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少女はリンゴをかじった
ーーー鏡よ、鏡ーーー
ーーーこの世で一番美しのは?ーーー
ーーーだあれ?ーーー
何百年も時代を超え、魔女が唱えた呪文は今でも時折聴こえてくる者がいると云う。
それは嗄れた声だったり、若々しい声だったり、子供の高い声だったり。
誰が唱えたかは確かめたものはいない。
これは昔々語られた魔法や魔女を信じた、いや実際に存在していた時代。
世界は緑に溢れ、人々は妖精やエルフ、ドワーフと触れ合えた、そんな昔の物語。
吟遊詩人が伝え歩いた物語の一つがこのリンゴが名産となっている村にも語り継がれている。
それはそれは美しい王女様と隣国のエルフの王子が紆余曲折を得て結ばれたという話だ。
その物語の中に王女の友として一人のリンゴ売りが出てくる。
猟師と結ばれた少女が。
しゃくり、しゃくり
ここに売り物のリンゴをかじる少女が一人いる。女王の友となった者を祖先にもち、その血を色濃く継いだ少女だ。
「あ、こら!エル! 売り物を食うんじゃねえ! 」
「いいじゃないの。こんなにあるんだもの」
食べ物に困らなくなった時代でも彼女達の食い意地は続いていた。