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第27話

 仮面を取り、顔を晒したコルヴォことジルベルトに、玉座の間には静寂が流れる。

 まさか、名前の挙がっていた張本人がこの場にいるとは誰も思っていなかったためだ。


「え?」


「「「…………」」」


 特に振り返りジルベルトの顔を見た妻のセラフィーナと、少し離れた右隣りにいる父のネルチーゾと兄2人は唖然としたように声を失っている。

 コルヴォというS級冒険者と、邸内でフラフラしているだけの印象のジルベルトが結びつかないのようだ。


「ジルベルト!! 何故貴様が!?」


「おかしなことを申しますね。御覧の通り、犯人逮捕したコルヴォとして来ているのですよ。父上……」


 自分が罪を擦り付けようとした人間が目の前にいたと知り、ネルチーゾは焦ったように問いかけてくる。

 コルヴォとしてここにいたのだから、一部始終を聞いていたということ。

 ジルベルト程度なら、適当な暗殺者を送ればすぐに済むはず。

 しかし、ジルベルトがコルヴォだとすれば、この場をやり過ごして自殺に見せかけて殺すことなどできないということのため焦るのも無理はないだろう。


「バカな!!」「放蕩者のお前が!?」


「私は幼少期から兄上たちといらぬ揉め事を起こすまいと、ワザと無能の放蕩者を演じていただけです」


 ジルベルトと兄たちは少し年が離れている。

 兄たちは優秀と言われているが、普通よりという言葉が付く優秀さだ。

 そんな兄たちに、ジルベルトも幼児期は憧れていた。

 しかし、彼らは父と同じく市民に対して横柄な態度を取ることが多く、市民あっての貴族という考えのジルベルトとは違った。

 かと言って、それを忠告しようにも、自分は父や兄たちからは疎まれているため無駄に軋轢を生むだけでしかない。

 所詮3男の自分は、そのうち家を出ていく身なので、それまで放蕩者を装って追い出されるのを待っていたのだ。


「貴様!! 陛下の前でコルヴォだと偽りを申していたな!?」


「それはありません」


「宰相殿……」


 ジルベルトがいることは分かったが、そうなると完全に分が悪い。

 そのため、ネルチーゾは話をずらさなければと考え、ジルベルトがコルヴォの名を語ったといちゃもんを付けてきた。

 それをジルベルトが否定する前に、宰相のウルバーノがネルチーゾの言葉を否定した。


「陛下に謁見するのですから、彼には本人確認として冒険者カードの確認をさせてもらいました。私だけでなく近衛兵も共にいたので、彼がコルヴォであるのは間違いありません」


「ぐっ……」


 冒険者カードは他人が使用できないような作りになっているため、宰相だけでなく近衛兵にまで確認されているのでは、名を騙っているわけではないということになる。

 自分の言葉を完全に否定され、ネルチーゾは唇を噛んだ。


「そんな……」「バカな……」


 宰相のウルバーノがきちんと確認しているということは、正式にジルベルトがコルヴォであるということが証明されたということだ。

 何もしない放蕩者という印象しかなかった弟が、貴族も扱いを考えなければならないS級冒険者だと知り、兄の2人は怒りで顔を赤くする。

 冒険者たちのことはただの平民の一種としてしか見ていないが、S級ともなると話は別。

 ジルベルトがとても自分たちではたどり着けない人の枠を超えた存在とも言われるS級だということは、自分たちの方が劣っているということを証明しているからだ。

 そして、先程ジルベルトが言った放蕩者を演じていたということは本当だということになり、下に見ていたのはジルベルトの方だと気付いたためだ。


「陛下に於かれましては、別名を名乗り仮面を被ったままの対面、大変申し訳ありませんでした」


「よい。気にするな」


 父たちの相手をしなければならずに遅くなってしまったが、ジルベルトはロマーノへ頭を下げると共に謝罪の言葉を述べた。

 謝罪に対し、ロマーノは気にする様子なく返答した。

 その表情は、どことなくこの状況を楽しんでいる様にも見える。


「陛下。私が犯人であれば、わざわざ今回差し出した者たちを捕まえる必要はありません。これで私が犯人ではないとお判りいただけたかと思います」


「なるほど……」


 犯人を捕まえたのがコルヴォである自分となると、黒幕がジルベルトだというネルチーゾの筋書きはなくなったも同然だ。

 自分が雇った犯人たちを、わざわざ捕まえるなんてする必要がないからだ。

 そもそもセラフィーナは他のことに手いっぱいで、横流しなどがおこなわれていると気付いていなかったのだ。

 それを自分から明らかにして、何のメリットがあるというのか。

 ジルベルトの説明を受けたロマーノは、聞き入れたと言うように頷く。


「カスタール伯。それに対して何か言うことはあるか?」


「うっ……、いや……」


「……無いようだな? 残念だ……」


 ジルベルト本人が目の前にいる状況では、何を言っても嘘がバレてしまう。

 罪を着せるべきジルベルトの登場時点で言い逃れ出来ないことを悟っていたネルチーゾは、ロマーノの問いに言い淀んだ。

 それが反論できないが故のものだと理解したロマーノは、昔から仕える貴族であるカスタール家を罰しなければならないことが辛いため、ため息を吐きつつ目を閉じた。


「この者たちを牢へ連れていけ!」


「「「「「ハッ!」」」」」


 調査によって自分たちが犯人であると示されているというのに、ジルベルトのせいにするなど、王へ対して虚偽の報告をした。

 もしかしたらそれ以外にも罪を隠しているかもしれない。

 余罪の追及をおこなうため、ロマーノはネルチーゾと2人の息子を牢へ連れて行くよう控えていた兵に指示をする。

 それを受け、すぐさま兵たちはネルチーゾたちを取り囲んだ。


「や、やめろ! 私を…誰だと……」


「は、離せ!」「くそっ!」


 3人とも兵に取り押さえられ、後ろ手に魔力封じの手錠をかけられる。

 そして、兵たちはこの3人に自殺するような潔さなど無いとは思いつつも、念のため口輪を付けて防止する。

 着けるまでの間喚き散らしていたが、口輪をしたことでようやく静かになった。

 兵たちに連れていかれる時、ネルチーゾたちは唸るような声をあげつつジルベルトを睨みつけていたが、肝心のジルベルトは平然とした様子で彼らを見送った。

 自分を身代わりにして逃げようとした連中だ。

 いくら父や兄でも救う価値無しと、ジルベルトの中ではもう切り捨てていた。


「コルヴォ……、いや、ジルベルトよ」


「ハッ!」


 やかましい3人がいなくなり、室内は静寂を取り戻す。

 空気が治まったのを確認し、ロマーノはジルベルトへと話しかける。


「なかなか面白いものを見させてもらった」


「いえ、まさか私が知らない所で父たちがあのようなことをおこなっていたとは思いませんでした。しかも罪を他人に擦り付けるなんて行為をするなど、血が繋がっていることすら恥ずかしい限りです」


 関係ない人間に罪を着せるようにして何とか言い逃れようとするなど、民の上に立つ貴族であるにもかかわらず潔さのかけらもない。

 しかし、その言い訳を見事に引っくり返すということが目の前でおこなわれ、痛快な気分なのだろう。

 笑みを浮かべて話している所から、ロマーノの本心からの言葉だろう。

 その言葉に対し、ジルベルトは申し訳なさそうに頭を下げたのだった。


「ローゲン伯、並びに集まり者たち。今後のことについては追って報告をいたす。これにて解散せよ」


「「「「「ハッ!」」」」」


 素直に罪を認めていようが、ネルチーゾたちの調査もおこなわれ、余罪を追及したうえで処罰を決定する流れだったため、この場の解散は分かっていたこと。

 ロマーノの解散宣言に、行方を見守っていた貴族たちは当然のように受け入れる。


「あぁ、ジルベルトよ。別室に案内させるゆえ待機せよ」


「畏まりました」


 解散によって貴族たちが順番に退室をしていく。

 そんななか、ロマーノはジルベルトを呼び止めた。

 当然断る訳にはいかないため、ジルベルトはこの場に待機することになった。


「…………」


「…………」


 コルヴォがジルベルトと知り、セラフィーナは途中から心ここにあらずと言うかのような状態だった。

 最後に退室することになったセラフィーナは、何か言いたげだが、何を言っていいか分からないと言うかのような表情で、何度もジルベルト見返しながら無言で退室していった。

 そんなセラフィーナに何を言っていいか分からないジルベルトも、ただ無言で見送ることしかできなかったのだった。



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