夏がくる
夏がきた。
私たちの、本番だ。
一身に浴びるスポットライト。
からだがあつくて、それでも頭は澄んでいる。
足裏にすべる床の感覚。
全てからだが覚えている。
この足はどのように。
この右手はどのように。
会場は静まり返っている。
中継のビデオカメラの視線を感じないふりをする。
眼鏡を外した私は無敵だ。
だってなんにも見えないのだから。
ぼんやりとした世界には、同じ舞台に立つ先輩がいる。
わかるのはそれだけだ。
おおもとは変わらない。
いつだって冷静で、さめていて。
それでも隣で感じられたのは熱だった。
重ねるように呼吸する。
はじめよう、この三分間。
私は音とともに一歩前に出る。