「鋏と傷口」2
闖入者二人を加えて妙なお茶会というか、テーブルターニングみたいな胡散臭さが一気に上がったというか。
「てか、なんで画家が事件のこと知ってるんだ?」
私はリアンと並んで座り、対面にセシルとジャックの凸凹コンビが座る。
「ふっふっふー、ボクを誰だと思ってるんだい? ボクはなんでも――」
「今、セシルさんは大聖堂で天井画を描いてるんです。だから自然と話が耳に入っちゃうんですよね」
――やればできるじゃないかブレーキ役。
「それでなんで俺のところに来るんだか」
「すみません、セシルさん、いったん別なことに気をとられると筆が止まっちゃうんですよ」
――やっぱりブレーキになってないな。
セシルは通称「画家」。
その名の通り、画家なのだが、描いたものを具現化することができる。ただし、自分の目で実物を見たものに限るわけだが。
「あの、」
リアンがおずおずというかんじにジャックに聞く。
「クララが容疑者って、正式に言われてることなんですか?」
「そんなことはないですよ。ただ、クララさんは魔女と戦う場面が多いじゃないですか。それで少し有名だから。勝手に噂してるだけですよ。迷惑な話ですけど」
そう言って、彼はすまなそうに頭を下げる。
「ジャック君、本当に迷惑だと思ってるぅ? ボクだって噂で容疑者扱い何度もされたじゃん」
「その時は僕だってみんなから白い目で見られたんですよ。だから僕は根拠のない噂話だって言ったじゃないですか」
「おい、画家。お前、噂話信じてここに来たのか?」
「噂の真相って誰だって知りたいじゃん」
「『じゃん』じゃねぇ」
「で、実際どうなの?」
「お前、人の話聞く耳持ってるか?」
「耳はあるよ。話を理解するのは頭だよ」
机を叩きたくなるのをリアンがなだめてくる。
「実は今日、教会の方に呼ばれて遺体の方を見てきたんですけど、あれだけ綺麗な切断面はたとえ大鋏を使っても無理だろうって、今さっき話してたんですよ」
「切断面って……、リアンさん胆座ってますね」
そういうジャックの顔は青ざめている。
異端審問室に配属になったものの、血なまぐさいものは全然無理で、当時みんなお手上げ状態だったセシルの担当になったとか。妙にセシルと馬が合うので一般教会への神父としての移動が受理されないとかなんとか。
「切り裂き系の魔女っていったら、ボクでも真っ先に浮かぶのはクララちゃんだもんなー」
「実のところ僕も……」
「私も単純に能力だけと思い浮かべると、」
そう言ってリアンはこちらに視線を向けてくる。
「はいはいはいはい、どうせ俺は切り裂きで有名な魔女だよ!」
「で、でもですよ? クララさん以上の切断能力を持った魔女が現れたって可能性もあるじゃないですか」
「その可能性は、教会でも言われました。同じ能力を持つ魔女が数人いるっていうのは珍しいことじゃないし」
新しい切断の魔女。私は実際にその切断面を見ていないからどの程度の能力持ちで、どういった道具を媒体にすれば摩擦を減らした切断が行えるかぼんやりと考えた。
ふと、視線を感じてみれば、セシルがニヤニヤとこちらを見ている。
「なに?」
「どっちが強いのかと思ってさ」
「どっちがって?」
「クララちゃんの切り裂き能力と、新しい魔女さ」
「くだらない」
「えー、楽しそうじゃん」
「楽しいも何も、相手の切断能力を切断すればいいだけだろ」
刹那、その場の空気が一変したので、辺りを見渡してしまった。
「俺、何か変なこと言ったか?」
「おー、さすが! 目には眼鏡、歯には砂糖だね」
「は?」
「セシルさん、それって『目には目を、歯には歯を』じゃないですか?」
ジャックがため息交じりに言う。
「細かいことは気にすんなって!」
ジャックの苦労はわかるが、正直、セシルの楽天っぷりはちょっとうらやましいと思ってしまった。




