第49話 ドワーフの洞窟へ「ドワーフの商売人⑧」
隆起した断層が崖となってそびえ立つ。
そのふもとで、ドワーフのガイド達がはしゃぎ出した。
「見てください、この素晴らしい眺めを!」
絵本からが飛び出してきた七人の小人のような、五人のガイド達が、一斉に崖へむかって走り出した。
こいつら、客人を放ったらかして、ガイド失格だ。そして、あと二人はどこに行った!
二人足りない、七人の小人達が手招きをする。
「ほら早く、早く、遠慮することはない」
もちろん、遠慮はしていない。ここ数日、ガイド達に連れ回され、宮殿近郊の観光名所名所とやらを巡っている。
「国宝級の断層らしいぞ、マーク、喜んで早く行け!」
「そういうのは、隊長の仕事でしよ!」
昨日、酷い目にあったマークは、ザリガニのように両手を上げて、プルプルと身体を震わせた。
トルンは? というと、別のガイド二人と酒を飲み始めている。それにしても、あのガイド二人は、小人のような可愛らしさがなく、引き締まった身体をしている。なんとも残念でならない。
当たり前だけど、ドワーフだからといって、皆、同じではない。総じて背は低いが、丸いのが六割、あとはそれ以外、様々な体形、価値観、そして性格も違う。
「コーラル、今日は、あんたが行けよ」
「隊長さん、そんな、無理ですよ。それに、一応、雇い主ですよ」
そうだった、こいつ、雇い主で、今回の件の首謀者だった。あまりにも、コイツがいろいろ他人任せなので、忘れてた。
「出立はいつになりそうだ?」
崖の方からガイド達の歓声が聞こえる。どうやら、凄い石か何かを見つけたらしい。
「カスティーナさんが、いろいろ動いているみたいですよ。王が従者なしで、他所の国に行くんです。もうしばらくは滞在ですね」
「えらく、コーラル殿は、落ち着いてるな、早く、告白したくないのか?」
コーラルは、照れ笑いをして誤魔化した。
そもそも、事が成ったからといって、その恋の結末に影響があるとは、まったく思えないが……。
崖からガイドが一人走ってくる。
目の前に割られた石が差し出された。何というドヤ顔!
そして、なぜ、お前らは、俺をロックオンした!!
「早く崖に来なさい。ここの石は、普段はいじったらダメなんですよ。今日は、特別なんです!」
あ、はい……。
勢いに負けてしまった……。
「見てください! この一億年前の地層を!!」
ずっと見てるよ……。
崖の前で、ガイド達の鼻息が荒い。
遠くから、笑い声が聞こえる。
あっちは、結局、酒で盛り上がっているらしい……。
今日も、生贄は俺だ。昨日以外、全部コレだよ。初日に、真面目に聞いて、質問をしたせいか……、トホホ……。
「ほら! どこを見ているんです! それよりも、ここ! この地層の色、珍しいでしょう!」
言ったそばから、うっとりとした顔で、ガイド達が地層を指でなぞる。キモい……。
実は、彼らの気持ちを、少し理解できてしまう。
断じて、岩石や地層に興味があるわけではない。そう断じてだ!
ただ、人間にも、極々少数に違いないが、そういう奴は、いるだろう。
彼らは、色と言いながら、それを見ている訳ではない。その先の、きっと、そこから導き出される太古の星の姿に、心を踊らせているのだ。
「ほら、あなたも、早く、この石を割ってみて!」
手渡された石をハンマーで叩く。それが割れると、延々とヒマな説明を聞く羽目になった。
正直、全然、楽しくないし、むしろ苦痛かもしれない。
帰り道、崖を存分に楽しんだガイド達の充実した顔を夕陽が照らす。
「俺には、ドワーフ達が貧しいようには、見えないな」
町の奴らも、気さくで人が良さそうだった。
俺の呟きに、コーラルが返事をした。
「貧しいなんて、僕は言ってませんよ。もっと裕福になれるって言ったんです」
「そうかよ、でも、増えた金を何に使うんだ?」
ドワーフ達の味覚は、人と違うようで、美味いの基準が、まるで違う。
人の世界では、アルコール度ばかりが高過ぎて、不味いという酒を、彼らは美味いという。
「彼らは、無知なだけなんです」
コーラルがムッとした。
「彼らのどこが無知なのだ?」
「何を言ってるんですか! あれらはククルース神話を知らないんですよ!」
「怒ってるのか? だとしたら意外だな。あんたは、俺たちの素性を知ってるんだろう?」
「ははは、やだなあ、怒ってませんよ。ドワーフ達は、知識を増やせば、きっと豊かになれると思ってるだけです」
「そうですね」
適当な相槌を打って話を終わらせた。




