プロローグ
生きている者達は様々な理由で争う。
食料、資源、裕福な土地を奪うためだけに人間は同族同士で争うのだから魔族や獣人など人間にはない種族ごとに生まれ持った特性がある異種族と分かり合えるはずなどない。
その為ファルディールと呼ばれる世界では人間は同族だけでなく魔族、獣人などの異種族とも争いあっていた。
侵略された町や村は戦火にさらされただけでなく特に住民の女性たちは悲惨な末路を辿った…。
故にこの時代二つの種族の血を引き継ぐ半妖・半獣と呼ばれる混血児も数多に誕生した。
混血児の大半は親の種族の一員として属することを拒否され双方の種族のやり場の無い怒りをぶつけられる対象だった為混血児達は逃げながらの放浪を余儀された。
争いが長期化し双方の軍が疲弊するどころか互いの領地も荒れ、このままでは共倒れであると気付いた人間の王、魔王、獣王との間で休戦宣言が交わされ互いの住処を分けることで異種族との間で度々問題は発生しているが戦争ほどの大きな争いは60年近く起きてはいない。
そんな中、人間領にて封印され長年行方が分からなかった上位魔族の血を濃く継ぐ半妖の娘が発見され人間領から魔族の領地にいる"彼女"の実父に返還された。
実父の元に帰された"彼女"は封印を解除、腕や足に打たれた封印の杭で出来た傷の手当てをされたのだが…。
「"彼女"はまだ眠ったままか?」
魔族の領地にある魔王城の王座の間にて白い肌、長い銀髪を一つに結びにした髪型、血のような紅い瞳、尖り耳の如何にも魔王といった容姿の男が王座に腰掛けながら目の前で跪いている漆黒の重厚な鎧を纏った男に問う。
「はい。レイドによれば偶に眼を開くことはあっても意識はないそうです…」
魔王の前でさえ兜を外さぬ男、通称"死神隊長"と呼ばれているエルヴィス・カルティランは魔王に報告した。
封印を解かれてから半年間、"彼女"の意識は未だ戻らず"彼女"の実父であり魔王の側近を務めるレイド・ソーティアは娘が返還されてからというもの娘を静養させている別荘に籠っているのだ。
彼がすべき書類処理の仕事は別荘で処理しているのだが他の魔王の護衛などの仕事はエルヴィスが代行している。
「早くレイドに職場復帰してもらうためにも彼女、"白金の魔女"には早く目覚めてもらいたいものだな」
魔王のこの言葉にエルヴィスは何も返さなかった。
『未だ世知辛いこの現実世界で目覚めぬ方が彼女にとって幸せなのではないか?』
兜で彼の表情は一見分からぬが兜の下の彼は複雑な表情をしながら考えていたからだ。
この会話から5日後、最恐の半妖"白金の魔女"と呼ばれた彼女の意識が戻ることをまだこの2人は知らない…。