怨み
入学式から一年ちょっとたった。エルゥは二年生になり、今年の入学式も終えた。それから1、2週間たった。エルゥはいつも通り学校から帰ってくる。
「ただいまー!」
こう来るといつも帰ってくる母の返事は優しい声だったのに、
「おかえり、エルゥ・・・。」
と、暗い声だった。しかも、食事のテーブルの椅子に座ってエルゥをじっと見ている。
「エルゥ、大事な話があるの。座って。」
エルゥは静かに母の向かいの席に座り、母が話すのを待っていた。母は急に泣き出した。
「うっ、うっ、おおっぅ」
「母さん?」
エルゥが不安を感じ始めたころ、母は泣きながら話を続けた。
「とっ、父さんっ、がっ、ぅ」
「と、父さんがどうかしたの?」
「父さんがっ、・・・・・・・・・・・・・・シンダ、ううぅぅうぅ。」
エルゥは頭の中が真っ白になった。
今、なんて言った、父さんが、死んだ?
信じたくなかった。でも、母の涙は真実を告げていた。
エルゥはゆっくりと立ち上がり、母も元へ歩み寄った。そして、母の背を優しくさする。
「うううううぅぅうぅぅぅぅ、あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!」
母は夕飯を作るときも泣きながらだった。夕飯の時間も何も食べずに泣いていた。寝るときも隣から泣きじゃくる声が聞こえた。
朝が来たとき、エルゥが起きたら、母は寝ていた。学校の準備を済ませ、適当にパンを二つ温めて食事のテーブルに置く。パンを一つ食べるとエルゥは今日も学校へ行くのであった。
休日は父の葬式があった。葬式は親族がわざわざアメリカから日本にやってきてくれた。父の会社の人も何人か出席していた。
エルゥは鈴木さんに父の話を聞いた。
父は、ライバル会社の偉い人に呼び出され、殺された。殺人事件の被害者になって、帰らぬ人になった人だ。父を殺した人は警察に逮捕され、ライバル会社も潰れたようだった。
それでも、悔しかった。どう思っても、エルゥはそいつらを許すことはできなそうだった。
エルゥは初めて怨みを覚えた。
時は8月。二度目の夏休みに入った。そんなある日、母はエルゥにこんなことを告げた。
「母さんね、サイコンすることになったの。」
「え?」
母が、再婚?
「母さん、高橋さんと結婚するわ。」
高橋さんは、父の会社の上司だった。いつも父の面倒を見てくれたそうだ。でも、
「どうして!?父さん、言ってたよ!母さんが、私が愛せるのはあなただけって言ってくれたって!何で再婚しちゃうの!?母さん、嘘ついたの!?」
「オダマリっ!」
「っ・・・・・!」
怒鳴ろのはいつも父だった。だから、母が怒鳴るのは初めてだった。
「私だって、サイコンしたくない!でも、私はお金をかせげないから!」
そう、母は生まれつき体が弱かった。家事もエルゥが幼いころから手伝うほどに。
「だから、サイコンしないと、エルゥが、エルゥが。」
この日はこれ以上母とは話さなかった。
夏休みの終わりごろごろに母は高橋さんと再婚した。エルゥは名前が「高橋 エルゥ」となった。高橋さんはまだ「高橋さん」と呼んでいた。「父さんでいいよ。エルゥ。」と言われたが、元の父親の存在を忘れたくなかったので、そう呼ぶつもりはなかった。
高橋さんも、昔は妻がいたらしい。妻が病気でなくなり、息子を親族に預けているらしい。
その息子は9月に家に来た。学校はエルゥが言ってるところに転校した。高橋さんの息子はエルゥの3つ年下の弟となった。弟は母を自分の母だと認識するのは早かった。
弟が母を「ママ」と呼ぶたびにエルゥは心がモヤモヤしていった。




