第20話
「大丈夫ですか?」
「え、えぇ……」
セラフィーナの窮地に現れたコルヴォ。
座り込んだままのセラフィーナへ手を差し出し、立ち上がらせる。
怪我を心配され、視線が自分の姿を見ていると分かると、セラフィーナは少し頬を染めて返答する。
寒がりなため、肌を隠した厚着の寝巻なのは良かったのだが、やはり気になっている相手に寝巻姿を見られるというのは照れてしまう。
「痛てて……」
登場と共にコルヴォが蹴とばした巨体の男が、胸をさすりながら立ち上がる。
結構強めに蹴とばしたというのに気を失っていないのは、巨体であるがゆえに耐久力もあるということだろうか。
どうせなら、今ので片付いてくれていたらその分楽だったのにと思わなくない。
「……いきなり現れやがって、何者だお前?」
「そいつはS級のコルヴォだ」
立ち上がった巨体の男は、突如現れて自分を蹴飛ばした人間を睨みつけながら問いかける。
それに答えたのは聞かれた本人ではなく、この集団のトップらしき男だった。
「S級……」「こいつが……」「コルヴォ……」
S級の冒険者と聞いて、宿を囲んでいた者たちはざわめき出す。
素行が悪かったために、ここにいる者たちは良くてA級までしかなれなかった。
自分たちがなれなかったS級になった男が目の前に現れ、男たちは値踏みするようにコルヴォを見つめた。
「こいつを殺った奴にはたんまり報酬を出してやる! セラフィーナ共々確実に殺せ!」
「何っ!?」「マジかよ!?」
報酬という言葉を聞いて、男たちが色めき立つ。
所詮は金にしか興味がない連中のようだ。
「俺が殺る!!」「いや、俺だ!!」
「揉めている場合か! 誰でも良いからさっさと殺れ!」
高額の報酬を得られると知り、周囲の男たちは自分がコルヴォを倒そうと向かっていこうとする。
しかし、誰もが同じことを考えているため、仲間同士で口喧嘩のようになり始めた。
そんな事をしていると無駄に時間がかかってしまう。
何人かに村人を抑えてもらっているが、いつまでも騒がしくしていれば抑えきれなくなってしまう。
場合によっては、村ごと潰しにかからなくてはならなくなるため、トップに立つ男は一刻も早く攻めかかるように指示をだした。
「領主殿は中へ」
「えっ? でも……」
「早く!!」
「わ、分かったわ……」
男たちが揉めているのを見て、コルヴォはセラフィーナに宿屋の中へ隠れていてもらおうとする。
集まっている男たちは、性格は酷くても立ち振る舞いとしては強者の様相を呈している。
いくらコルヴォがS級と言っても、この数相手に一人で戦うのは危険だ。
せめて少しでも役に立とうと、セラフィーナは自分も戦おうと思った。
しかし、コルヴォから強い口調で言われたことで、自分は邪魔になると判断したセラフィーナはその指示に従い、宿屋の中へと入っていった。
「あっ! おいっ! セラフィーナが逃げてしまっただろ! さっさと殺れ!」
「こうなりゃ早い者勝ちだ!!」
「「「「「おぉぉーー!!」」」」」
セラフィーナがいなくなり、トップの男が慌てたように喚く。
その言葉によって、口喧嘩をしていた男たちの矛先も変わった。
誰がやるにしても、今回の殺害計画を成功しないと話にならないため、男たちは一斉にコルヴォへと襲い掛かっていった。
「頂きっ!!」
速度自慢の小柄の男が、短剣を手にコルヴォへと攻めかかる。
セラフィーナが相手なら怪我を負わせることができただろうが、コルヴォにはそうはいかない。
「ぐへっ!!」
「「「「「っ!!」」」」」
この小柄の男は、自分と同じ速度で動ける者などいないとでも思っていたのだろうか。
速度に任せた突きを躱し、コルヴォは剣で男の首を斬り裂いた。
小柄の男が血しぶきを上げて地面に横たわることになると、後から襲い掛かろうとしていた者たちは足を止めた。
先程のコルヴォの動きに警戒心を高めたからだ。
「皆殺しにしてやる! 死にたい奴からかかってこい!」
一旦止まった間を使い、コルヴォは血みどろの剣を男たちに向けて啖呵を切る。
仮面によって表情は分からないが、一気に膨れ上がった殺気によって男たちの額には冷や汗が噴き出した。
「ちょ、調子に乗ってんじゃねえ!」
見合っているだけでは何も変わらない。
コルヴォの殺気に耐えられなくなった1人が、持っている槍で攻めかかってきた。
「へぶっ!!」
連続で突きを放ってきた男の攻撃を躱しながら、自分の間合いに入ったコルヴォは、男の心臓を目掛けて剣を一突きした。
刺された男は、大量の血を噴き出しつつその場へ崩れ落ちた。
「ヌンッ!!」
「うぎゃ!!」
心臓を刺して仕留めたコルヴォは、その男の槍を奪い取る。
そして、その槍を敵へと投擲し、もう1人を仕留めることに成功した。
「残り23……」
あっという間に3人を殺し、コルヴォは残りの人数を呟く。
表の入り口にいた領兵と戦う者が4人。
何事かと集まりだした村人を抑えるのが6人。
この裏口に集まっているのが16人。
探知魔術で調べた結果、この宿屋周辺に集まった男たちは総勢26人。
そのため、3人殺して残りは23人だ。
『表の領兵も長くはもたない。速く始末しないと……』
実の所、コルヴォは内心焦っていた。
ローゲン領は赤字のため、治安維持のために動く領兵はギリギリの人数しかいないため、今回の護送にはたった3人しか連れて来ていない。
その3人は、セラフィーナを守るために宿の中へ入れないよう表の入り口を守っているが、数の上で分が悪い。
コルヴォとしては彼らを守る必要はないが、中身のジルベルトとしてはこのまま見過ごせない。
なるべく早くここにいる13人を倒し、他の者を倒しに向かいたい。
「お前たちが何者か分からないが、雑魚ばっかりのようだな……」
「何っ!?」「野郎っ!!」
自分から動いて仕留めて回るのも良いが、敵から近付かせる方が速く済む。
そう考えたコルヴォは、挑発じみたことを言って敵たちに腹を立たせる。
案の定、短気を起こした2人が剣片手に襲い掛かってきた。
「がっ!!」「ぐあっ!!」
「残り21……」
左右から攻撃してきた2人の剣を躱し、コルヴォは2人の腹を掻っ捌く。
2人が崩れ落ちるのを見ることなく、コルヴォは次の標的を探した。
「くらえ!!」
コルヴォの接近戦の強さを悟ったのか、魔術師の恰好をした男が離れた距離から火球魔術を放って来た。
他の仲間がやられている間に魔力を練っていたのだろう。
かなりの威力と大きさの火球が、コルヴォへと襲い掛かった。
「バカが!」
迫り来る火球に、コルヴォは仮面の下で笑みを浮かべた。
襲い掛かってくる敵たちを相手にしつつも、この男が魔力を練っているのは分かっていた。
むしろ、これが来るのを待っていたと言っていい。
「ハッ!!」
「「「「「なっ!?」」」」」
この火球を防ぐだけならそれほど難しいことではない。
何ならコルヴォなら躱すこともできるだろう。
しかし、背後には宿屋があり、その中にはセラフィーナたちが身を潜めている。
躱せないと踏んだからこそ放ったのだろうが、これを利用されると思っていなかったようだ。
迫り来る火球に対し、コルヴォは角度を付けた魔力の壁を作って方向転換させる。
それにより、火球は数人で固まっていた男たちの方へと飛んで行った。
突然自分たちの所に飛んできたため、男たちは躱す暇なく火球の爆発に巻き込まれた。
「残り15……」
仲間の火球の爆発により、一気に5人を戦闘不能に追い込むことができた。
この周辺にいるのは総勢15人だが、この裏口に集まっているのは残り5人。
あと少しになったことで、コルヴォは密かに安堵のため息を吐いた。
「くっ! おいコルヴォ! こっちに来たのは失敗だったな!」
「……どういうことだ?」
残りが少なくなり、指示を出していたトップの男は考えを変えた。
今更になって何か企むような発言をしてい来た男に、コルヴォはその発言の意図を聞き返す。
「今頃、お前が捕まえた奴らと、それを守る冒険者どもは血祭りになっている頃だ!」
「……なるほど、あっちにも送っていたか……」
「その通り!」
どうやら、セラフィーナを狙ってここに集まった者たち同様、ある程度の人数の者たちがアルヴァ―ロたちの所へ送られているようだ。
予想はしていたが、数次第では折角捕まえた者たちまで殺されてしまう。
そうなったら、この移動の意味がなくなってしまう。
「さあ、どうする?」
セラフィーナを守っていれば犯人たちと冒険者たちが殺される。
しかし、セラフィーナがいる以上ここを放置する訳にもいかない。
どうやらこの男は、悩ませることで自分の動きを鈍らせることが狙いのようだ。
「簡単だ。領主殿を守るだけだ!」
たしかに折角捕まえた犯人たちを殺されるのは痛手だ。
背後に誰が隠れていたのか分からないままになってしまう。
しかし、コルヴォというよりジルベルトとして、セラフィーナをみすみす殺されるわけにはいかない。
そのため、コルヴォはセラフィーナを守ることの方を選ぶと断言したのだった。




