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DOUSHITAMONKA? (上)

御意見感想お待ちしておりまーす。

 




「秋穂ちゃん、起きてる?」

「…………はい」

「あ。ごめん。寝てた?」

「……いいえ? 起きてますか?」

「…………」

「起きてます?」

「……顔洗ってちゃんと目を覚ましてきなよ」

「……はい」

「僕はちょっと新と……」

「むがー……っ」

「? 秋穂ちゃん?」






   ◆ ◆   ◆ ◆  





 恥ずかしいところを見せてしまった、と思う。たぶん。


 今日は土曜日。

 現在はお昼を回って午後二時。

 ちなみに起きた時間も二時。

 つまりは今の今までずっと寝ていたわけで、今さっき兄さんに起こされたわけだ。ちくしょう。土曜朝九時のアニメも見れなかったし、いいとも創刊号もアッコにお任せも見れなかった。

 なのに兄さんには私のだらしない一面を見せてしまった。

「…………」

 鬱だ。不覚だ。自己嫌悪だ。

 思い出しただけでも赤面通り越して果てしない空なんかよりも真っ青になるわ。むがーって何よ、むがーって……。

 寝癖だらけでぼさぼさな頭を抱えて自己嫌悪にこんな寝ぼける低血圧の頭なんて壊れてしまえとテーブルに頭を叩き付ける。痛い。痛い。やっぱり止めよ。痛いのは嫌だもの。ただでさえ悪い頭が本当に頭が壊れたら困るもの。

 今からメールでも電話でも何でもいいから兄さんにつないで謝らなければとは思っているのだけれど、つながんない。どうやらケータイの電源を切っているらしい。

 八つ当たりにケータイを投げ捨てる。べぎんっ。しかも壁に当たって鈍い音と一緒に壊れたし。ああもうお前は悪くないのにこれで何度目だ。次はこれくらいの衝撃で壊れないようにG-SHOCKのケータイにしよう。

 ケータイも壊れたし、もう一日の半分は終わってしまってるし、何より兄さんはいないしもう今日はダメだ。

 よし寝よう。今日は今日という一日を寝て過ごそう。

 そんな怠惰な一日の予定を決定させて、私は愛用のベッドに潜り込んでもう一度寝る前に、冬眠前のクマのように何かを食べようと冷蔵庫を漁りに台所へふらふらと入り込んで、何かいた。

 後ろ姿がメイドっぽい何かがいた。

 まだ寝ぼけてんのかしら、私。

 脳に粘つく眠気を覚まそうと目をぐしぐしと擦っていると、その台所にいたメイドっぽいのは私に気付いたらしく、私の方へと振り返って、目鼻立ちのすっきりと通る愛くるしい顔をにっこりとさせてこう言った。

「あ。秋穂様おはようございます」

「おはようございます……秋穂、様?」

 もうおはようって時間でもないけど。

 何となくつられて私も言ってしまう。いやいや秋穂様って何だよ、秋穂様って。自分に様付けって何だよ。

 馴れない呼称に思いっきり戸惑う私ににっこりと微笑むメイド。

 うん。どっからどう見てもメイドさん。ただし着ているメイド服がどこかイメクラっぽくて胸がすごくデカくて金髪ツインテールってのがものすごい気になるけど。でもメイドさん、だと思う。

「あの、」

 アナタはどこのどちら様と訊こうとしたら口に何か放り込まれた。なにこれ、肉まん?

「今日の朝ご飯兼お昼ご飯兼おやつはエリーゼさんお手製の中華まんですよ」

 ふむ。中から肉汁が溢れるジューシーな一品。でも特に美味しくもなく不味くもなく普通。コンビニで食べる百円くらいの肉まんと違いが私みたいなジャンクフードに馴れてしまった現代っ子には分からないわ。

「どうですか?」

「喉が渇いた」

「あ、はい。どうぞ」

 と、渡されたのはきんきんに冷えた缶コーヒー。たぶん味を訊かれたのだろうに飲み物を要求した私も私だけど、肉まんにコーヒーかよ。しかもブラック。飲めねーよ。

「本当は烏龍茶でもあればよかったんですけどねぇ……」

「同感ね」

 やっぱり中華とくればコーヒーよりも烏龍茶。ついでにこれも肉まんじゃなくてあんまんだったらなお良しだ。

「まあ、ないものはしょうがないのです。秋穂様、中華まんもう一つどうですか?」

「ん。もらう」

「はい。どうぞ」

「ありがと。……ああ、あとそれからアンタだれ?」

「はい? エリーゼさんですよ? 知りませんでしたか?」

 知らんわ。

「今日からここでお世話になることになっているはずの家政婦さんですよ?」

 だから、知らないってば……。



 とりあえず、お互いによく状況が色々とわからな過ぎるので一回お茶でも酌み交わしつつ話してみることにした。

 のだが、

「だから、エリーゼは今日から秋穂様のメイドさんなんですってばぁ」

 さっきからコイツはこれしか言わない。

 とりあえずわかったことは、このメイドが自称私の家政婦でメイドなのだということとエリーゼという名前だということ。

 なんかものすごくうさん臭い。

「うさん臭くなんてないですよぅ。エリーゼはちゃんと旦那様に雇われたメイドで家政婦さんなんですってばぁ……」

「だからそれがうさん臭いっての」

 あの実の娘である私ですら情け容赦なくけなしまくる鬼畜生がそうほいほいと赤の他人であるようなメイドを頼んだりなんてするもんか。絶対に何かの間違いに決まってる。

「そんなことを言われましても……」

「そんなことでもないわよ。それにうちに家政婦を雇うような余裕なんてあるかもしれないけどないわ」

「そんなぁ……」

 実のところよく知らないけど。

「とにかくっ。アナタがうちの親父に雇われたというのはたぶん何かの間違いです。うちはメイドだか家政婦だかを雇うつもりはありません。もちろんお給金みたいなものなんて出せません。帰って下さい」

「そんなぁ!?」

「お引き取り願います」

「ではではっ、無償でもいいのです! せめて邪魔にならない程度に置いてくださるだけでも……っ!」

 エリーゼさんは私の足元にしがみついているような格好で土下座した。ううむ。金髪で風俗っぽいメイドさんが土下座ってなかなか見られない光景じゃないかしら。

「お願いですからぁ……!」

「……うるさい」

 この割とシュールな眺めにもいい加減に飽きてきた。それにしつこい。人がせっかくやんわりと優しく外面よく接してやってんのに何だコイツは。いい加減にしやがれ。

「どうか! どうにかぁ……!」

「アンタね……」

 懇願する声を上げ、いっそう低く頭の下がるエリーゼさん。うぜえ。

「お願いですから!」

「アンタね、それしか言えないわけ?」

「っ……」

 あら。何か今言った?

 足元で下がっている金髪頭に足を乗せてうりうりと踵で弄るも、エリーゼさんは文句の一つも言わない。

 なんかなー。踏み心地が思ったよりもよくて、私ってば何だかいけない気分になっちゃいそう。困ったわ。子供とご老人と可愛い女の子は苛めにくいものランキングでトップ5に入るのに。

 胸の奥のくすぐったい部分がちくちくと罪悪感にかられるのを感じながら、彼女、文字通り私の足下のエリーゼさんをちらり覗く。

「……ぐすっ……」

 泣いてました。

 うわぁい。いくらなんでも女の子相手にやり過ぎたわ。でもアレね。いちおうこの人、不審者だから。私は家主でこの人は不審者兼不法侵入者だから。たぶん。

 だから、だから――いや、でもこれはさすがにやり過ぎかも?

 そんなことを独りうんうんと唸りながら考えていると、足下から絞り出すような声が。

「な、何でもしますから……」

「それじゃあ先ずは私の足を舐めなさい。指先から丁寧に。足の皮がアナタの唾液で柔らかくなるまで」

 あ。しまった、つい……。

「は、はい。是非やらせていただきます……っ」

 やるのかよ。是非やるのかよ。

「んっ……」

 そして本当に私の足を舐め始めるエリーゼさん。いや、マジかよ。

 これは本当にいったいどうしたものだろうか……?








 


 







秋穂様に踏まれたいっ!







 

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