地獄は更に重くなる
翌日の休み時間、先生と保健室でいじめについて話した。
「そんなことがあったのか。わかった。先生がしっかり言っておくから、もう大丈夫だ。」
「はい。ありがとうございます。」
次の日、エルゥは下駄箱でまた上履きがなくなっていた。「またあいつらか。」と思いつつ近くのごみ箱を開く。上履きはあったが、その上履きはボロボロで、落書きがされていた。
‘‘死ね‘‘
‘‘学校来んな‘‘
‘‘生ごみ‘‘
なんてことがたくさん書いていた。嫌な予感がした。とりあえず、その上履きを履いて教室に向かった。
戸を開けて「おはよー。」と挨拶をするが、誰も返してくれない。席に向かおうとすると、「ねぇ。」と声をかけられた。声の方に振り向くと、この間のいじめっ子たちだった。
「あんださぁ、何で先生にチクっちゃうのよぉ?」
「先生に放課後呼び出しされてなっが~い無駄話されたんだよ?」
エルゥは静かにいじめっ子たちを見た。
「無視してんじゃないわよ!」
いじめっ子のリーダーらしき子がエルゥを蹴り飛ばした。
後ろ壁に背をぶつけ、大きな音が響く。
「ちょっと~、エルゥ~やめてよ~。」
「何事だ?」
教室の外で歩いていた。先生が駆けつけてきた。
「せんせ~エルゥが暴れてるんですよ~。」
「やめさせてくださいよ~。」
先生はエルゥをジ~っと見ると、
「いい加減にしなさい。エルゥ。」
とだけ言って教室から出ていった。
エルゥは絶望した。今先生が見た状況、エルゥが壁に座りかかり、いじめっ子たちを見ていた。これを見れば、すぐにエルゥは被害者だということがわかったはずだ。それなのに、エルゥを軽く叱るだけで、あとは何も言わなかった。エルゥは確信した。先生はもう、味方ではない。クラス全員もだ。誰一人、エルゥを助けようとはしなかった。当然だ。助けたら、今度は、自分の番になる。それは、当たり前なことだった。
もうエルゥには、味方がいなかった。
それからは、机に「死ね」とか「ごみ」とか落書きされて、教科書を盗まれて、隠されてだったが、いつしかそれは、暴力の嵐となった。カッターで腕や足を切られたり、顔や腹を思い切り殴られたりされた。もちろん、先生も、クラスの人も、見て見ぬふり。
変わったのは学校だけではなかった。家庭でも、環境が変わり果てていった。エルゥは誰に話しかけても、適当に返事をされたり、今忙しいから、とエルゥを避けたりされた。食事の時間も、家族はワイワイと話していたが、エルゥだけが、何も話せなかった。まるで、自分が最初からその場にいなかったように。
母も、高橋さんも。弟は、エルゥを見下していた。エルゥを見るとき、ごみを見るような目で見てきたり、きもい、くさい、とか言ってきたり、物を壊されたり。もう最悪だった。
エルゥには、自分の人生に、光が見えなかった。




