信じてるから
恵瑠がエルフと交戦する少し前、名無しの森の奥、ミアは目にも止まらぬ速さで切り付けてくる亜人と戦っていた。腹部には既に切り裂かれた傷があった。
「・・・・・また、来るわね、そうはいかないわよ。」
ミアは空を飛ぼうとほうきにまたがろうと考えたが、その前に亜人は突っ込んできた。狙いはミアではなく、ミアのほうきだった。
バキッ。
「し、しまった!」
亜人はミアの手ごとほうきに噛みつく。そして、あごに力を入れ、簡単にほうきを折ってしまった。
「は、はなしなさい!‘meteo fragment‘」
ミアは咄嗟にかまれている方と反対の手を前に出すと、そこから鋭い小石が飛び出し、亜人の額に突き刺さった。
「ぐうぅっっ!やりおったな!」
亜人はミアの手から離れた。額からは黒い気と赤い血が流れる。
「あ、あんた、喋れたの!?早く喋りなさいよ!」
ミアの手は、かまれた跡がくっきりとあった。そこからも、赤い血が流れている。
「ふふふ、まさか、魔女とお話できる時が来るとはな。ゆっくり話していたいが、私は忙しいのだ。」
「何が忙しいよ!私を殺しにかかってきて!」
「ああ、お前を殺すのに忙しいのだ。ま、お前を殺すことなんて朝飯前だがな。」
「それを言うなら、自分の額を見てから言ってくれる?」
「ふん、俺の額に傷つけることができたのは誉めてやろう。しかし、悪魔と契約の結ぼうとも所詮は人間。俺を殺すどころか、膝をつかせることもできないのよ!」
「今は、それで十分よ!」
「黙れ!」
亜人は一瞬でミアを頭突きで吹き飛ばした。ミアは一本の木を折ってその後ろの木にぶつかる。
「え、恵瑠・・・・・。」
ミアは恵瑠の名を呼んだ。前を見ると、ミアには恵瑠の幻が見えた。
「あんたは、魔女になった私を理解してくれた。私を認めてくれた。そして、私の一番の友達、春香を見つけてくれた。あんたは友達だから、私は、戦い続ける・・・・。」
恵瑠の幻が揺れ、消えそうになった。その向こう側から亜人が構え、ミアにとどめを刺そうとしている。
ミアは立ち上がった。頭から血が流れ、地面にポタポタと落ちる。
「わたし、あんたを信じてるから。」
亜人はミアに向かって走り出す。それと同時か、すこし遅くかに自信の手前の地面に魔法陣を出現させた。
亜人はあの魔法陣を踏んではいけないと察した。しかし、もう止まれない。
「‘earth needle‘」
魔法陣の光が強くなり、亜人が踏んだ瞬間、そこからとんがった岩が突き上げた。亜人が吹っ飛ばされる。
ミアは人型の紙を取り出し、上に掲げた。神から光の雷が現れ、亜人に当たる。亜人の額の気が消えた。
「ハァ、ハァ、ハア」
ミアは息を荒げたまま歩き出した。
それからしばらく歩いていると、開けたところにたどり着いた。周りは木々に囲まれているのは、森を抜けてはいないということだ。ここには苔だらけの門、いや、鳥居があった。ミアはその奥進んでみると、とても古く、ボロボロになっていた建物があった。真ん中あたりに箱が置いてあった。ミアが近づいてみてみると賽銭箱だということが分かった。ということは、ここは何かの神社だということだ。
「失礼するわよ。」
ミアは賽銭箱によりかり、座り込む。
ミアはさっきまでのことを振り返った。
恵瑠が黒くなり、恵瑠が二人になり、そして黒の方の恵瑠が大規模な事件を起こした。
ミアはこんな大事件は初めてだし、死ぬ気で戦ったのも初めてだった。
「これからも何回かありそうよね、こんなこと。」
なんて考えたが、今はそんなこと考えている場合ではない。ミアは次はどうしようか考え始めた。
まだここの森を探し回ろうか、別のところに行こうか。
なんて考えていると、ミアはいつの間にかそのまま眠ってしまった。




