第28話 ドワーフの洞窟へ「魔法使いの町①」
町の入口を見張っている五人の兵士に、身分証を見せて、通ろうとするも、まだ何かあるらしい。
「待ちな、まだ検査が終わってねえ」
「検査?」
荷物検査が頭に浮かぶ。
それにしては、兵士らの興奮は異常だ。
彼らは、ククルとリズを見ていた。
一番怯えているのは、なぜかライラで、彼女は、胸を両手で隠しアワアワしている。
幼女のライラには申し訳ないが、その必要は……。
あったよ!!
五人の内、一人がライラを凝視している!
「おい、こいつら笑ってやがる。望み通り、身体のすみずみまで、検査してやるぜ」
兵士らの無防備が見るに耐えない。
ククルとリズは確かに笑顔だった。
美しい氷の微笑。
一見すると魅惑的、だが、恐ろしい。
俺にはどうしても黒い影が、口角を吊り上げ、不気味な笑みをたたえている様に見える。
あいつら死んだな。
まあ、兵士は自業自得。
ククルの魔法は雷だったか……はまだ良いが、恋人を授かってるリズの魔法は……。
これは、町が地図から消えかねない!
あっちゃー、手を貸すか?
まあ、いいやっ!
「隊長の旦那、そろそろ、止めて下さい」
「お前が行けば良いだろう。誰も怪我はしないさ」
町が一つ消えるぐらい構わないだろう。
どうせ知らない奴らだ。
「騒ぎを起こすなってアレン卿に言われたでしょ」
「…………」
町が消えるぐらい大丈夫……じゃないよな。
最近のアレンは機嫌が悪いからなあー。
「そこまでだ」
間に割って入り、剣を抜く。
ああ、今日も野宿か……。
「きゃーっ、怖かったわ、旦那様!」
「プシューなのじゃ」
リズとライラが駆け寄ってくる。
ククルは腕組みで仁王立ち。
リズはまだいい、それよりライラ!
プシューって何だよ!
なぜ、お前は口を冷却している!
「まあまあ、兵士さん、これで見逃してやってくれ、うちの客だ」
町に入る前に出会った男だ。
「ほらっ、旦那も剣なんかしまって、しまって」
こいつ、今、兵に金を握らせなかったか?
「ほお、宿屋のゴルドールか、待ちな」
「まったく抜け目ないお人だ。ほら、これで全財産だ」
また金を握らせた。
何だよコイツ……。
「あんたら、うちの宿に泊まりな! 知る人ぞ知る、歴史ある宿屋、ゴルドールっていえば、この辺りでは有名だぜ!」
知る人ぞ知るのに有名だなんて、おかしいだろ!
ともかく、見知らぬ男の案内で町外れの宿屋にやってきた。
「隊長の旦那、別を当たりましょう」
おい、トルン、なんか呼び方がさっきからいろいろ変だぞ。
それでもトルンの意見には賛成だ。
他の奴らも門をくぐらず、建物を遠い目で見ている。
まさかの客引きとはな。
他人から声を掛けられるだけマシ、というものだろう。
「そうだな、まだ、日が沈むまで時間がある。探すのも悪くないだろう、手間を掛けさせたな」
「ちょちょ、ちょっと待てよ! 悪いことは言わない、ウチに泊まれよ!」
「泊まれるのか?」
「いや、そういう問題じゃなくて、町に行くのがおかしいだろ!」
「そ、そうですね。ねえ、隊長さん、今晩はここで泊めて貰いましょう」
ククルが足元を気にしながら錆び付いた門をくぐった。
庭は手入れが行き届いておらず雑草が伸び放題。
入口までは獣道を歩かねばならない。
歴史というよりは、月日を感じさせるボロい屋敷……。
知る人ぞ知る、有名な宿屋、ゴルドールは、一等地から離れた人気のないボロ宿だった。
「旦那、いろいろ経費を掛けたんだ、お代ははずんでくれ」
「ああ、これで頼む」
王国紙幣を一枚渡した。
「あんまりだ、これじゃ一人分の代金にもなりはしねえ」
うるさい奴だ。
「礼なら兵士から貰うんだな! あんたが助けたのは奴らだからな!」
「ぐっ、あんまりだ! あんまりだ!」
宿屋がうるさいもんだから、トルンが追加を支払った。
宿屋ゴルドールは家族経営だ。
客引きは、俺たちを助けたと勘違いしてるゴルドールの親父。
屋敷の中は、彼の妻、これが結構な美人さんが取り仕切り、薪割りやらの雑務を娘さんがこなしていた。
薪割りは親父がやれ、というより客引きは変わった方が店は流行りそうに思える。
現に、すっかり堅物なトルンの奴が、ウホウホいいながら薪割りを手伝っていた。
「手伝ってもらって、ごめんなさい」
「いいっすよ、力だけが取り柄なんで、なんでも言いつけて下さい」
「そんなお客様に悪いわ」
薪を抱えたトルンがデレている。
ゴルドールの娘、カンナは垢抜けしない感じの良い娘だった。
「へえー、トルンの奴、ああいう娘が好みなのね」
「そうだな、あまり揶揄ってやるなよ、リズ」
「旦那様、そんな野暮はしないわ、でも、心配ね」
ゴルドールの奥さんが食事の支度を終えた。
「お客様方、女房の作るメシは、王国一だ。腹一杯食って下さい」
親父の言う通り、暖かいメシは最高に美味しかった。




