Prologue (上)
――好きだ。
「好きだ」
次は、愛してる。
「愛してる」
最後に決めゼリフ。
「だから――君と別れたくなんかない」
「……はいはい」
まったくもって予想通りのセリフに、思わず欠伸が出てしまう。
「――で?」
「……は?」
だから何よ、と。そんな私の答えに、川口先輩は唖然といったような顔で固まってしまった。いや。先輩。そんな愉快な顔してないでちゃんと私の質問に答えてよ。
「……どうして? 俺のどこがいけなかったのかな……?」
やっと返ってきた答えは、私へのアンタの疑問。いやいや、あのね。先輩。だから、訊いてるのは私なんだけど。
つーか、いい加減に飽々してくるわ。もともと、私はアンタと彼氏彼女の仲とか恋人同士だとかの仲になんかなった覚えもないつーのに。勝手にアンタが私の彼氏名乗って付きまとってただけじゃん。ぶっちゃけすごーく迷惑だったよ。こんちくしょー。
「俺は、前に七草が言ってた男の好みみたいなのに合わせたつもりだし。俺は俺で悪くないと思う。その辺の男なんかより俺の方が全然良いと自負しているよ。ただ、それでも七草がまだ俺に気に入らないところがあるって言うならこれから直して――」
「いい加減、少しは黙れよ」
本当に五月蝿い。しかもさっきから聞いてれば本当に何様? 私の言った男の好み? 何よそれ? 私の好みなんて兄さんとしか言い様のないんですけど。
「私はアンタの彼女でも何でもないんだから。最初から別れるも何もないわ。ただ最近いろいろと付きまとってきてウザイから――消えろって言ってんだよ」
「何、言って……」
「だから、ウザイよ。アンタ」
動揺。困惑。混乱。
まぁ。普段の私のキャラは大人しい女子高生だからだろうね。こんなこと言うなんて思ってもなかったんだろうね。
「俺は……だって、お前が好きで……」
……馬鹿かしら。
自分が私を好きだから自分と私は恋人同士――何だそれ? 甘々な連続TVドラマの見すぎじゃないの?
くだらない。私には甘すぎて吐気がするよ。先輩。つーか、
「そんなこと言い出したら付き合ってるやつなんてアンタだけじゃないし」
「――は?」
「私のことを『好き』とか『愛してる』とか言ってくれるやつなんてこの世にはごまんといるんだよ。例えばアンタの友達連中でもさ」
これでも私、顔には自信あるんで。それ以外はからきしだけど。
「なっ、な……」
「わかったらさっさと消えてもう私には関わるなよ。青春の無駄だよ? 女なんて私以外にもその辺歩いてんじゃん。それとも何? そんなに女の子に飢えてんの? それなら自分で自分を良い男なんて自負してるその素敵な顔でてきとーに女ひっかけて遊んでればいいじゃん」
「――っいい加減に……!」
殴られた。
しかも顔を、だ。
「お前に……お前なんかに……」
痛いよ。馬鹿野郎。
女の子の顔を思いっきり殴りやがって。訴えられるんじゃないかしら。これ。
まあ。何にせよ。これで、
「さよなら。先輩」
さすがに自分が殴った女の子と付き合うほどアンタも面の皮厚くないでしょ? ね。良い男さん?
「……くそっ……お前に……お前……っ」
ばいばい。さよなら。二度と私の前に現れないでよ。
「――痛っ」
殴られた頬が熱を持って腫れてる。ああ。まったく。思いっきり殴りやがって。痛いよ。馬鹿野郎。
…………。