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第29話

「離縁の話を出したのですか?」


「あぁ」


「宜しいのですか?」


「何がだ?」


 王都にあるローゲン領別邸の与えられた一室で、ジルベルトは昨日のうちに転移魔術で連れてきたピエーロに紅茶を所望する。

 言われた通り紅茶を出すと、ピエーロは話の続きを開始した。

 昨日、帰るとすぐにセラフィーナと会話し、最後に離縁の話をしたことを伝えると、ピエーロは少し驚いて問いかけてきた。

 その表情はどことなく意外そうな表情をしている。

 そして、確認するように尋ねてきたため、ジルベルトは質問で返すことになった。


「折角セラフィーナ様がジルベルト様をコルヴォだとご理解いただいたのに……」


 ジルベルトが無能というのが偽りだと、知っている人間はピエーロだけだと言ってもよかった。

 昔に救われたこともあるせいか、ピエーロは本当のジルベルトを知れば誰もが彼の強さに尊敬を抱くと思っている。

 セラフィーナも、コルヴォという仮面を被ったジルベルトに好意を示していた。

 ローゲン領の問題を解決していたのは、セラフィーナがコルヴォはジルベルトと知った時にこれまでの待遇を改めてもらうためだとピエーロは思っていた。

 ジルベルトのことを知った以上、これからは仮面夫婦の状態から文字通り仮面を取った仲になれるのではないかと期待していたからこそ、ジルベルトの方から離縁を提案するとは思っていなかった。


「ローゲン領だけでなく親父には色々と後ろ暗いことがあるだろう。それが調査によって炙り出されれば、恨みは血が繋がっている俺に向けられる可能性がある」


 小さな嫌がらせとして実家でダラダラしていたが、昔からネルチーゾは好き勝手していた。

 浸食を抑えられない西のローゲン領、一進一退の中央のアレラード領に比べ、カスタール領は少しずつ魔の森開拓を進めてた。

 そのお陰で人も集まり、発展し続けていた。

 発展すればネルチーゾの影響力も高まり、周辺の領へでかい態度をとっていた。

 同じ伯爵でも顔色を窺うような態度をしていた者たちは、今回のことでネルチーゾにざまあみろと言いたいことだろう。

 それで気が済めば良いが、中には治まらない者もいるかもしれない。

 そうなった時は、血のつながったジルベルトを標的にするだろう。

 偽装に近い結婚だと言っても、周囲の貴族はそんなこと知らない。

 つまり、ローゲン領にちょっかいをかけてくるかもしれないということだ。

 折角というなら、ようやく揉め事がなくなり魔の森に対処できるようになると思っていたのに、また自分が新しい揉め事を持って来たということになる。

 その揉め事を受けないようにするためにも、離縁した方が良いという提案をジルベルトはしたのだ。


「こんな事なら、カスタール家を探っておけばよかったですね……」


「いや、あんな犯罪者集団雇っていたんだ。お前も殺されていたかもしれないことを考えると、無関心だったのは正解だった」



 ジルベルトが頼むピエーロの調査は、基本コルヴォとして動くためのものであり、そのうち出ていくカスタール家の調査はさせないでいた。

 父たちが自分に興味がないように、ジルベルトとしても父たちのことは興味がなかったためだ。

 そのことが功を奏したのかもしれない。

 もしも調査させていたら、アラガートで戦って捕まえたテオとか言う暗殺者に殺されていた可能性がある。

 それが回避できたのだから、指示しなくて良かったとジルベルトは思っている。


「ジルベルト様……」


 もしも実家にいる時点でネルチーゾの罪を暴いていれば、カスタール家を継げていた可能性もある。

 命を救ってもらった恩があるため、自分を使い捨ててもらってもいいくらいなのに、家を継ぐより自分の安否を気にしてもらえているということが嬉しく、ピエーロは思わず胸を熱くした。


「セラフィーナ様はどちらを選ぶと思いますか? いえ、質問を間違えました。ジルベルト様はどちらを選んで欲しいのですか?」


「…………さあな」


 離縁を提案したのは分かったが、そうなるとセラフィーナがどちらを選ぶのか気になる。

 ピエーロはジルベルトにどこまでも付いて行くことを決めているのでどちらを選んだとしても構わないが、ジルベルトの気持ちが知りたい。

 そう思って問いかけたのだが、ジルベルトは薄く笑みを浮かべたまま誤魔化すように返すだけだった。







「離縁するなら、父たちの処遇が伝えられる前にの方が良い。じゃないと君も良くない噂をされてしまうかもしれないからね」


「…………」


 昨日ジルベルトに言われた言葉が、セラフィーナの頭の中を何度も駆け回っていた。

 執務室に入ったセラフィーナは、他の仕事はそっちのけで朝からずっとジルベルトと離縁するかどうかを考えていた。

 たしかに、犯人がネルチーゾと分かったのだから、離縁するなら早い方が面倒も少ないだろう。

 しかし、色々と考えると答えが出ないでいたのだ。


「……スチュアートは離縁の件どう思う?」


 側にいたので、スチュアートも昨日の会話は聞いていたはずだ。

 自分だけでは答えが出てこないので、セラフィーナはスチュアートへと問いかけた。


「……私の意見を言わせていただくなら、離縁するのが一番かと……」


「……どうして?」


 セラフィーナに問いかけられたスチュアートは、少し考えた後に離縁の方を選択した。

 聞いたのだから答えがどちらでも良いのだが、セラフィーナとしてはその理由を聞きたい。


「ネルチーゾ伯が犯人で、ジルベルト殿がその罪を判明していただいたことには感謝いたします。しかしながら、あの方もネルチーゾ伯の血を継いでいます。この先あの方が同じようなことをする可能性があります」


 ジルベルトが、コルヴォとしてローゲン領内の問題解決をおこなってくれていたのはありがたい。

 だからといって、ジルベルトがローゲン領に何もしないという訳ではない。


「ただでさえ、ネルチーゾ伯は敵の多い方。そういった方々がジルベルト殿を狙ってローゲン領を標的にする可能性もございます。問題事は無いに越したことはないかと思い、離縁した方が良いかと……」


「そう……。あなたの考えは分かったわ」


 ネルチーゾが当主になってから、カスタール家は貴族たちの間で嫌われるようになっていった。

 もしも離縁しなければ、その恨みがジルベルトのいるローゲン領に向けられるかもしれない。

 それを回避するためにも、スチュアートはジルベルトとの離縁を申し出た。


「失礼します」


「うん……」


 他の仕事をしなければならないため、スチュアートは一言告げて執務室から退室した。

 スチュアートの退室に返事をしたが、セラフィーナは答えが出ないのかまた1人考え始めるのだった。






◆◆◆◆◆


「ハァ~……」


「おや、溜息かい?」


 ネルチーゾが捕まって3日経った。

 その間調査が迅速におこなわれ、罪状が確定したことによるカスタール領の今後などが発表されることになった。

 城の使いにより登城することになった前日の夕方、セラフィーナから話があると言われたジルベルトはリビングルームへとやってきた。

 すると、呼び出したセラフィーナがため息を吐いていたため、からかうように話しかけて到着したことを告げた。


「……誰のせいだと思っているのよ!」


「……それは失礼」


 セラフィーナの目には少し隈ができている。

 どうやら寝不足気味のようだ。

 軽いジョークのつもりでからかったのだが、セラフィーナには通用しなかった。

 不機嫌な表情で強めのツッコミを入れてきたセラフィーナに、ジルベルトは軽く謝罪した。


「話というのは、あなたが話していた離縁のことよ」


「……そう、じゃあ、答えを聞こうか?」


 登城前までという期限だった。

 そのため、呼ばれた理由は分かっている。

 セラフィーナが話し始めると、ジルベルトはどんな答えを出したのかを真剣な表情で問いかけたのだった。



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