心が穢れたのは、誰のせいだ
恵瑠はエルフの森から西の方角へやってきた。リトル街から北西の方だ。ここはなぜか誰も立ち寄ったことはない場所だ。邪悪な空気に混じって何やら神聖な空気が漂っている。もしかしたら、何かが全ての生物が立ち寄るような意思を持てないようにしてるのかもしれない。
恵瑠は奥へ歩き出す。すると、奥に何かの古い神殿があったが、恵瑠が目につけたのはその手前。誰かの後ろ姿だ。そいつは恵瑠の存在に気づき、こちらを振り返る。恵瑠を見れば、ニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
「来たんだね。臆病者だと思っていたが、意外とそうでもないのかも。」
「ねぇ、恵瑠。こんなことして、何のつもり?ここで何やってるの?」
「・・・・・・知ってる、恵瑠?世界から別の世界へ行く方法。」
「ま、まさか・・・・・?」
「ねぇ、恵瑠。一緒にやろうよ。人間達への復讐。」
「バカなこと考えるな!そんなこと」
「やらないの?お前も私だろ?憎いだろ?苦しかったろ?だから、やろうよ。」
「やらない!させない!!お前は私がここで止める。目を覚まさしてやる!!」
「そっか・・・・・。わかってくれないんだな。なら、邪魔させない。お前をここで殺してやる。」
影の恵瑠は上に手を挙げ、振り下ろした。すると恵瑠の頭上から黒い雷が落ちてくる。恵瑠はバックステップでかわす。
恵瑠は影の恵瑠に光の雷を三連発落とした。影の恵瑠は全てサイドステップでかわす。
「あれれぇ?強くなったんじゃない?」
今度は二人で光弾を打ち合った。黒い光と白い光がぶつかり合い、小さな爆発を起こして消える。
「でも、お前が強くなろうともそれは私も同じ。だって、お前は私なんだから!更に今の私の影の雷はお前の光の雷を上回る威力!勝ち目はない!」
「どれだけ強くてもその心が穢れていれば誰にも勝てない!」
「心が、穢れた?」
影の恵瑠の動きが止まる。恵瑠も動きを止めた。
「心が、心が穢れた、だって?」
影の恵瑠は下に俯いたまま続けた。
「穢れてるのは、どっちだよ・・・・。」
「お前だよ。恵瑠。」
「もしも、私の心が穢れてるのなら・・・・・、穢したのは、穢したのは誰だよ!誰だと思ってるんだよ!!」
恵瑠は何も言えなかった。なぜなら、彼女の心を穢したのは・・・・・・。
「誰なんだと思ってるんだ!!」
影の恵瑠は手に魔法陣を作り出し、そこに小さい黒い閃光と飛ばす。
黒い閃光は恵瑠の頭に直撃した。ヘアバンドが宙を舞い、頭から赤いモノがサラリと飛び出した。
恵瑠はそのままふと上を見上げた。宙に舞ったヘアバンドの裏側がちらりと見えた。そこに刺繍糸で文字が入っていた。
「Elleu Irish」
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「エルゥ、そろそろ行くわよ。」
「はぁい」
10年前の出来事。まだ4歳の少女がここ、アメリカから日本へ引っ越すらしい。
少女は髪が背中ぐらいまであり、色が白かった。母は髪色は金髪。父は茶髪。祖先にも白髪の人はいない。普通でありえないのだ。
まぁ、それは置いといて、エルゥと呼ばれたこの少女は幼稚園を卒業する前、父が仕事の関係で日本に行かなきゃならなくなり、卒業した今、アメリカから出ていくのがこの日だった。
空港へ行くといつも仲良く遊んでいた友達が親と共に見送りに来てくれていた。
「エルゥ、本当に行かなきゃいけないの?」
「うん。」
「わたしたちのこと、忘れないでね?」
「もちろんだよ。」
「よかった、じゃあ、元気でね。」
「アマンダもね。ジョンたちにも言っといてね、元気でねって。」
「うん、言うよ。」
「じゃあね。」
親も挨拶が丁度終わった用なので飛行機に乗った。
エルゥは飛行機の中で友達と別れたことを寂しく思いつつ、日本が楽しみで心を躍らせていた。