手掛かり
そうとなれば『帰る方法がない』と言ったリュツイさんに直接聞いてみよう。
幸運なことに昨日のことについて今から報告会が行われる。
隣には補佐であるリュツイさんが座っている。終わったらすぐ聞けるようメモも用意した。
「時間になりましたので、昨日のテロ事件の報告会を始めたいと思います」
さて、諸事情はいったん置いといてやるべきことに集中しよう。
司会進行役はリュツイさん。
手には薄い黒い紙を持っている。
リュツイさんって色白だから黒が映えててとっても綺麗。初対面から思ってたけど全体的に色素が薄いから透き通るような美しさがある。
なにより美形だし。
この世界のヒトたちってみんな美形なのかなって思っけど違うみたい。
お世辞にもロットさんは、美形とは言えないし、ここ、会議室というより大学の講義室みたいな部屋には百人以上の人が座っているけど、ほとんど賢そうなおじさんばっかり。賢そうとは思うけどダンディとか思わない。
所々に綺麗なヒトがいるなあと思ったらディミータさんとルギオスさんだった。
なんだか、今日のディミータさん機嫌が悪そう……。チラッと見たら眉間にシワよってたよ……。
寝不足かな?
昨日、どこかに出かけていたからそのせいなのかな?
とか色々言っている私もかなり寝不足。
不安なことが多すぎて気付いたら明け方だったもん。人生初だよ。寝れなかったの。
あくび出ないように頑張らないと……。
「今回のテロ事件により会場で会った大広間は半壊。死者は少なくとも三人、負傷者数は五十人以上となってます。犯人の目星はまだついていません」
途端に寝不足のことなど吹き飛んだ。現実が一気に押し寄せてくる。
剥き出しになった壁の中、混乱する会場が次々に画像となって映し出される。
報告を聞いて胸が痛くなる。テレビの向う側の出来事じゃない。
すぐ近くで助けを求めている人がいるし、いたのだ。
「犯人の目的はおそらく韓紅花様の暗殺。これは我々平連に対する反逆。それは、この世界に対する反逆です。つまり」
「犯人の逮捕に協力しろってことでしょ?」
卓球玉のようにパンっとは強く言葉が弾かれた。
「そういうことです」
軽く頭をさげ肯定する。
なんだか怖い。空気がピリピリしている。
「まあ、どこの国も平連に属して平連第一だから協力するでしょ? 紅鏡の一族による統制。二千年前から望まれてきて会議でも各国……全会一致だった。今更、反対するなんて馬鹿な事言いだす国はないよね?」
ピリピリは伝染して空気を凍らす。
みんなディミータさんから目をそらしている。
「他に報告とかある? 犯人が使用した爆弾とか道具とか魔法とかの情報はある?」
「昨日の今日ですのでそこまでの情報はありません」
そう、と若干冷ややかな目でリュツイさんを見て答えた。
その目が別人のように思えて怖かった。
「えっと……被災地支援の方も皆様のおかげで今のところ問題はありません。
建物の修復は落ち着いてから検討する予定です」
手元の黒い紙をみてぎこちなく言葉を続ける。
「じゃあ、各自国に帰って情報が集まり次第対策を練るってことで今日は解散だね」
半場強引にリュツイさんをうなずかせすぐに解散となった。
ものの十分足らずで報告会は終了してしまいこれで本当にいいのか不安になる。
「韓紅花様、私たちも退出しましょうか」
ハッと顔を上げると部屋には私を含めて十人程度しか残ってなかった。
いそいそと荷物をまとめて部屋を出る。
いけない! 帰る方法を聞くんだった!
「あの! リュツイさん!」
「はい、何でしょうか?」
「少し私のことについてお聞きしたいことがあるんです。お時間の方大丈夫ですか?」
平気ですと言われたので場所を私の部屋に移して質問を開始する。
向かい合うようにしてソファに座ってじっとリュツイさんの目を見る。
「単刀直入に聞きます。本当に地球に帰れる方法はないんですか?」
硝子の向こうの薄い桜の瞳がおろおろ動く。唇を嚙み絞り出すような声で以前もお伝えしたように、と目をようやく伏せた。
「少なくとも私の知る限りでは異世界に行く方法はありません」
「行く方法は? それ行くことができなくても来させることはできるってことですか?」
「ええ、まあ……。召喚魔法と呼ばれるものですが」
「もしかしてですけど私、召喚魔法でこっちにきたんですか?」
「そ、それはありえませんよ!」
話を聞くと召喚魔法は主や主の眷属を呼ぶものでヒトを召喚することはできないらしい。あくまで召喚儀式として存在しているだけだで実用性はゼロ。
理由は、技術的な問題もあるが何より時空を超える魔法なんていくら魔力があっても足りないからだそうだ。
本当だとしたら運命の主様と言っていたことが矛盾する。
…………怪しいな。
でも、リュツイさんの様子からだと嘘を言っているようにも思えない。
そういえば……。
「ディミータさんから聞いたんですけど、私、空から降ってきたって本当ですか?」
正確には降りてきただけど。降ってきたってなんか天空の城みたい。
「あ、それはうそです。ロット様が話を盛っておられたのでそれに尾ひれがついたのでしょう。
本当は、森の中に倒れていただけですよ。覚えておられませんか?」
はい全く。森に倒れていたってのは初耳。もしかしたらそこに手掛かりがあるかも。
「ところで、異世界から来たということを誰かに話しましたか?」
「ええ……。ディミータさんとルギオスさんに……。言ってはまずかったですか?」
怒られるかなと思ったのにリュツイさんは首を横に振った。
「いえ。こちらについていけない部分もこれからたくさんあると思います。そんな時にご相談できるお相手を作るために異世界のことを話すなとは言いません。
ただ、言いふらすのはやめてください。何が起こるかわかりませんから」
リュツイさん……めちゃくちゃいいヒト! このヒトが補佐でよかった。
「一人というのは寂しいものですからね」
ボソッとリュツイさんの口からこぼれた言葉がなんだかとても寂しそうだった。
なんて声をかけていいかわからないまましばらく微妙な空気が部屋に滞る。
「自由に行き来できればいいものなのですか……」
「それなんですが」
「御姉様の旦那様がアスラン様?」
その反応デジャヴです。
「興味深い話です。もしかするとディミータ様のおっしゃる通り何処かに扉があるかもしれませんね。
わかりました。私が調査しておきますね。情報が入れば随時報告しますね」
リュツイさんは懐から手帳を取り出しメモを取る。
使っているペンも手帳もとてもお上品。
「みつかるといいですね、扉」
ニコニコっと笑いかける笑顔に違和感を抱いた。
「あの、仮に扉が見つかれば、私が役目を放棄してそののまま帰るとか考えないんですか?」
私が帰ったら世界は混乱するだろう。
紅鏡、紅鏡と騒がれている中、少なくとも私はこの世界に必要な存在のはずだ。
「確かにその可能性はあります。ですが、自由に行き来ができるのであれば普段はこちらで業務をこなし、休日は向うで過ごすということが可能になります」
なるほど。単身赴任的な感じね。
それなら両方に損はない。
「でも、なんでそこまでしてくださるのですか?」
私に徳はあってもリュツイさんには徳なんてない。ボランティアと一緒だ。
「貴女の気持ちがよくわかるからです。少し長めの昔話になりますがよければお話ししますよ」




