立ちふさがるは強大な敵①
リトル街から東の方角。水流の丘付近で春香はゆっくりと歩き回っていた。ふと、水龍の丘を見る。丘のてっぺんから滝がザーッと流れ、川になり、南の方へ続いている。水龍の丘はかつてこの世界を守る四神の一つ、「水龍」が眠っていると言い伝えられていた。春香は水龍の丘をじっと見つめる。そして、「水龍様、どうか、私に力をお貸しください。」と祈っていた。
空を見上げれる。その色はけして、夜空とは言えない禍々しい色をしていた。一刻も早く、厄災を払わなければ。
大きな叫び声が響いた。春香は川の方を見ると、大きな人影が。しかし、人ではない。
「魚に、人の腕と足が、半魚人・・・・・、亜人!」
額と思わしきところには、先ほどの亜人と同じように気が付いていた。亜人は青龍の丘に向かって歩いている。
「青龍の丘に何を、とにかく、正気に戻さないと!」
さっきの亜人よりは小さそうだ。しかし、春香は油断していた。
春香は薙刀を手に持ち、亜人の元へ向かう。亜人は春香に気づき、川の水を飲む。春香は走りながら薙刀を構える。しかし亜人は口の中から物凄い勢いで水を春香に向け噴出した。水は春香に直撃し、水の勢いに負けた春香は吹っ飛ぶ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
地面で一度はね、また地面に転がった。
春香は土まみれになったが、また立ち上がり、亜人に向かって走り出した。また亜人が水を噴出する。春香は横にずれて走り、水をよけることができた。亜人に近づき、とびかかる。薙刀を振り下ろすが、亜人は思ったより大きく、春香を叩き落とす。亜人は軽く叩いたつもりのようだが、」春香にしてはかなり痛いようだ。
春香の手から薙刀が離れ、春香は地面に叩きつける。立ち上がろうとすると手が震えて立ち上がれない。春香の頬には一筋の涙が流れた。
リトル街から西の方角。誰も入ったことのない森があった。そこは名がないため「名無しの森」と呼ばれている。そんな森は人が来ることはめったにない。しかし、今日はどうやら森の中に一人だけ人間が歩く。ミアだ。
「ふふふ、隠れるならこういう誰も近づかないところよね。さっさと見つけ出して恵瑠に突き出さないと!」
と歩いていると、何かのうなり声が聞こえた。ミアは指を鳴らし、ほうきを手に持つ。ほうきをまたぎ、シュッと上に素早く浮く。さっきまでミアがいたところには何が目にも止まらぬ速さで駆け抜けていった。
「‘mud circle‘」
呪文を唱え、罠を仕掛ける。それから、「‘stone gravel‘」ととなえ、石をばらまく。何かをとらえると、それに向かって石を飛ばしていく。そうすると、ミアが作った沼にターゲットがかかった。
その姿は虎・・・・・いや、人のような顔に長く鋭い爪が生えた人の手、虎の体がかなりゴツイ。そして、やはり額には例の気が。
「やっぱり、亜人ね。‘sand storm‘」
砂嵐が起こり、亜人が上に舞う。砂嵐が止むと亜人は地面に落ちた。ミアは亜人のそばに降りるとローブのポケットから一枚の人型の紙が出てきた。
実はこれ、リトル街に向かう途中に春香が恵瑠の魔力を込め、恵瑠以外に配っていたのだ。
ミアは紙を上に掲げると、そこから光の雷が出現し亜人に当たる。亜人の額の気が消えた。
「よし、捜索再開よ。」
とミアはまた歩き出す。しばらく歩いていると、ミアは視線を感じた。しかし、周りを見ても何かがいる様子はない。ミアは気のせいだと判断し、再び歩き出した。
・・・・・・・・・誤った判断は、命を奪う。
ミアは自分の元に何かが突進してくるのに気付いた。しかし、気づいたときは遅かった。
ミアの横を何かが通り過ぎていった。その瞬間、ミアの腹部が裂かれた。そこには、肌が見え、5本の大きな切り傷が見えた。
「ううぅっ!?」
ミアは裂かれた腹部を抑え、うずくまる。すぐに立ち上がり、周りを見渡す。敵の攻撃はまた来る。ミアは再び突進してくるものの音を聞き取り、よける。しかし、敵の動きが速すぎて見切ることができても完全によけることはできない。
ミアは突進してきた生物がよける時に目にとらえていた。はっきりは見ていないがそいつのは・・・・。
さっきの亜人と同じ姿であったが、さっきよりも数十倍の大きさをしていた。