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きっかけ

間が空いてしまい申し訳ございませんm(*_ _)m

リアルが忙しく今年は執筆が追いつかない状況です。1章は完結させる予定ですので……これからもよろしくお願いします

「遅かったじゃない……あら? その肩の怪我はどうしたの」

わざとらしく、人差し指を顎にあて首を傾げる。桃色の髪がふわりと揺れ、甘い香りが広がっていく。


「ご丁寧にどーも。悪くなかったわよ」


薔薇で装飾された花のアーチを潜り、噴水の横でライフルを左肩に担いでいる女性に向かって投げかける。それに対しての返答はなく、優しげな微笑が帰ってくるばかりだった。


「……何を企んでいるの」

突如投げかけられた問に対して、スナイパーは比較的速やかに答えた。


「何かを得るためには犠牲はつきもの。それくらいは分かってもらいたいものだわ?」


「何が言いたいの……一体……」

続けて問いただそうとしたが、それよりも先に妖艶な声が鋭く発せられた。


「実験には材料が必要だって言ってるのよ」


「……!」


「……あそこにいる人達全員を……人造人間の実験使う気なの……? そ、そんなの正気じゃないわ! 自分の研究の材料に人間を使うなんて……まさか……今までの」


その答えに辿り着くのを待っていたかのように先程とは別人のような鋭く尖った眼光をエアリカに向け、大きく口元を歪める。


「……ふふ。 当たり前でしょうが! ただの鉄くずから動く鎧なんて作れるわけないじゃない! まぁさか、あなたがそんなにも馬鹿だったとはねぇ……いや、もしかして気がついていたんじゃないの? その事実を認めたくないから……もしかしたら、自分の弟が実験材料にされてるんじゃないかって!! ……不安で、不安でぇ仕方なかったんじゃなぁい?」


刹那──アンズが右手を顔の正面に動かす。

「これでも私、結構強いのよ?」


右手でエアリカの拳撃を軽く受け止めると、勢いを失った拳を握りしめて上空に振り上げる。


「…………!」


上体が逸れて身体が浮いた感覚に陥る。瞬時に身体を捻って体勢を立て直そうとした時だった。まるで、それを見越していたかのようなタイミングで横腹に重い衝撃が走った。


「私、一応……狙撃が本業なんだけど? 格闘家さん」

その態度からは余裕を感じたが一切の隙はない。


「あらぁ……もうおしまいなの? 残念だわぁ……あ、そう言えば……さっき綺麗な花火が沢山上がってたわねぇ……何かあったのかしらぁ?」


高く打ち上げられた水の柱を突き破ったその先で、何とか立ち上がろうとするエアリカを一瞥しアンズは大きくため息をついた。それから耳につけていたイヤホンマイクに指をあてると何かを呟いた。


「それじゃ、エアリカ……だったかしら。 これから……向こうに居るらしいお仲間さんをぶっ殺しに行ってくるわ」


「だめ……へリクは関係な……」

右脚に一瞬、黒色の光が当たったかと思うと激痛が走り大量の血が溢れ出る。


「うるさいわね……! 関係あるとか無いとか、そういう問題じゃないのよ? 私が殺すって決めたらそれでいいの。 貴方は生かしておけって言われてるから仕方なくそれくらいで見逃してあげるわ? まぁ……その状態でアンタを回収しに来る兵士ちゃん達から逃げれるなら……だけどね。 それじゃあね、黒髪のお嬢さん」


瀕死の獲物に背を向け、何度か手を振りながらスナイパーは闘技場の方向へと消えていった。




「はぁ……流石に死ぬかと思った。最後の一発なんて余計よクソ女…………アドバンスヒール」

血溜まりに腰を下ろすエアリカは自身が使える最高位回復スキルを使用してから、首にかかっているネックレスを顔の前まで持ち上げる。


「……シーラ、聞こえてるわね」


その言葉に反応するかのようにネックレスに付けられた月のクリスタルが白く発光する。


「私のいる場所にきっとスイッチがあるわ……物騒なお迎えが来る前に、探してくれないかしら?」


最後まで聞き届けると、クリスタルの光が徐々に薄くなっていきやがて消えた。


「あなたなら……大丈夫、よね」


それから僅か五分後、騒がしい女の声が花園を包み込んだ。




───────────────


「先読んで合図送っちまったけど……やべぇぞ。黒フードなんで俺ら以外にいねぇじゃねぇかよ! まだ見つかってないなんてバレたら……やばいぞ。作戦失敗……俺のせいでここにいるヤツらが皆殺しに? おいおい、勘弁してくれよ」


こんなにも集中して人探しをしたのは子供の時以来だ。人の区別をつけるための訓練、クリアするのに四日と反日もかかったのだ。ご飯抜き、睡眠禁止、見つけるまで帰れないという拷問は今でも忘れることは無い。


「他になんか特徴とか言ってなかったか。今までの会話の中から……」


──研究所……異能力……。不審者、特徴……人造人間。悪魔の実験……副作用……材料、実験体……。


「な、なんだこれ……頭の中に……」


──やっぱり…………になってますね。 あぁ、だが今のところはそれだけだ。性能に影響は無い。見た目は悪いがな……そんな細かいところまで観察する輩などいる訳が無い、それは不安要素ではないのだよ。問題点は別にある。


「……性能に影響がない、見た目が悪い? 細かいところ……」


──研究所……見た目……アンズさんだ! 特徴はなんだった……! 髪の色? 服装……性格、スタイル……細かいところ。 紋章か? ──いや、でもあの時確認した時問題は無かったはずだ。寧ろ、問題があるのは俺の方で……。


「違う……! なんなんだ……細かいって、髪の色じゃ……なくて……まさか」


弾かれたように闘技場の外周部を駆け抜ける。床に溜まっていた埃が舞い上がる程度で音も衝撃も生まれない。

ギリギリの所まで這って顔だけを覗かせる。最終予選はラストスパートといった所だろう、お互いに肩が上がり、スタミナ切れ寸前のところで意地の勝負をしているらしい。


「まじか……すぐに勝負あり! とかになると思ってたけど意外に頑張ってくれるじゃねぇか……まだ妨害も入ってないっぽいしな。そろそろ時間切れだな……急がねぇと」


乗り出した所から目を細め、場内の観客一人一人の顔を確認していく。


「特徴はフードでも髪でもねぇ……目だ」


──アンズさんは確か眼帯をしていた。髪の色に気を取られていたが、他の印象を薄れさせるための……? 偶然かもしれないけど、今はこれにかけるしかない。場内に、男か女かわからないが眼帯をしたやつを時間内に見つけることが出来ればチェックメイト……!


「何処に……いやがる……」


時間が迫る中、徐々にその範囲が狭くなっていく。


「あとはエリア三と四……」


自分のいる所から手前、一度ここから反対側に移動しないと確認できない場所だ。居ないと判断した直後に走り始め、反対側に辿り着くと床を這って崖ギリギリから中を覗く。


「どこにいる……!」


しかし、全てを確認しても眼帯をつけた人物はおらず試合も終了に近づいている。


「なんで……エアリカの予測が合ってる前提だがこの中にいないと成立しないんじゃないのか?」


──なぜ見つからない! 考えろ……闘技場は円形……死角……ターゲット。


「まさか、バレた……のか?」


もうそれしかない……というかその可能性にかけるしかない。観客が気づいてないからバレるはずがない、という過信が判断を鈍らせたらしい。


「クソっ……! 向こうも意識してコッチを見てる可能性にどうして気づかなかった……」


だが、これでハッキリしたことがある。ターゲットが逃げているということは……エアリカの予測はあっているということだ──仮定があっていればの話だが。


「でも、今はそれだけでいい……レコグニション・センス──」


へリクを囲うサイズの魔法陣が足元に突如出現し、耳障りな金属音と共に発動する。

へリクの視界がガラスのようにひび割れ、世界の色が失われる。突如として現れた非現実的な光景を目にしても驚くことは無く、普段通りに冷静沈着を心がける。


「相変わらず……違和感は消えねぇな」


白黒に塗り替えられた味気のない世界に色を付けるのは発動中のスキルから発せられる磁場スキルウェーブだ。このスキルを使っている間は視野が狭くなり、色彩感覚が無くなる。その代わりに常人には見えない景色──不可視の物が見えるようになる。


俺の動きを予測、もしくは完全に認識出来る……なんて超人がこの世にいるとはとても思えない。恐らくなんならのスキルを使っているはず……この予想が外れていたら完全にお手上げだ。博打になってしまうが可能性にかけるしかない。


「見つかってくれよ……」


ごくり、と唾を飲み込み切り立った外縁部から頭を覗かせる。 ムワッとした熱気が一気に込み上げ反射的に顔を背けそうになるが何とか耐えきり狭くなった視野を最大限に活かす。


そして──残り半分を切った時だった。


視界の右端からドス黒い赤色の光が微かに入り込む。鋭く尖った光はゆっくりだが今も移動を続けている。


「なんだ……あれ……」


へリクが目にしたのは独立した小型のロボット。まるで視界を誘導するための……囮専用の機械だ。


「……あれはただのオモチャだぜ。糞ガキ」


不意に視界の外から聞こえたのは、やや歳のいっている低い声。


へリクは反射的に体を捻り、片腕で地面を押し付ける。浮き上がった体を後方へ持っていくと同時に反動を使って後方へ飛ぶ。


その直後、へリクが覗きをしていた所には深々とした切れ込みが入っておりバチバチと赤黒い火花が散っている。


「噂に聞いた程度だがぁ……少しは骨のありそうな奴で良かったぜ」


そこには左目に眼帯をした白髪の巨漢がいた──。


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