想像の余地ということ
本来は「つづれのつれづればなし」の一遍ですが、これを独立させて投稿しました。
はい、今回のお題はこれ。
小説のみならず、これは漫画や映画など人に物語を届ける手段であればなんにでもいえることなのかもしれません。
もしかしたら、絵画やイラスト、音楽にもいえることかもしれませんね。
実は先日、何十年も公共図書館や大学の図書館などで働いて、児童・生徒への読み聞かせなどの活動にも積極的に関わってきたとある講師の話を聞きました。
その中で、その方が勤めておられた大学の学生から、「先生、あの映画すっごく感動した! 先生も絶対みるべき!」と勧められて観た映画があったんだそうですが。
そう、昨年非常なヒットになった、相手の名前を尋ねるタイトルのあのアニメ映画ですな。
なんとおっしゃるのかなあと思って聞いていたら、なんとその先生、真っ先にこうおっしゃったのです。
「まあ、なんってつまらない映画なんだろう!」
いや、驚きました。
そして、あれほどのヒット作を大勢の人を前にしてこうまで斬って捨てる、そのいさぎよさに惚れそうになるとともに、非常に興味をそそられました。
その先生がそう思われた理由はこうです。
「なんでこの映画はこんなに、なんでもかんでも言い尽くしてしまうのかしら。面白くない。もっとこちらにいろんなことを想像させて欲しかった」
「私は映画というのはそうやって、こちらが空白の部分を想像して観るものだと思っていたから、とても驚いたし、がっかりしたのです」
私もその映画は映画館で拝見しましたが、確かに先生のおっしゃるとおりでした。
主人公たちが夜空を見上げているシーン、色んなシーンがあるのだけれども、そこには必ずなにかの言葉が重ねられていて、登場人物の心情であるとかなんとかをこと細かに言い表してしまっている。
先生いわく、「ああ、ここでこの人はこんなこと考えてるんじゃないかな、こう思ってるんじゃないかな、ってこっちで想像して楽しむ余地がないんです。なんでもかんでも、全部説明されてしまう。つまらない」。
物語の中に、読者(あるいは鑑賞者)にゆだねて想像を膨らませる余地がほとんどない。それがいかに見る人の感性の貧しさを引き起こしてしまうか、物語をつまらなくしてしまうかを、この先生はおっしゃりたかったのかなと思いました。
これを読んでくださっている方には、「なんだそんなことか」と思われるかたも多いかとは思うのですが、一応は小説やら漫画をかく人間として、私はなんだか目から鱗というのか、ちょっと頭を殴られたみたいな気持ちになりました。
小説には確かに「行間を読む」なんて言葉があるぐらいで、作者が文字として書いてはいないことまでを読者は様々に想像して読みながら楽しみ、むしろ読者の頭のなかにより大きな深い世界を構築してもらうことこそ身上、のような部分がありますよね。
文字だけで表されている小説はまだましで、それが絵のついた漫画であるとか、映像になったドラマや映画になると、よりその世界が限定されることで、見る人の想像の余地を奪ってしまうことになりかねない。
あ、もちろん、非常にうまく作られた作品はそうではないということは一応わたし個人としては断っておきますよ?
これ、実は先日読んだ鼎談「三人寄れば、物語のことを」という本のなかで、あの「精霊の守り人」シリーズの上橋菜穂子さんもおっしゃっておられたことなんです。
多くを書きすぎないことで、むしろ読者さんの側でよりこの世界を豊かなものにしてもらえる、という主旨のお話だったかと思います。
かの作品は何年か前に一度アニメ化されたのですが、原作を読んでから見てみると、上橋さんの言わんとすることがとてもよく分かる気がしたものです。あれほど豊かで深かったはずの世界観が、リアリティを重視した映像としてアニメ化されてしまうと、とても貧弱な狭いものに感じられてならなかった。そうした主旨のことを上橋さんはおっしゃっておられたのです。
なるほどなあ、と、私のような色々書き込みすぎてしまう人間にはとても勉強になるお話でした。
小説の世界って、本当に時空を超えられますよね。
文字だけでそれができるって、実は凄いことなんだなあと再認識した次第です。
みなさんのお役に立つような話かどうかはわかりませんが、なにかを創作しようという人であれば頭の隅に置いておいて損はないお話だったかなあ、なんて思ったもので、こちらでちょっと紹介させていただきました。
ご高覧、ありがとうございました。
※某映画やアニメ作品等のことを述べていますが、実在の作品に対する批判を言う主旨ではありません。
あくまでも個人の意見のひとつであり、小説を書く上でのヒントになる考え方を述べたものです。
(あらすじより一部抜粋しました)
また、ご感想でちょっと誤解されたかたがあったようなので、さらに但し書きを。
その先生はその後、その学生さんにこれをこのまま伝えたわけではありません。
なぜならその後、その学生さんに感想を話し、なぜそう思うかを話したところ、「ああ、なるほど」と、そのかたは納得なさったそうだからです。
ここで書いたことだけでは非常にきつい風に受け取られてしまったようなのですが、それはむしろ私の筆力の問題です。
先生ご自身はごく物柔らかな優しい佇まいのかたでしたし、上から目線で見下ろすようにして「つまらない」とおっしゃったのではなかったのです。また、全体的な流れとしてそうであり、その作品は一例として上げられたにすぎず、その作品そのものを貶めるような意図もありませんでした。
そこは誤解していただきたくなくて、再度ここに書かせていただきました。
長々と失礼いたしました。