カギはどこに
独りは寂しいですからねと微笑んだ顔が頭にこびりついて離れない。
とっても寂しそうで胸が苦しくなった。
「なんてたいそうなことを言いましたが、実際は自分のためなんです。
恩師のためと思ってやらないと自分自身を保てないんです」
それでもこうして今の地位にいることは間違いなくリュツィさんの努力の結晶だと思う。
私も親はいない。
だけど、寂しいとは思ったことはない。
私には家族がいた。家に帰れば“おかえり”の声が聞こえた。
それが当たり前だった。
私は本当に普通だったんだ。
特別な力もないし、特別悲惨な過去もない。のほほんと幸せに暮らしてきた。
最初、動揺しつつ非現実なことにわくわくしていた自分が恥ずかしくなった。
よく失ってから気づいたというけれどわからなくはない。家族といるのが当たり前だったあの時が一番幸せだったんだなと今になってわかる。
でなきゃこうして図書室で調べものなんてしてない。
調べるって簡単に言うけど気が遠くなりそうな作業を地道に続けている。
お城にある図書室でしらみつぶしで本を手あたり次第読んでるって感じなの。異世界についての本があればいいんだけどそういった本がないみたい。
だけどここであきらめるわけにはいかない。
代わりに私は童話や伝説を集めた本を読むことにした。
ここは地球と違って魔法がある世界。
だから童話や伝説が実際にあったことである可能性は十分ある。
だけど全然それっぽい話が見つからない。
図書室にかれこれ三日。まだまだ頑張るつもりだけどさすがに目が疲れた。
にしても不思議だな……。書かれている文字は見たことないものなのにすらすらと読める。
一ヶ月の猛勉強の時は、VR的な魔法道具をかけて映像を見て勉強してたから文字の勉強なんてしてないはずなんだけどなあ。
……だめだ。考えてたら眠くなってきた。
「ずいぶん眠そうな顔だね。ちゃんと寝てるの?」
「あ、いえおかまいなく……え! 運命の主様!?」
なんと声をかけてきたのはあの中学生みたいな主様。今日も相変わらずヘンテコな格好……いえ! なかなか個性的な服装ですね……。
「なにかお困りごと? もしかして字読めないとか? あ、でも私と契約して封印解いたから字読めるはずなんだけどな」
え……これって言っていた契約内容なの? え、これが私の魔法なの?
「あれ? どうしたの? 変な顔して」
「あの……運命の主様……」
「運命でいいよ」
「では、運命様。私の使える魔法というのはこれだけなんでしょうか…………」
ん? と目を丸くして私と本に交互に視線を移す。
それからやっと理解したような表情でニカッと笑った。
え、そ、それはどういう意味なんだろう…………。
「そんなガッカリした顔しないで! 大丈夫! 他にも魔法はあるから!」
よかったー!! 動物とおしゃべりとか水とか火とか操るのとかしたかったからガッカリしたけどそうじゃないんだ!
「でも、たぶん、からちゃんが思い描いているような魔法は使えないかも」
…………そこから先は聞きたくないような聞かなくちゃいけないような聞きたくないような感じがする。
「魔法についてどれだけ知識がある?」
魔法……本の中とか映画の中で得たイメージはあるけどちゃんとしたものの知識はゼロだな。
私は首を横に振る。
「魔法ってね、必ず属性があるの。
わかりやすいのが元素魔法って勝手に呼ばれるもの。水を使うものなら水属性、火を使うものなら火属性。そんな感じね。
でも、からちゃんの場合どの属性にも属さない無属性魔法のみ使えるの」
え、なに……それ……。
戸惑う私を気にせず運命様は話を続ける。
「空間に属するものさっきあげた水とかに+生物系の魔法をまとめて元素魔法って呼んでるみたい。
魔法は他にも複合魔法、召喚魔法などに分けられるの。
複合魔法は、元素魔法を複数使うものの総称。召喚魔法は私たちを呼ぶ儀式を指すの。
他にも○○魔法ってあるんだけどそれらに属さない無属性を紅鏡魔法って呼ぶの。
理解した?」
な、なんとなく…………。
まとめると
・元素魔法=単独で操る魔法
・複合魔法=同時に操る魔法
・召喚魔法=読んで字のごとく召喚する魔法
・紅鏡魔法=それらに属さない魔法
ってことだよね。うん。なんとなく理解した。
というか、またでてきたよ紅鏡ってワード。どんなけ紅鏡好きなのよ、この世界。
「紅鏡魔法の最大の特徴は、私たちの存在を完全認識でき会話することができるってことと紅鏡の一族しか使えないこと。
昔はそんなに世界のこととかみんなが理解してなかったからね。これ、結構重要視されていたの。だから、紅鏡の一族も重要視されていたってわけ」
なるほど。卑弥呼的存在だったわけね。
「紅鏡魔法は他にもあったけど……ごめん、そこらへん忘れちゃった☆」
なんか、最後に☆が付いていたような気がしたけど気のせいだよね。
気にしない。気にしない。
あ、でも待って。
それなら私、本当に紅鏡の一族なの? 地球で生まれ育ったのに?
それってとってもとおーってもおかしくない?
【んー……それにしても不思議だよねえ。
なんで今頃、紅鏡の一族がこっちに戻ってきたんだろう】
脳裏にこだまする声。
…………そういえば、戴冠式の日に運命様がそんなことをちらっと言っていた。
戻ってきたということは、向こうに渡ったってことだよね……。
「運命様! もしかして、こっちと地球を行き来する方法とかご存じですか!?」
「うん。知ってるよ」
やった!! これでとりあえず帰れる!!
脱ホームシック!!
「知ってるけどやめといた方がいいよ。というか絶対やっちゃダメなやつ」
暗闇に差し込んだ光が即座に遮られる。
「私の……というより私たち主の眷属になればあらゆる世界を自由に行き来できるようになる。
眷属になる代償はたった一つ。契約対象者の命。
そして手に入れるのは、悠久の時間と眷属としての地位だけ」
命……そんなものと取引したら元も子もない。
生きて行き来することが第一なのに。
「まー時空を行き来するのってそう簡単な話じゃないからね。
主や眷属たちが手引きしたら一回ぐらいは生きている魂を移動させることが可能だね。魔力をアホほど使うけど」
それは、リュツィさんも言ってたな。
主や眷属じゃないと無理なのか…………。
「そんなに肩を落とさないで! ほーむしっくだっけ? 家が恋しくなってるかもしれないけどそれと引き換えになにか楽しいこととかあるでしょ?」
楽しいこと……楽しいこと…………。
期待していた魔法もイマイチピンっとこないものだし、会議とかのお仕事もあんまり楽しいっていえるようなものじゃないし……うーん……ノーコメントでお願いします。
「ほら、恋愛に発展しそうなイケメンとか近くにいない?」
恋愛……。恋バナは好きだけど実際に体験したことないからわかんないよ。
少女漫画とかにある目が合うだけでドキドキっとかついつい目で追いかけちゃうとかないし……。キュンっとしたことも今のところないからなあ。
「な~んだ。つまんないの。恋をすれば世界は変わるよ! なんせ恋はヒトを狂わす魔法だからね☆」
キラッキラな笑顔でウィンクが飛んでくる。
また語尾に☆がついていたような……。
「ま、何か進展があったら教えてよ! また来るから!」
一瞬のうちに運命様は消えてしまった。
ゆっくり薄くなるとかじゃなくてパッと不自然に画面が切り替わったように目の前か消えた。
以前にお会いした時も思ったけど運命様って本当に運命の主様なのかな。
神様的な存在なはずなのにあれじゃあ、お友達と話しているようだよ。ぜんぜん心の余裕はないけど。
運命っていうからには気を悪くしたときに何されるかわからないから言葉を慎重に選ばないといけない。友達は友達でも気の使う友達。精神的に疲れる。
そういえば私、運命の主様についてほとんど知らないな。
こんなにたくさん本があるんだから一冊ぐらい主様について書かれている本があるよね。少し調べ物中断してそっち系の本を読んでみよう。




