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School war for you (下)

もうどれくらい書いていなかったのか…

 


「…………? それで? そっからどこがどうなって会長はそんな血の海でぶっ倒れてることになるわけよ?」

 私が覚えている限りの事を一部始終を話した後、そう訊かれた。

「私が知るか」

 そんな言葉にありったけの気分の悪さを込めて一睨みかましてやると、柳生は「うわ。こえーなぁオイ」なんてわざとらしく肩をすくめて見せた。

 肩口辺りでバッサリと切られた赤みがかかった茶髪。右耳に安全ピンが三つ。左にチープなロザリオ下げたイヤリングが大小二つ。制服の胸元を大きくはだけさせた特徴に困らない麗人。柳生(やぎゅう) 久兵衛(きゅうべえ)

 私達の間で一悶着あった後、この生徒会室という異界に踏み込んでしまった彼には、いったいここはどんな惨状に見えたことか。

 血溜まり。顔面血塗れの生徒会長の死体。同じく血塗れの私。手に持った血塗れの細い花瓶。マジで惨状じゃねーか。

「しかもモロ七草が犯人じゃねーか」

 参った。たしかに。

 見るからにここは犯行現場(血塗れの生徒会室)で死体(血塗れの生徒会長)が転がってて犯人(血塗れの私)がご丁寧に凶器らしきもの(血塗れの花瓶)まで持ってるじゃないですか。

 うん。どう見ても私が会長を殺ったみたいにしか見えないわ。

「――なんて。そんなわけないじゃない」

「だよなー」

 しかしそこは柳生、さすがにこんな間違いやすい状況でもまったく慌てず騒がず。むしろ語尾に(笑)なんて付けそうな顔で朗らかに笑いながら、

「どうせまた、晶の病気みたいなもんだろ?」

 っんとに毎回よーなんて苦笑しながらハンカチを取り出して私に渡す。血を拭けということか。

 柳生はもう馴れたようなもので会長を引っ張り起こし、意識のないのをいいことにズルズルと半ば引きずるように運んでソファの上に投げて転がして顔の上に濡らした半紙を置いた。いやいや、なんか今流れるような動作でやったけどそれはマジで死ぬでしょうよ。いや。別に会長だからいいけど。

「まったくさぁ、この会長ももう終わってんよなー」

 かんらかんらと笑いながら柳生は床やテーブルを汚す血を雑巾で拭き取る。その手付きは本当に馴れたもので、業者の方も顔負け。

「ん。通販で買ったんだけど、このカーペット本当によく水を弾いてくれるんだなぁ」

 主婦か。いや、主夫か。

「しっかしまぁ、今度は何してくれさったんかねー。妙に七草の服はだけてるし。あんな噂も立ってるし」

 言われて気付く。うわ、ブラ全開じゃんすか。つか濡れてるし。

「まぁ、ここに連れて来られると大概こうなるわね。いったい何だというんかしら」

 ため息混じりに吐き捨ててやると柳生はひらひらと手を首もとで振りながら微苦笑。

「知らない方が幸せってこともあるが、聞きたい?」

 いいえ。けっこうです。

 知らない方が幸せならば知らないまま幸せでいたいので全力で拒否。聞かなくたってそれが悪いことなんだろうとは予想できてるので謹んで辞退させていただきますとも。

「うんうん。七草は賢くて何よりだわ」

 こいつに比べてなーなんて言いながら会長を足蹴にする柳生。アンタ本当に遠慮ないのな。

「こいつもさー、悪いやつではないんだけど中途半端にサディスティックなとこがたまにキズってやつだよな」

「……どこが中途半端よ」

 会長で中途半端なんて言ったらいったいどれだけの人が世の中でサディストと呼ばれることができるのか。そいつはサディストの化身だなんて言われても過言ではないようなやつじゃないか。

 あからさまにげっそりとした本気で嫌な顔を努めて作って言い捨ててやると、今度は柳生がため息混じりに呟いた。

「そこはホラ、知らないままのが幸せってやつで」

 ……何が?

 今もしかしたら聞いた方がいいのか、なんて思ってしまったが自重。知らない方が幸せだというのだから知らない方が幸せに決まってる! はず!

「うんうん。賢い子のがここでは長生き出来るからなぁ。七草のそういうとこ俺は好きだ」

 ぎこちなさそうに片目を瞑りウインクをする柳生。似合わないことこの上ない。

「何でそこで嫌そうな顔してるのかまったくわからねーけど、そんな賢い七草さんにご褒美があります」

「へ?」

「何と、今回は生徒会から俺が直々に頑張ってきちゃいました!」

 柳生が……? あの柳生が!?

「アンタ、今日という今日は何してくれた……?」

「ええっ? なに? その人を親の仇か何かに勘違いしてる主人公の目!?」

「どんな目か。つーかアンタが自分から、直々に働き出してロクな目を見たこともないんだからとっととゲロりなさい!」

「……秋穂ちゃん、女の子は言葉遣い大事よ?」

「秋穂ちゃん言うな!?」

 何でオネェ言葉か。

 てか、いっこうに話が進まない。相変わらず掴み所がないというか、疲れる相手というか。とにかくもう嫌だ。

「もうさーそんなに慌てなくていいじゃんかよー。七草と会長の件を消すため今回俺が立てたスケープゴートは七草じゃないんだからさー」

「だ、か、ら! それが問題なんでしょうが……!」

 やっぱりか!! という叫びよりも先に出たのはそんな言葉だった。

 この男、この学園で何かと起きるものを噂を流して消してしまうのが得意だなんてどこの諜報部の回し者だと言いたくなるような男が直々に動くなんて言った時、――必ず誰かが犠牲者となるのだ。

 本人いわく「やむおえない犠牲なのです」なんて言うが、どこがやむおえないのかを一冊の本にまとめて見せてほしい。

 今回の件、私にとってはたしかに好都合ではあるのだが。

「それで、今回私のために犠牲者になってしまった可哀想な子は誰!?」

「そ、そんなに慌てなくとも……。首、絞まってて……言えな……」

 顔が青い。どうやら首を絞めていたらしい。わざとだけど。

「アンタのせいでまた誰かが泣くことになるでしょうが! 早いとこ被害者確保してやらなきゃ可哀想じゃない! だから吐きなさい!」

「うわぁ。七草やっさしー……待って、待って下さい。言うから!? 言うから俺のただでさえ細い首をさらに絞め上げないで!」

「だったら早く吐きなさい!」

 ギブギブなんて私の腕を叩きながら、柳生は青から土気色に変わった顔を歪に引きつらせながら言った。

「会長」

「……よし。許す」

 首にかけてた手を放してやると、柳生はゲホゲホと激しく咳き込みながら私を睨んだ。

 私はそれを柳生が普段やるように肩をすくめて見せ、かける言葉もなく生徒会室をあとに。あの噂が消えたと柳生が言うならきっとそうなのだろうし。それならそれでここにいる意味はもうない。

 ついでに、今は少しだけ気分がいいからこの気分が壊されないうちにさっさと退散を決め込んで。



 さて今回、会長はいったいどんな噂でスケープゴートとされたのか。

 とにかく――楽しみでしょうがない。





 



もし、この作品を待っていたというなかなかの強者がいたら申し訳ねえ!

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