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魔女博物館〜The top secret story〜  作者: end&
第五話「不可抗力」
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「不可抗力」7

 ほどなくして、三人は街道に出る。


 先に退避していたヴィンセントとニコラが何事かと様子を覗いながら駆け寄ってくる。


「クララの切断が通用しない」


 息を整えながらルイが告げる。


「切断できないとかあるんですか!?」


 ニコラの純粋な驚きがクララの胸にサクッと突き刺さる。


「今さ、カミキリムシってどんなもん切れるんだろうって色々試したけど名前のわりに紙もそんなに切れてねぇじゃんってガッカリした幼い頃の記憶がよみがえってきた」

「クララのカミキリムシはとりあえず置いておくぞ」

「誰のカミキリムシだって?」


 クララを無視してルイは気づいた点について話す。


「サイクロプスの目はほぼ見えていない、これはリリアベルの情報でわかっている。だとしたら、やつは何を頼りに動いているかだ」

「嗅覚と聴覚は確かなんですわよね?」

「そうだ。だが、さっき対峙した感じからしっかりとこちらを認知できているのがわかった」

「ああ、あれは目が見えてるやつの動きだ。それとも何か? それだけ嗅覚と聴覚に優れてるって?」

「優れてるとしたら聴覚の方だろう。だが、今まで信号弾の発砲音にやつが反応したような気配はなかった。それから報告にあった行動を踏まえれば、アレは体温に反応していると見て間違いない」


「なるほど、」ヴィンセントが手を打つ。「動物や人間の体温に反応していると」

「その体温を感知しているのがあの目だ。虫の触覚に近い。だから人間のように像を結ばなくてもいいんだ」


 ニコラが純粋な疑問を口にする。


「これまでの話だと、サイクロプスは草食。だったらなんで人間を襲うんです?」

「バハル・トルバの人間はサイクロプスを狩って、それを生きる糧にしてきた。それが何百年と続けられ、サイクロプスの中に『人間は敵だ』という認識が生まれた。だから、人間に近い体温に反応し、身を守るために人間を襲うんだ」

「だったら、ここから人がいなくなればいいって話になんだろ」

「そういうわけにはいかないから、討伐するしかないんだ。とりあえずヤツの目を潰す」

「今から槍を取ってきますか?」

「そんな暇はない!」


 サイクロプスが地を揺らし、新たな足跡を残しながら街道へ出てくる。


「散開しろ!」


 激を飛ばしながら、ルイはサイクロプスが突きだしてきた両の手の平を、横のフルスイング防ぐ。


 やはり、刃は筋肉には届かない。


 だが、斬っていれば、クララがサイクロプスの身体を理解し、切断能力を発動させることが可能になる。


 サイクロプスの移動は遅いが、腕の動きは速い。間合いを取りながら斬撃を繰り返す。


 クララのほうでも色々試してはいるものの、決定打になりそうな攻撃が出来ていない。


「こりゃあ、リアンの縫合でも地面に縫いとめるのは難しいだろうな」

「縫合強度がどれくらいかわからんが、すぐにちぎられるな」


 ルイとクララのやり取りに、ヴィヴィアンにピンとくる何かがあった。だが、それを実行するための道具が見当たらない。


「ルイさん! 持ってきた武器の中に長い鎖はありませんの!?」

「鎖?」


 身をかがめ、サイクロプスの腕の横薙ぎを避けると、一時的にサイクロプスから離れ、ヴィヴィアンの元に走り寄る。


「ホースマンズ・フレイル……、いや、ヴィンセント!」


 ニコラと一緒に木陰に身を隠す彼を呼ぶ。「持ってきた荷物の中に鎖はなかったか!?」

「長いものはないですよ!」

「そっちに行ったぞ!」


 クララの声で、二人は反発し合うようにサイクロプスの突進を避ける。


 ゆっくり話している時間もない。

 まさに消耗戦。


 だが、これを一般兵に任せるわけにはいかない。もっと多くの犠牲者が出るはずだ。


「ヴィヴィアン! 検問所の門だ! セクトリアの検問所は三本の鎖で遮ってるだけだ!」

「感謝ですわ!」


 ヴィヴィアンの脚力ならば数秒の距離だ。

 何がしたいのかはなんとなくわかる。


 だが、果たして鎖の方が耐えられるかどうかだ。


 潮風は鉄をさびらせ、脆くする。


「お嬢様に任せて大丈夫なのか!?」

「賭けるしかないだろ!」


 クララが普段どんな訓練をしているかは知らない。

 だが、こんな持久戦は初めてのはずだ。

 避けるのに精いっぱいで、ろくに切断能力も使っていない。


 無駄撃ちして力が枯渇するよりはいい。


 いざとなればヴィンセントに剣を握らせるまでだ。





 ヴィヴィアンはつぶれた検問所に到着する。


 血の臭いがする。この国における唯一の死亡者のものだろう。


 祈っている暇はない。


 大防壁にうがたれた三本の鎖。街道用だ。余裕で十メートル近くある。


「お借りしますわ」


 うち、鎖二本を、畑からニンジンを引き抜くように、軽々と抜いて後は引きずりながら元来た道を戻る。


 サイクロプスの位置を確認し、片方の鎖をその場に落とす。


 手にした一本の鎖。


 その真ん中辺りを握り、タイミングを計る。

 サイクロプスがこちらを向く、その一瞬。


「二人とも避けてくださいまし!」


 助走に完璧に決まった踏み込み。


 一気に五メートル近くまで飛翔し、輪にした鎖をサイクロプスの首に、前から引っ掛け、右手と左手でそれぞれの両端を握りしめ、地に着地する。


 首に鎖をかけられ、サイクロプスが後ろに仰け反る。


 動きが止まった。


「ヴィヴィアン! その状態を維持しろ!」


 言いながら、ルイは腰ベルトから片手ハンドルを取り出し、シャルフリヒター・ベーテンの柄部分に刺しこむ。


 左手でハンドルを握り、柄の下部分を脇に挟み、柄を固定する。


 柄の先端のスピアをサイクロプスの目に向け、叫ぶ。


「ブラスト!」


 柄からスピアが射出される。

 全長八十センチ、直径七センチの針が一気に目から頭蓋まで貫く。


「見えたぜ!」


 骨が砕かれた感覚が伝わったのだろう。


 クララが大鋏を横に薙ぐ。


 風の音もしなかった。

 サイクロプスの首が完全に切断され、宙を舞う。


 それと同時に、ヴィヴィアンが握っていた鎖は突っかかりを失い、砕け、ジャラジャラと地面に落ちる。


「避けろ!」


 叫んだのはヴィンセントだった。


 首を失ったサイクロプスは、首を失っても止まらなかった。


 大きく胴体をゆすり、腕がヴィヴィアンの身体を軽々と吹っ飛ばす。


「ヴィヴィアン!」


 ニコラが叫び、すぐさま駆け寄ろうとするが、後ろからヴィンセントが押し倒して止める。


「離してください!」

「まだ終わってない!」





「こんの木偶の棒がぁあああああ!」


 クララは絶叫と共に飛び上がり、下から上へと大鋏を走らせる。


 サイクロプスの右腕が肩から完全に切り離される。


 同時に、ルイが左足に向かってシャルフリヒター・ベーテンを構える。

 「セット!」という声と同時に、左足のブーツに取り付けた金具から二本のパイルが地面に突き刺さる。

 地面に足が固定されるのと同時に、フルスイングをサイクロプスの左足、膝の後ろから叩き込む。


 骨が砕かれる音と同時に、膝から下が完全に断たれる。


 左に大きく倒れそうになるが、地に腕をついて、再び立ち上がろうとする。


「いい加減に――」


 クララがもう一度切断を行おうとした瞬間、北の空に二発の信号弾が打ちあがる。


 群青と黄色。


 ルイは見逃さなかった。


「伏せろ!」


 シャルフリヒター・ベーテンを投げ捨てて、クララに覆いかぶさる。


 刹那、風が鳴く。


 サイクロプスの臀部から左腕、右肩まで一気に切り傷が走る。だが血は出ない。


 風はサイクロプスの肩を蹴って天に舞う。


 地上七メートルで行うピルエット。


 逆光の中で、白銀の大剣が煌めく。


「その点、うがちます」


 風は囁き、サイクロプスの切り落とされた首の断面めがけ、剣先を下に垂直に落下する。


 剣先はサイクロプスの背骨を砕くのではなく、斬っていく。


 サイクロプスの身体は真っ二つに割れ、今度こそ活動を停止し、後ろに倒れる。


 しばらく時間を置き、傷口から血が噴き出す。


 彼女は大剣を軽く振る。


 その刃にも、彼女が纏う白と青の服にも血は一滴もついていない。


「まさか、お前が来るとはな」


 身を起こしたルイは、クララに傷がないことを確認し、突然現れた剣聖に向けて言う。


 イザベル・ハウラ・ロワマルティア。


 王の指先、右手の人差し指。


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