勇者様と治療士。
「は?」
周りがまたざわつき始める、僕も思わず後ろを振り返った。
数秒後、一人二人三人と何人かが慌てて手を挙げる。
「わ、私は治療士ではないですが聖職者です!」
「俺は治療士をやってる!治療の事についてはなんでも知ってるぞ!」
「私だってっ」
「俺もだ!」
「そうか。他には、いないか?」
勇者様は真剣に眼差しで辺りを見渡す。
(ど、どうしよう。僕も一応治療士だけど、いや、でもここで手を挙げる訳には⋯⋯)
「⋯⋯そこの、お前は」
「っ」
うそ、だ。
「そこの、白髪のお前。背中に大きい荷物を持ってる」
どうして?
「ぼっ、僕はっ、違います!」
「いや治療士だ。匂いがする、薬の匂い」
「ち、違います!」
勇者様は人をかき分けて、僕に近づいてくる。気づいたら思わず後ずさりをしてた。
「私と、パーティを組んでくれないか?」
圧倒的な存在感とオーラ、目を逸らせない赤く燃える目、大剣。僕よりも、ずっと身長は低いはずなのにまるで見下ろされてるみたいだ。
「⋯⋯駄目か?」
なのに、まだ何処か幼さの面影もある。
「いや、僕はただお金を⋯⋯」
(稼ぎに、来ただけで)
「報酬なら、勿論働いた分は山分けにしよう。なんなら全部くれてやったっていい」
「え、ぜ、ぜんぶ?」
勇者様はこくっと大きく頷いた。
「でも、その、僕は治療士⋯⋯ですけど、全然凄い治療魔法は使えないです、し。僕じゃなくてもいいんじゃ、ないですか?」
「そうだな。確かに秀でてる者は大勢いるだろうけど、私はお前がいい」
男顔負けのセリフを、恥ずかしがる事なくそう言った。
周りの視線はさっきからずっと、僕と勇者様に向けられてる。僕に向けられる視線はとてもいいものじゃないと思うけど、それは自分が一番よく分かってる。
分かってる。
薬屋を継げないから、治療師の試験を受けて治療 師になったんだ。恵まれた兄のいる家に僕の居場所はなかった、どれだけ努力しても認めてはもらえない。だから家出をした。17歳、初めての家出。
「私はお前を選んだが、お前は何を選ぶ?」
「⋯⋯ぼく、は」
ずっと我慢してきた事は、なんだろう。もう何も我慢しなくていいんだろうか。認められたいと、必要とされたいと、思っていいんだろうか。
「⋯⋯僕は」
ゆっくりと、でも確実に勇者様に近づいた。太陽に照らされた茶髪の髪と燃える目。間近で見ると、ただの華奢な少女。
僕は手を、勇者様の前に出した。
「⋯⋯ありがとな、私はエルマだ。これから宜しく」
ぎゅっと握られたその手は、小さいのに固いマメと小さな傷が沢山の強い人の手。僕は、そっと握り返した。
「こちら、こそ。宜しくお願いします」
そして、僕は予想外も予想外の展開で王都で一番有名な勇者様とパーティを組む事になりました。
はじめまして、この度小説を書かせていただきます。ここに特に書く事はないんですが、とりあえず皆様が楽しめる小説を書いて行きたいです。拙い分ですが、感想やブックマークなど、少しでも面白いと感じて頂けるなら幸いです。