宮巡り1
私は今、再び運命の宮に来ている。
前回とは違い宮への入口はは白い布に覆われ中が簡単に見られないようになっていた。中は中で儀式用の飾りがあちらこちらに飾られている。一番奥のにある祭壇には、お供え物らしきが並べられその一番上には王様が座るようなクッション以外が金で作られた椅子が置かれている。
厳粛な空気の中、お偉い神官的な人が祝詞を読み上げる。その近くで綺麗に着飾った女性が音楽に合わせて舞を披露している。
みんな真剣な顔で祭壇を見ている。きっとこれは運命様をお迎えする儀式なんだろう。
(そのご本人は退屈そうにあくびしてるんですけどね)
私だけにしか見えてないことをいいことに膝を立てて座り大きなあくびをさっきから連発している。
「ふぁ〜…………。あーもう来たからやめてくれていいのに……ふぁ〜あ……」
あまり見ているとあくびが移るのでできるだけ見ないようにする。
「ポルターガイスト現象でも起こしたらやめてくれるかな……うん、そうだ!」
勢いよく運命様は椅子の上で立ち上がる。そのせいで椅子がガタッと音を立てる。その音は祝詞を上げる声よりも音楽よりもよく響いた。
ざわざわとした空気が広がっていく。
「誰だ……こんな大事な儀式で音を立てる馬鹿は……」
「前の方から音がしたぞ……」
「運命の主様の機嫌を損ねたらどうするのだ……」
ガタッ
今度はわざと動かした用で運命様は椅子の横に立って片方だけ口元を上げて笑っている。
今ので気づいたようで何人か椅子を凝視している。
ガタッ、ガタガタッ!
今度は激しく動かしたので全員気づいた。
注目が集まる中運命様は椅子に座り足を組む。
『いつまで続けるのだ?』
頭に直接声が響く。
どうも声を発しているのは、運命様らしいが威厳のある重々しい声。まるで別人だ。
『我は運命の主。用があるのだろう? なら早速、用件を聞こうではないか』
「運命様か……?」
「お、俺! 初めて聴いたぞ!!」
「おめでたい……」
再びざわざわふるホールをふんっと満足そうな笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。
「え、ええ、それでは」
祝詞を上げていたヒトは懐から紙を取り出し(卒業式の校長先生みたい)小さく咳払いをする。
「我らが運命の主様に支えられてはや」
『短く簡潔に百四十文字以内で』
「…………この度、我らのこの地に紅鏡の一族が降り立ちました。つきましては、その紅鏡の一族である韓紅花様に祝福をもたらして下さいませ」
運命様はこの短い間も退屈だったようであくびをしていた。
だが、言葉が終わると同時に手をサッと動かした。眩い金の光が私の上から降り注ぐ。
「 」
ニコッと運命様は笑かけて何かをいった。
残念だけど周りの歓声がうるさかったし頭に響く声じゃなかったからなんて言ったかは聴き取れなかった。
儀式が終わるとすぐにパーティー。
休む暇なんてない。
にこにこ笑顔を振りまいてお偉いさん方の顔と名前を覚えるのも大変なのに次から次へとヒトが絶え間なくやってくる。
話の内容なんてみんな似たりよったりだからつまらなくて退屈。運命様みたいにあくびが出ちゃいそうだよ。
でも、退屈なのは平和な証。
前みたいにテロみたいなことが起こってないってことだからね。頑張らないと。
この後はもう寝るだけ。
明日、日を改めて運命様に会いに行くからもう少し頑張らないとな。
「韓紅花様、少々お休みください。私が対応しておきますので、ルギオス様の隣に行かれてはいかがですか? あの方の隣なら誰も寄ってきませんしルギオス様もお疲れのようですから二人で息抜きをしてきてください」
にこっとリュツイさんは優しく微笑む。
「あ、じゃあ……お言葉に甘えて……」
リュツイさんにそう言われたのでささっとルギオスさんの方に向かおうとした。確かにルギオスさんは疲れたような笑顔を浮かべている。
「からちゃん疲れた顔してるね。どう? 僕と休憩がてらお話しない?」
「あ……ディミータさん…………」
うう……嫌なヒトに捕まったよ……。
ディミータさんはにこにこと(なにか企んでるような笑顔)私に話しかけてくる。そして、行く手を阻む。
ああ……ルギオスさんがお偉いさん方とどこかに行っちゃう……。あ、行っちゃった……。
「もしかして、ルギオスの所に行こうとしてた? それなら僕、悪いことしちゃったね。ごめんね」
全然心のこもっていない謝罪をディミータさんは口にする。
「まあ、でも、女の子に慣れてないルギオスより僕の方がエスコートもトークも上だから結果オーライってことで気にしないで?」
そう言ってディミータさんはさりげなく私の腰に手を回してきた。そして、グッと体を密着させてくる。
「ねえ、この前の続きしようよ? もちろんここじゃ人目に付くから別の部屋で……ね?」
顔が近づいてきたからキスされるんじゃないかって思ったら耳元でそんな言葉を囁かれた。
ディミータさんは、私にはもったいないぐらいのとてもいい顔をしているけどその笑顔はなんだか……怖い。
そうだ。この目は、テレビで見た野生の獣が獲物を狙っている時の目だ。
「大丈夫。何も怖いことはないからさ。僕に全てを委ねて?」
目を逸らしたいのになぜかディミータさんの輝く金の瞳から目をそらせない。体が……動かない。何? これ? 金縛り?
「おい、アホ。何してる」
と声がしたと同時に強い衝撃が肩に落ちる。その瞬間に体の力がすっと抜け楽になる。
「まーた邪魔が入ったよ……。ルギオス、僕の恋の邪魔しないでよ」
「なにが恋の邪魔だ。無理やり心変わりさせるのが恋なのか?」
と言いながらルギオスさんは私の前に出る。
「ヒトそれぞれだよ。それに僕のコレはかけようとしてかけてるんじゃない。女の子たちが勝手にかかっちゃうのさ」
「あー、はいはい。今回はそういうことにしといてやるよ」
面倒くさそうにルギオスは手を顔の前でひらひらふって顎であっちに行けと言う。
「じゃあね、韓紅花様! 次は邪魔が入らないところで続きをしようね!」
投げキッスをしながらディミータさんはヒトが大勢いる方へ消えていく。
それを見ながら私は心のメモに『ディミータさんと二人きりにならない』と赤字で書く。あの獣のような瞳は思い出すだけでゾクッとする。
「韓紅花様、大丈夫ですか?」
ルギオスさんが眉を八の字にして心配そうに顔を覗き込む。
「私は平気です。お気使いありがとうございます」
「なら良かったです。アイツは少々、遊びぐせがあるので気を付けてください。それから、何があってもアイツと目を合わせてはいけません」
「目を合わせてはいけないってなんだかメデューサみたいですね……」
するとルギオスさんが真剣な目で私を真っ直ぐ見つめる。
「ある意味、メデューサより厄介です。アイツは魅了という能力を持っています」
「魅了?」
聞きなれない言葉。魅惑とか魅力なら聞いた事あるけどな……。
「アイツは種族、性別、年齢を問わずありとあらゆる生き物を意のままに操ることが出来るんです。それは、アイツが持つ魅了という力のせいなんです。
アイツの魅了にかかったら最後。心でいくら逆らっても体はアイツの命令に従うことになります。
例えばアイツが誰かを魅了してその誰かに『命をたて』と命じればその誰かは命を自らたちます。絶対に」
ルギオスさんの目は冗談を言っているようには見えない。もし、それが本当ならディミータさんは悪魔になることが出来るのかもしれない。
「韓紅花様、アイツと二人きりなってはいけません。本当に何をされるか分かりませんから」
私はもう一度心のメモを取り出して太字&赤文字で『ディミータさんと二人きりにならない!!』と書いた。




