表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もしも夢が叶うなら

第4話「お伽話は真になるか(中編)」(仮題)

作者: 夢乃 リボン

前回のあらすじ


主人公は、縫い包みと布団をクリーニングに出した。

「ただいま。」


 両手の手提げ袋を下ろす。軽く伸びをして緊張を解いた。


「やぁっと帰ってきたぁ。疲れたぁあ。」


 家に上がって化粧を落とす。薄い仮面を剥がしたにも関わらず、血色の良い顔に笑みが浮かぶのは今日一日が楽しく過ごせたからだ。

 立ち鏡の中の私は、胸元に淡いピンク色のリボンが付いた白いブラウスを着て、膝下長さのこれまたピンク色のフレアスカートの端をちょんと摘んで広げている。耳元にはハートのイヤリングが揺れていた。


「ふふん。どう? このコーディネート。完璧じゃない?」


 そう言って鏡から枕元に視線を向けた。


「、、、あぁ。そうだった。クリーニングに出したんだっけ。」


 いつもの場所にあの縫い包みが居ない事。それに気付いた私は、胸にポッカリと穴が開くような喪失感を覚えた。


「二〜三週間くらいで戻ってくるって言ってたし、意外にあっという間、だよね?」


 そう言って寂しさを紛らわし、私は紙袋の中の戦利品を整理し始めた。

 今着てるブラウスと同じデザインで、色が逆転しているもの。ピンク色のシャツワンピース。ピンク色のチュールスカート。


「うん、ピンク率やばい。」


 お姫様のイメージで探していたらこうなった。

 小さい頃読んでもらった絵本の中のお姫様と、私が好きになったアニメのキャラクターは、どちらもピンクのドレスやリボンを着こなしていたため、どうしてもピンク色に目が行ってしまうのだ。

 値札を切り、全てタンスにしまう。


「これでよし。あとはアクセサリー類だ。」


 もう一つの紙袋の中をごそごそと漁る。


「シュシュが二つ、カチューシャ一つ、髪留め1組、以上!」


 濃度やデザインは違うが、全てピンクのリボン付きである。


「んふふ、可愛い。」


 口元を緩ませて、鼻歌交じりにアクセサリー達を化粧台の引き出しへとしまう。


「さぁ、シャワー浴びて寝よ寝よ!」


 パジャマに着替えた私は、タンスの一番下の引き出しから毛布を引っ張り出してクリーニングに出してしまった掛け布団の代わりにした。


「おやすみなさい。」


 返答は無かった。






 気がつけば水の中に居た。不思議と息は苦しく無かった。


(これ、夢か。)


 水圧による、水の重さ。肌に感じる、水の冷たさ。夢とは思えないくらいリアルな感触だ。

 声を出そうとしたが音は響かず、空気の泡だけが吐き出された。


(何か、居る。)


 辺りを見回していると、遠くの方に小さな影が見えた。なんとなく、私にとってそれが大事なものである気がする。私はその影に向かって泳いだ。


(あれは、アーニャ?)


 近づいて見ると、そこには見慣れた縫い包みがピンクの魚が作った小さな渦の中で、クルクルと踊るように回っていた。

 それが嫌そうでは無かったので、しばらくその舞に見入っていると、渦から外れた数匹の小魚が何かを持ってこちらに泳いで来た。


(それは、アーニャのリボン!)


 いつのまにか外れていたらしく、縫い包みの首元を見るとそこにあるはずの水玉のリボンは無かった。

 先頭の小魚が手を突いて催促したので、私は恐る恐るリボンを受け取った。それを見た小魚達は渦の群れに戻って行く。


(ど、どうしよう?)


 1人困惑していると、渦を作っていた魚達がいつのまにか居なくなっており、そこには縫い包みだけが留まっていた。


(アーニャ、あなたはこれをどうしろと?)


 伝わるかどうか判らないが、じぃとアイコンタクトを取ってみた。


(付け直して欲しいって事かしら?)


 そう思って近づくと、縫い包みは離れて行った。


(、、、持っていてって事かな?)


 私はリボンを畳んで右ポケットに入れた。

 そういえば、今の私はパジャマを着ているのにもかかわらず、濡れて張り付くような不快感が無い。これも夢だからだろうか。


 縫い包みの黒いビーズで出来た目は、水面上から注がれる光で青く輝いていた。その瞳をじっと見つめていると、いきなり水面から大きな手が伸びてきて、縫い包みを掴んで引き上げて行ってしまった。

 あっという間の事だった。拍子に立った泡だけがそこに残って、静かに消えて行った。


(アーニャ!)


 ハッと気が付いて手を伸ばしたが、当然その右手は届かない。

 涙腺が緩んだのを感じて、涙を拭うためその手を引っ込めようとした時、またしてもあの手が現れて、今度は私の手を掴んだ。

 驚いて反射的に引っ張ってしまったが、その手はビクともせず、こちらを引き上げた。


 勢い良く水面から出ると、そこは見慣れた私の部屋であった。


(、、、あ、れ?)


 伸ばされた右手の先には、何も無かった。


(夢から、覚めたってこと?)


 首を傾げ、自分の右手をじっと見つめる。そしておもむろにその手をポケットの中に突っ込んだ。


「今も、夢?」


 ポケットの中から取り出した水玉のリボンを見つめて、しばらく呆然としていたが、思い立ってお風呂場へ移動し、洗面器に水を溜め、顔を付けた。


「、、、ゴボッ、ゲホッ、ケホッ。

 っう、息出来ないじゃん! 」


 夢から覚めた事を確認した私は、そのまま顔を洗って歯を磨き、昨日買ったばかりのピンクのワンピースに着替えた。

 ついでに昨日着ていたものと、パジャマを洗濯機にかける。


「2日連続だけどサンドイッチで良いよね。」


 朝食を終えた私は再び歯を磨き、テレビの電源を入れた。


「マジメモ見よ。」


 マジカル・メモリーズ、略してマジメモは私が今ハマっているアニメの一つだ。毎週日曜日朝10時から放送しており、用事がない限り欠かさず観ている。もちろん、用事がある日は録画をしっかり取っておいている。


「始まった!」


 マジメモは絵本の国のお姫様が、絵や文字が剥げてしまったり、ページが破れてしまったりした絵本達を知恵と魔法で治して行く物語である。

 今回治す絵本は、海に沈んだ少女を船乗りの少年が見つける物語であるようだ。


「、、、夢に似てる。」


 テレビに映る、その青い色とピンクの魚のコントラストは、あの夢に出てきた光景そっくりだ。

 少年が腕を伸ばし、少女の手を掴んだその瞬間。画面が真っ白になった。

 そして、再び最初の場面に戻る。どうやらこの絵本はこの続きのページが破れてしまったようだ。

 困った顔のお姫様がアップになる。


『大事なページが無くなってしまったのね、、、。私が続きを書いてあげる事もできるけれど、きっとそれは本当の貴方を変えてしまう事になる。それは貴方も、貴方を産んだ人も、望んでいないはず。』


 絵本はコクリと頷いた。


『だから、探しましょう。貴方の大切なものを。この2人の運命を。』


 お姫様は絵本を優しく開いて指差した。


『無くなったページは、前が18ページ目、後ろが23ページ目だから、全部で2ページね。

 さぁ、無くなったページを探しに、まずは海に行きましょう!』


「、、、海に行こう!」


 私は麦わら帽子を手に取った。

後編に続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ