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School war for you (中)

いろいろと忘れてました(笑)

 




 生徒会室に殴り込みに行ったところ、生徒会室には鍵がかかっていた。ドアに耳を当てて確認したかぎり、どうやら中には誰もいないらしい。

 会長はたしか三年生のはずと三年生の教室を渡り歩くもなかなか会うことができず、その間にもどこからか小煩く「七草、俺はまだ愛してる!」とどっかで聞いたような声。あの先輩三年生だったのか。

 そんな声は当然のごとく無視を決め込み一つ一つの教室を覗き歩く。

「君、何かうちの教室にようでもあるの?」

 三番目の教室で見知らぬ男に声をかけられた。顔に張り付けたような薄ら笑いが酷く不快だ。

「いいえ。ただちょっと尋ね人を」

「尋ね人? この教室にいるやつなら呼んで来ようか?」

「いえ。ここにはいないみたいなので、けっこうです」

「んー……じゃあさ、」

「失礼しました」

 めんどくさい。

 何だか勝手に話し出そうとしていたのでいつもの通りに猫をしっかりと被って笑顔を貼り付けてそう言うと、私はその男から半ば逃げるようにその場をあとにした。

 後ろからさっきの男が何か爽やかな笑みをいっそう輝かせていたり歯の浮くようなセリフを吐き続けているけど無視。なれなれしい男は好みじゃない。それに何より今用があるのはアンタじゃない。

 あくまで用があるのは会長で、これからぶん殴って黙らせなければならないのも会長。あんな男に構ってる暇なんてないのだ。



 三年生の教室を一通り巡ってわかったのは、会長がどこの教室にもいないという事実。

 もしかしたら昼休みということであのレズっ気に富む会長なら食堂で女の子の一人や二人でもたべているんじゃないかと思い食堂に行ってみるも見当たらず、代わりに、


「一井さんもかーわーいーいー」

「……先生、食事中くらいは静かにして下さい……」

「秋穂ちゃんと違って大人しいし。何よりその困ったような顔がかーわーいーいー」


 変なのをみつけてしまった。

 月見うどんをはふはふという可愛らしい擬音を立てながらすする遊良と、もうどうしようもない変態が。

 ってゆうか遊良のあんなに嫌そうな顔はひさびさに見た気がする。そんなに嫌なのかしら。嫌だろうけど。

「ねーねー。あたしのものになっちゃいなよ」

「ええっ……それはちょっと……」

「あたしのものになってくれたらすっごく可愛がってあげるわよ、毎日、ベッドの中で」

「……遠慮します」

「うーん、何だかなぁ……どうしたらアナタを落とせるのかしらね……」

「どうしたもこうしたもありませんよ」

 いい加減に遊良の顔も今すぐ泣けと言われたら本当に泣き出してしまいそうなくらいに可哀相なものになってきていて、それを見ているだけでも十分に心持ち癒されはするのだけれど、さすがにそれは良心が痛み。私はそんな遊良の顔を間近で見たいついでに横槍からの助け船をだすことにした。

「あ、秋穂ちゃん……っ」

 突然あらわれて遊良の隣りに座った私を見て、先生は傍から見てる分には面白いくらい動揺しながら「違うのよ!? これは浮気じゃなくて、スキンシップついでにつまみ食いを――って違う!? ここはたしかに食堂だけど別にそういう意味での食べるじゃなくて!」とか何とか、なんかを口走りながら否定してたりどう見ても魂胆を正直に吐き出してたりと必死なんだけど別に私はそんなのに興味はない。てか正直どうでもいい。

「でも一井さんには秋穂ちゃんとは違った可愛さがあってね……!」

「はいはい。遊良が可愛いのは前々からわかっていますから。――遊良はアナタと違ってバイでもなければレズっ気なんて一切ないノーマルですけど」

「っ……」

「それに遊良にはカッコいい彼氏さんがいるし」

「え?」

「知らなかったんですか? 先輩ですけど。有名な人だからきっと先生も知っているはずですよ?」

「どんな?」

「武蔵先輩。知りません? あの身体が大きくて、カッコいいけど少し顔の怖い」

「……知ってる。もうめっちゃ噂されてる、すごく聞かされているわ」

「でしょうね」

「あの、あのね。いちおう訊いておくけど……、まさか、あの九条君とか紫藤さんみたいなのとお友達の……?」

「はい。その武蔵先輩ですね」

 問題児、の友人、武蔵先輩。

 野性味あふれる身長ニメートル近くの巨漢。たしかにかっこいいけどめっちゃ強面。すごくピュアに優しい人だけど、見た目ヤの字の人もビックリの迫力。しかもとって付けたような広島弁を使うものだからもう、仁義なき戦いなんてフレーズが似合ってしまう好青年。趣味はお菓子作り。料理。掃除。編み物。

「ゆ、指詰められるのかしら……」

 詰められねーよ。それじゃ本物のヤの字の方じゃない。

 何だか知らないけど、先生はそう言ってテーブルにうなだれて青い顔をしながら脂っぽい汗で額を濡らして呻き、何かの答えにぶち当たったのか、どこか愕然とした様子で遊良を指差して言った。

「……一井さんって、もしかして極道の女……?」

 何でそうなる。

「……ええっ?」

 遊良が困ったような悲鳴を上げて私を見る。可愛い。可愛いんだけど私を見ないで早く否定しなさい。

「どうなの、一井さん」

「ええっと……じゃあ、そんな感じで……」

「おい」

 今、先生が遊良の襟首引っつかんで強引に言わせたように見えるけど。ってゆうか本当に否定しようよ、遊良ちゃん。

「……つまり一井さん実は怖い人種の仁義に尽くして生きる人なのね……」

 いや。

 いやいや、この純粋養培された純情少女の遊良のどこをどう見ればヤの字の方に見えるなんておバカなこと言ってくれやがるんですか先生。

「あー……ノーコメントで」

 遊良。アンタもアンタで先生のこと苦手なのはわかるけど。けど、めんどくさいからってそんなてきとーに答えないの。極道の女にされるから。誰も信じないだろうけど。

「……そう」

 アンタも本気で信じたような顔すんな。遊良が余計に困ったような顔してまた余計なことを言っちゃうじゃない。

「そうなんです」

「いや。だから違っ……」

「秋穂ちゃん行こ」

「あ。ちょっと」

 ありえない誤解そのままに、遊良は私の手を引いて立ち上がった。そして愕然とする先生を一人残したまま、食堂をあとに。

「遊良、あれいいの?」

「何が?」

 何がじゃないわよ。何がじゃ。

「何か変な誤解受けてるっぽいけど……」

「んー……いいんじゃないかな。付きまとわれるのは、その、ちょっと困るし。今さら撤回するのもめんどくさいし」

 微苦笑を浮かべる遊良。可愛いんだけど、今さらりとめんどくさいって言った。

「それに、」

「それに?」

「私は清人さんを悪く言う人は嫌いなのです」

 なのですって。

 うわ。可愛いっ。

 一度でいいから遊良みたいな可愛い娘にそんなこと言われてみたい。

「遊良みたいな可愛い彼女を持って、武蔵先輩は幸せ者ね」

 他人ごとなのに思わず緩んでしまう頬を抑えつつ、茶化すようにそう言うと、遊良は照れながら「もう秋穂ちゃんのバカ」なんて言いながら私を叩いた。可愛い。可愛いんだけど私のバカさ加減と可愛い彼女持ちは関係なくない?

「ところで秋穂ちゃん、どうしてここに? 今日はメイドさんが作ってくれたお弁当があるから食堂はパスなんじゃなかった?」

「ああ、実はお弁当もパスして探し出して撲滅しなきゃいけない輩がいやがるのよ」

 少し引きつった顔をして遊良が、私からひいた。

 自分で言うのも何だけど間違ったことは言っていないはずだ。というかアイツは殺す。


「それって、もしかして私のことかしら?」


 瞬間。

 耳に当たる生暖かい吐息。背筋にぞぞぞっと走る悪寒。

「な、なっ、なな何!?」

「あら。いい反応」

 無様に慌てふためきながら耳に息を吹きかけられたことを理解。やったのは間違いない。

「会長!」

 半ば突き放すようにして会長を押しのけ、指を突き付けて言ってやる。生徒会長、乃木晶。

「秋穂ちゃんが私を探してくれてるというから来てみたら、随分な扱いね」

 やれやれなんて大げさに溜め息を吐いて応える生徒会長、ものすごく余裕しゃくしゃく。すっごくムカつく。

「それで? 私に何か用?」とどうせわかっているくせに訊いて「私と秋穂ちゃんとの朝のディープキスのことについてなら却下よ」

「――――」

 なんて、御丁寧に話の落ちまで付けてくれて――。

 周りざわざわ。

 私赤面。

 なのに、――会長は平然。

「あら? あらあら当たり? だったらここで話すには少し恥ずかしい内容ね」

 ついて来なさいなんて言いながら会長は私の襟首を掴んで、私は母猫に噛まれた子猫みたいに無抵抗に引きずられて食堂をあとにした。

 さらに増して向けられた視線の数々に目を白黒しながら。どうにも働かない頭で、何でこの人こんなに平然としていられるのかを私は真剣に考えながら。

 なされるままに。その場をあとにした。






 


 前々回のあとがきでの予告タイトルと前回出したタイトルが違う件について。間違えました。ええ。もう、素で。まことに申し訳ないっ。

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