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信じてますよ

 川の流れる音が聞こえる。

大きな亜人は足元で這いつくばっている春香を見下ろす。春香は立ち上がろうとするが、体に力が入らない。亜人が何かしたのだろうか。いや、そうではない。

春香は恐怖で頭がいっぱいだった。自分よりもずっと大きい敵と戦うことになるなんて思ってなかったのだ。でも、自分なら勝てると思っていた。でも、だめだ。陰陽寮での修行は何だったのだろうか。いや、そんなの、意味はないのだ。陰陽の里には里を収める長がいる。しかし、その長は怨霊の怒りを買って、そいつらから自分の身を守るためにたくさんの子供たちを陰陽師に育てさせ、とても強くなった陰陽師を自分のそばにおく。そう、ほとんどの人にとっては意味はないのだ。陰陽寮の20年間は。そう、今までの春香の人生は苦しい思いをしてきた、悲しい思いをしてきた、つらい思いをしてきた。それもすべて無駄なもの。そんなことを考えてながら、川の流れに耳を傾けていいると、あの時の小さな、小さな、声が聞こえた。

「思い出して、あの時を。」

亜人が足を上げていることよりも、その声に必死に耳を傾けた。

「あなたが積み上げてきたものは、全て、無駄じゃない。」

途中から、とっても聞き覚えのある声に変り、春香は目を見開く。

「それに、無駄には一番大事な意味がある。多分!」

虹のように明るい声、ほとんどいつもあいまいな言葉遣い。この声は恵瑠だ。

この言葉は恵瑠と初めて出会い、自分の陰陽寮の話を打ち明けた時、言ってくれた言葉である。この言葉が今の自分の人生を貫く覚悟をしたきっかけだった。

「私、恵瑠ちゃんを信じてますよ。」

 亜人の足は春香の目の前、春香を踏み潰す気だ。亜人が思い切り足を振り下ろした、その時。

ガシャァン・・・・・・・。

この音の後に響くのは川の流れる音だけ立った。

亜人が踏んでいたのは春香ではなく、春香の前に現れた「結界」だった。

「‘結界・護‘」

春香が立ち上がっていた。春香はどうやら踏み潰される前に結界を作り出していたようだ。

「あなたにはこれで十分です。」

亜人の足がはじかれ、亜人が転ぶ。すぐに立ち上がるが、春香が次の結界をはった。

結界がはられたのは亜人の足元。

「‘結界・縛‘ あなたは元々足が遅そうなのでこれでも十分足止めになりますよ。」

亜人は必死に結界から逃れようとするが、移動の遅い足が更に遅くなり抜け出せない。

「とどめですよ。‘聖水激龍‘」

春香が亜人に手を向けると手には結界が現れ、結界の中心がひかる。そこから勢いのある水流が亜人に向かって飛び出した。

水流に直撃した亜人はこれに耐えるが、水流の勢いが増し、押し負けた。春香は水龍を止めるとすぐに人型の紙を出す。

光の雷を亜人に当てると、亜人の額の気が消え、亜人が倒れた。

「あ、あれ、さっき、私?ま、いいや!やりました!勝ちましたよ!」

ここには春香の歓声と川の流れる音しか聞こえなかった。

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