始まった、本当の地獄
10月となった。エルゥは友人から「弟が転校してきたんだって!?」と聞かれ、「うん。」とだけ答えた。父の死からはまだ立ち直れないでいた。生まれた時から一緒だった父とはもう二度と会えない。それどころか同じ青空の下にいることができないのだ。
だが、エルゥの悲しい出来事はこれじゃすまされない。こんなことなぞ、忘れてしまうくらいの地獄が待っていたのをエルゥが知るはずもなかった。
11月ごろにこんな声が目立ってきた。
「あいつ、きもくない?」
「ね~。」
「今日の放課後、あいつを・・・・・。」
「いいねぇ!面白そう!」
この日の放課後、エルゥは先生の書類を運ぶ手伝いをしていた。
「これで、最後だね。」
「はい。」
「ありがとう、エルゥ。」
「はい、では、さようなら。」
「さようなら、気おつけてね。」
荷物をとって帰ろうと教室に戻った時、多数の女の子が隅で集まっていた。何かとエルゥは近づいてみる。
「きもいんだよ!」
「あんたさぁ、調子に乗ってるでしょ?」
「や、やめてよ。」
「はぁ?私たちに命令するの?こいつ、殴ってやろ。」
「やっちゃえ~!」
エルゥはこれはいけないと思い、多数の人と隅の女の子の間に割り込んだ。
「ちょっと、何やってるの!?」
「え、エルゥ?」
「何やってんの?」
「それはこっちのセリフだよ!駄目だよ!こんなこと!」
「チッ、行こ。」
多数の人たちは帰っていった。エルゥは後ろの女の子の方を見る。
「大丈夫?」
女の子はエルゥを避け、教室から出ていった。エルゥはポカンとして家に帰った。
次の日だった。エルゥはいつも通り学校に通った。下駄箱を開けると、中には大量の紙くずと消しカスが入っていた。しかも、上履きが入ってない。とりあえず、中のごみを片付けようとと近くのごみ箱を取りに行く。蓋を開けると、中には大量のごみと共に自分の上履きが入っていた。エルゥは不思議に思いながら上履きを取り出てはき、下駄箱のごみを片付けた。その最中に誰かの笑い声がクスクスと聞こえた。
教室に入ると、いつも通り、だと思った。自分の席で支度をしていたら、小さな話し声が聞こえてきた。
「エルゥさ、、最近調子に乗りすぎじゃない?」
え?私?
「ね~、正義のヒーロー気どりとか、まじありえないんですけど。」
昨日のことか?
「髪の毛白とか、自分がかわいいとか思ってんの?」
違う、生まれつきだ。
「しかも、名前!「エルゥ・アイリッシュ」とか、あいつ、厨二病じゃん。」
それは私がアメリカ出身だからだ。
「そういえば、あいつの苗字変わったよね。「高橋 エルゥ」って」
「ぶっ、だっさぁ~。」
だめだこりゃ、と思ってエルゥは聞くのをやめた。
帰り、一番仲の良かった友達が周りを警戒しながらエルゥに話しかけてきた。
「え、エルゥ。」
「ん?」
「あの人たちに、なんかしたの?」
「え?」
「だって、いじめられてるじゃん。」
いじめ。聞いたことがある。そうか、私はいじめられてるんだ。
「いいや、別に?それに、いじめではないんじゃないかな?」
エルゥは心配をかけたくないと思ってそう言ったが、
「いじめじゃないよ!先生に言わなきゃ!」
と返された。
「そうだね。もう少し様子を見てみるよ。」
そう言って、エルゥは友達と別れ、家に帰った。
冬休みが過ぎたころ、また同じようなことが続いた。それどころか、ひどくなってきたような気がする。
頻繁に物を隠されたし、机に落書き、教科書が切り刻まれていたり、朝黒板に悪口を書かれていたりした。
そろそろ先生に相談した方がいいか、とエルゥは思い始めた。




