奇跡は本当に偶然なのか
運命の主様との契約によって私は魔法を獲得した。…………らしい。
目に見えて分かる変化じゃないからイマイチわからない。
あの後、[運命の間]から戻った私は二人に中で起こった話をした。
二人は目をまん丸にして奇跡だと言って喜んだ。
地球でもそうだけどなかなか祀ってるご本人に会えないらしい。
運命の主様も祝福してくださっているとロットさんは嬉し涙を流していた。
魔法についてはまだ未使用だけどあの日以降私は毎日ここの歴史と現代社会について学んでいる。
さすがにトップが無知って訳にはいかないものね。頑張らないと。
学んでいて気づいたのは地球の歴史と結構似ているところがある。比較しながら学べるからそんなに苦じゃない。
ペラペラと歴史について語ってくれた一番上の兄さんに感謝だよ。
また会えたら感謝の意を込めた兄さんが大好きな甘いお菓子でも作ろう。きっと喜んでくれる。
ああ、あと、もう一つビッグニュースがあった。
前に庭であったディミータさん。あの方、実はエルフ族とオーク族が一緒に暮らす国の王様だったの。
王様っていうと厳ついおじさんを思い浮かべるけどディミータさんは二十五歳の若さにして王位を受け継いだエリートさん。
現在二十八歳の独身。縁談の話は山のように来ているけど本人にその気がないからなかなか進まないみたい。
早くしないと婚期逃しちゃうよ。
まあ、私には関係ないけどね。
他人のことは考えるのやめて今日はもう寝よう。
放置されてた二週間が嘘のようにこの一ヶ月は忙しかった。
平連の会議により私の戴冠式(なんでこんな言い方なのかは私も知らない)が一ヶ月後と決まってから最低限必要な知識を叩き込まれる毎日。
朝から晩でみっちり勉強すればもうへとへと。
座ってやる勉強はまだマシだけどマナー講座が疲れる。精神的にも。
一応、姉からマナーは習っていた(正確には叩き込まれていた)から基礎はできているみたいだけど完璧じゃないらしい。
「紅鏡の一族ならこれぐらい出来なければなりませんっ!!」
ってアルプスの少女にでてきそうな性格がキツいオバサ……マが超音波を発しながら指導するからほんと……疲れる。
だいたい、紅鏡の一族ってなんなのよ。違うって言ってるのに。
あれ? でも、運命の主様も私の事紅鏡の一族って言ってたような……。
あー! もう! わかんない!
はあ。考えても仕方ない。寝よう。寝なきゃ。
だって、明日は戴冠式なんだもの。
目の下にクマがあったら最悪だもんね。
あーあ。これが全部夢ならいいのに。
戴冠式はお昼の三時開始。
それなのに準備のために朝早くから起こされた。
眠い目をこする暇もなくメイドさんたちに服を脱がされ、朝風呂スタート。
頭も体もものすごく丁寧に洗ってもらった。自分でも出来ることなのにやってもらうのは申し訳ない……。
お風呂からでたら高級エステのような部屋に案内され全身オイルマッサージ。
連日の猛勉強の疲れが溶けだす心地良さ。ここで私が二度寝したのは言うまでもない。
目が覚めると前もって衣装合わせした赤を基調としたドレスに着替えさせてもらった。その時点で既に姫君。
ここからさらに化粧と髪をセットしてもらうともう姫オーラでまくり。
断っておくけど私、ナルシストじゃないからね。
だけどこれだけは断言出来る。
鏡に映る自分超可愛い!!
メイド長さんにもお美しいですって言われちゃった。
支度が終わるとロットさんと最後の打ち合わせ。
今日の今日まで知らなかったけどロットさん、実は現在の平連の会長なんだそうです。
リュツィさんは副会長でロットさんのサポートをしているそうです。
ロットさんから会長の証である紅鏡の冠を貰い、私が正式な平連の会長に任命されるというのが今日の戴冠式の内容。
そして、一時間前に迫った現在。緊張が半端ないんですぅ…………。
心臓が口から出て弾けそう……。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
したくなくてもしちゃうんですよー!! さっきチラッと会場見たらヒトがうじゃうじゃいたんだもん。あれをみて緊張しないほうがむしろおかしい……。
「平気だって。冠貰ったらあとニコニコ手、振っとけばいいんでしょ? 心配いらないって」
そうだけど……。ん? え? 私誰と話してるんだろう。
キョロキョロと部屋を見渡しても誰もいない。
まさか、幽霊!?
「上だよ上」
上?
「一ヵ月ぶりだね。からちゃん」
コウモリのような体制でニカッと笑い手を振ったのは
「ぇぇぇぇぇええええええ!?
う、うう運命の主様!?
なんで天井からぶら下がっているんですか!?」
「特に意味は無い。強いて言うなら印象的な登場がしたかったから」
ひょいっと空中で一回転して私の前に降り立ったのは間違いなく運命の主様。
前回あった時とは違い髪は整えられているが、ヘンテコな服装はそのままだ。
「あの、なんでこんな所にいるんですか?」
「簡単だよ。今日はからちゃんの戴冠式でしょ? 私たち主はこういう世界を動かすような行事にかならず呼ばれるの。で、招待されたから来てあげたの。
でも、暇で暇で仕方がないからテキトーにぶらぶらしてたところ」
なんだか自由で気楽だな。羨ましい……。こっちは緊張で押し潰されそうなのに。
「んー……それにしても不思議だよねえ。
なんで今頃、紅鏡の一族がこっちに戻ってきたんだろう」
こちらのことはお構い無しに運命の主様は私の顔をじーっと見つめる。
「誰かがなにか仕組んだのかな?」
背筋に寒気が走る。
「仕組んだってどういうことですか?」
「簡単に言うと誰かがこっちに召喚したってこと」
よぶって……それ王道の異世界転移パターンじゃない。
「だけど、そんな儀式やるなら私か空間が絶対呼ばれるはずなんだよ。アイツがこっちに来た気配がなかったからそんな儀式行われてないはずなんだけどなあ」
「空間って?」
「私の朋輩だよ。
空間を司る主でいろんな世界を旅をするのを趣味にしてる。
今日の戴冠式にも呼ばれてたけど眷属たちしか見てないからどっか別の世界をほっつき歩いてると思うよ」
なんか地味にショック。
招待したんだから来てくれてもいいと思うのに……。
「ほんと、何もおこんなきゃいいんだけど」
どかっとふかふかのソファに座る主様。女の子というよりヤンチャな男の子のよう。
私も主様の向かいのソファに女の子らしく座る。
「何か起こる可能性があるんですか?」
「まあね。本来ここに居ないはずのからちゃんがいるってことはどこかで運命が捻れてしまった可能性があるんだ。そうなるとこの前話した契約の代償のように必ずどこかで修正が入る。修正ならまだいいんだけどそれが最悪の可能性もあるから気を付けておいて。
これは、運命からの警告ね」
警告ねと言った時主様の瞳が金色に光った。あまりにも光り方が不気味で心臓がキュッと締め付けられた感覚がした。
部屋の空気全体が私に警告を示すように重くのしかかる。
コンコンコンっとリズミカルなノックが聞こえたのが救いだった。あのままいれば私は空気に押し潰されていたかもしれない。
「韓紅花様。そろそろご準備の方を」
いよいよ、私の初仕事が始まる。




