魔法は契約で
不安しかないまま二週間が過ぎた。というより過ぎてしまった。
ここに来た二日目により詳しく私の置かれた状況を説明してもらって以降、今日まで私はまともに人と会話をしていなかった。
毎日欠かさず庭に通ったもののディミータさんにはまだ会えていない。
さてさて、私は今空飛ぶ馬車の中にいます。
ロットさん、リュツイさん、私の三人で馬車に乗ってます。馬車自体中は狭くはないはずなのですが大柄なリュツイさんが隣に座っているせいかなんだか圧迫感があります……。
行先は運命の主の宮。○○の主というのはこちらの神様。宮は地球でいう神殿です。
運命の主は、名前の通り運命を司る主だそうです。個人の運命から会社や国の運命を操作出来ると考えられているようです。
宗教的なものが強いため私のことを報告しに行かなくてはいけないようです。
ただ、正式な報告はもう少し先になるとのこと。今日はとりあえずの挨拶だそうです。
ついた宮とばれる神殿は、意外に森の奥にあった。馬車の中で一番信仰されている主って言っていたからてっきり街の中にあると思っていたけど違った。
でも、宮は大きくて東京ドーム五個分はある。東京ドームいったことないからわかんないけど。
中に入って見るとヨーロッパの教会みたいに豪華。天井は高いしお祈りに来たヒトのために長椅子がもうたーくさんたあーくさん設置してある。
そして、ステンドグラスの中心に金色に輝く円が埋め込まれている。これだけは、透けてないので、何か別のものなんだろう。
聞くとここでは一日人組限定で結婚式を行っているらしい。
「王族の方の結婚式は国や種族は関係なくかならずここで行われるのですよ」
なんと! それでこんなに椅子が沢山あるのか…………。
「本来、立ち入れるのはこの[礼拝の間]までですが、今日は特別にこの奥にある[運命の間]に入ります」
そう言うと魔方陣らしきものが描かれたとデカい扉がゆらっと現れた。
何を言っているのか理解できないと思う。一部始終を見ていた私ですら理解出来ていないもの。
リュツイさんが手を左から右にスっーと動かした。その直後、ゆらっと例の長椅子の上に現れたの。
動かすときになにか言っていたような気がするけど聞き取れなかった。何を言っていたんだろう?
「さあ、姫君。あの扉の先が[運命の間]です。運命の主様が許可をしてくだされば光の階段が現れ中に入れます。中に入ったら自己紹介をして出てきてください」
だから、ロットさん、姫君って呼ばないでいただきたい。
しかし、光の階段とはこれまたファンタスティックなものですね。
けど、出てくるかなあ……。許可出ないと出てこないってこれまた酷だよ……。
おそるおそるゆっくり近づいてみる。扉は金色のラメみたいなのが混ざった白がかった光を放っている。
そしてその光が一瞬強くなり水のように流れ落ちながら階段を作った。
「「いってらっしゃいませ」」
深々とリュツイさんとロットさんが頭を下げる。
私はちょっとしぶってから一段目に足を置いてみる。うん。ちゃんと歩ける。感覚的には大理石のような硬い感じ。
着ているドレスが上がるときに邪魔になるので両手で裾をつまみながら一歩ずつ上がっていく。
扉は私が上がるのごとにギィーと音を立てて少しずつ開いていき私が目の前に立ったときには完全に開かれていた。
「それではいってきます」
後ろを振り向き下にいる二人に会釈をしてから中に入った。
眩しい白い光に包まれて降りた場所は先程の[礼拝の間]とは真逆の場所だった。
なんにもないの。なーんにも。シンプルすぎる部屋。
なんだかこの部屋、夢の国の雪の女王が造ったお城に似ている。無機質な感じが。雪の女王のお城とは違って部屋は扉と同じラメ入りの光を放つ半透明の物質でできている。
はっ! 部屋を観察している場合じゃない。自己紹介しなきゃ。
「私、地球の日本から来た美濃羽 韓紅花と言います! 今度、平連……世界平和連合のトップになります! 不束者ですがよろしくお願いします!!」
こ、こんなので大丈夫かな? 誰もいないのに独りで大声出すのってなんだか恥ずかしなあ。
「それにしてもちゃんとお仕事できるか心配だな」
「大丈夫だよ。人生なるようになるから」
私とは違うもう一つの声が聞こえたので顔を上げると女の子がこっちを見ていた。日本人ぽい黒髪に黒目。
リュツイさんもそうだしメイドさんたちも異世界なんだなと思わせる髪色をしていたからなんだか安心する。
ロットさんは、オジサ……ゲホッゲホッ! だから、色素が抜けててよくわかんない。瞳は……あんまり見てないからわかんないや。
「へえ〜珍しい。私が見えるなんて。ここに来ても見えないやつがほとんどなのに。やっぱり紅鏡の一族の血を引いていることだけはあるね。
そうだ、なにか困っていることはある? 私に出来ることがあるなら力になるよ。
今日は気分がいいからね」
スタスタと素足で歩いてきたその子はニカッと笑った。髪はとかしていないのかボサボサだけど上に着ている半透明の服には凝った刺繍が入っている。その下に着ているラフなTシャツは見なかったことにしよう。組み合わせがおかしすぎる。
「名乗るまでもないと思うけど私、運命。よろしく」
ええ!! 主っていうからもっとこう髭の生えたおじいさんかと思っていたけどまさかこんな中学生ぐらいの子だったなんて……。
「で、なにか困ってることはある? 私でよければ力になるよ」
「はあ…………」
正直、困ってることがありすぎて何をいえばいいのか分からない……。
「ん? もしかして困ってることとかない感じ? 別に願い事でもいいんだけど」
「いえ! そうじゃなくて困ってることがありすぎて」
「あ、なるほど」
ポンっと手を打ち何かを考えるように顎に手を当て運命の主様がうーんと唸り出す。
「からちゃんはどういうヒトになりたいの?」
一瞬、ほんの一瞬だけ瞳が金色に光ったように見えた。
「姉さんみたいな人……かな」
考えるより先に口が喋ってた。
「お姉さんみたいなヒト?」
「はい。姉はかっこよくて周りを引っ張っていける人なんです」
「ふーん。からちゃんはそのお姉さんになりたいの?」
「いえ、そうじゃなくて姉のようにみんなを引っ張っていける人になりたいんです。
それにただ引っ張るだけじゃなく正しい道、犠牲を出さず平和へと導いていける人になりたいんです」
私の姉。私とは違い父や母から受け継いたであろう長い黒髪に日本人には珍しい瑠璃色の瞳をもっていた。
艶を織り込んだ黒髪を風になびかせながら歩く姿はかっこよかった。昼はもちろん夜は絵に描いたように美しかった。
資格取りが趣味の姉は、仕事もよくでき海外にも行くことが多かった。なんの仕事をしているのか詳しくは知らないけど書類などを制作している姿は見とれてしまう。
私もそんなふうになりたい。
「なるほどね。叶えられない願いじゃないね。ただし」
グイッと顔を近づけられる。
鼻と鼻がくっつきそう。
「それに見合った代償が発生するけど大丈夫?」
「代償?」
「そ」
顔離してくるっと背を向けて彼女は話を続ける。
「私の力は不完全なの。願いを叶えてあげれる代わりに私の意志とは無関係に願い事に見合った代償が発生するんだ」
どうやら“命”以外の代償が一生の中で自動的に支払われるらしい。
「私が操作すれば代償がどんなものかをある程度絞ることができるよ」
いや、だとしてもそんなギャンブルなんてしたくないよ。兄さんや姉さんも口を揃えてギャンブルはやるなって言ってたもん。
「心配になるのはわからなくはないけど私と契約して損は無いと思うけどな」
頬に手を当て首を傾ける。
「損がありありなんですけど」
「ま、そうなんだけど、なんて言うのかな。
からちゃんにはもともとそういうリーダーになれる素質があるの。
でも、それが今は封印されてるって感じなのかな。だから、私がその封印を解き放ってあげることによって運命を切り開いてあげれる。
あくまできっかけを作るだけだから代償も少なくなる。そのきっかけを上手く利用できればからちゃんは損をなかったことにできるぐらい成功できるってわけ」
きっかけを作るだけ……。
代償は小さい……。
「封印をとけば魔法も使えるようになるよ」
魔法!? 魔法が使えるの!?
「魔力も普通よりあるみたいだから使えて損はないと思うんだけどなあ……」
スっと右手を差し出される。
「この手を取れば契約が成立する。あとは、からちゃん次第だよ」
私にどんな損が訪れるかはわからない。でも、この手を取れば少なくともこの世界の役に立てるはず。
ふと頭に過ぎる兄や姉の顔。
思い起こせば私は皆に守られてばかりだった。
だけも、そんな家族は異世界にはいない。私ひとりでなんとかしなくちゃいけない。
「契約成立だね」
にんまりと彼女は微笑んだ。




