたの。そして汗でベトベトになって・・・これって、もしかして・・・」
なっとうくんも声をそろえ、
「なっ・・」
言おうとしたたその時、何か強い力で引かれるのを感じたなっとうくん。
「あ〜、助けて、だれか!」
なっとうくんはどんどん引きもどされます。そして
「ベタッ」
どこかに引っ付きました。
「お帰り。どうだった。」
「先生!みんなも・・・」
なっとうくんから出ていた糸を引っ張られて戻って来たなっとうくんに、なっとう先生は、
「あなたは、ここにいることでみんなの力になれるの。あったかいふわふわの上、悪くないでしょ。」
「うん」
なっとくのなっとうくん、ナミダが止まりません。
「あらあら、こんなにネバネバになって」
なっとうくんは、ナミダでネバネバが二倍にも三倍にも増えてしまいました。