39感情
「追いかけよう!」
ロイズはどこまでも走って行く。
いりくんだ道を駆け抜け、家と家、壁と壁の間をすり抜けていく。途中で沢山の人とすれ違い、ぶつかり合いながらも進む。
アズが、ふと、気が付いた。
「…なんで誰も火を消しにいかないんだ?」
「確かに変だな。逃げている人達、老人や子供達だけじゃない。大人もみんな逃げてる」
気がついてみれば、周りには店が沢山並んでいた。どうやらロイズは町の中心地に向かっていたようだ。
突然、ロイズは細い路地の出口手前で立ち止まり、壁に身を寄せた。そうして細い路地を横切る大通りを、そ、っと覗きこんだ。
アズ達は、どうせ誰にも見えないんだから、と、大通りに出てみた。
すると、
「全員皆殺しだ!どんどん火を点けろ!誰も逃がすんじゃねぇぞ!」
誰かが、叫んでいた。
「な、んなんだ…、これは…」
「だからみんな逃げてたのか…」
アズは一瞬言葉が出てこなかった。
「大丈夫か?」
顔が少し青ざめている。
「あ、あぁ、大丈夫だ。それにしても、あいつらは誰なんだろうな?それに、あいつらの言葉は理解できるなんて…」
「わからない。それに、あいつの言い方から察するに、沢山の仲間がいるんだろう。ここからは見えないだけで」
「…だろうな」
アズは、じ、っと、前を見つめた。被っていたフードが頭からすべり落ちそうだった。
「…俺達は、無力だな。ここに来るまでに、沢山の死傷者を見た。その人達に対して、何もできない。いま見ている、この、状況が、たとえ過去のものであったとしても、現実でこんなのが起きたら、俺は、多分、何もできない。確かに、全部を一人で背負い込むなんて、ここにいる全員を一人で助けようなんて、無理だし、そんなの傲慢以外のなにものでもないけど、でも、やっぱり、今のロイズだったら、「アズ、」
オーウェンは静かに遮った。
「大丈夫。
…みんな、そうだから。だから協力するし、助け合うし、仲間をつくるんだ。自分に無いものを補いあうために。だから、大丈夫だ」
アズは、オーウェンの方を向いた。
すべり落ちたフード、そしてその長い前髪の間から、大きな、澄んだ目が覗いた。
「…そっか」
「それに、わかってるから。ここで、自分一人でただ言ってるだけじゃ、何の意味も無いってこと。行動をしなければ、何もできない子供と一緒だ。
…ただ、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。自分の感じたことを、素直に言葉にしたかっただけなのかも」
最後の方は小さくて聞き取れなかった。
でもアズは、どこか、すっきりした顔をしていた。
「で、最初の疑問に戻るが、俺達はどうすればいいんだ?…あっ!ロイズは?」
「まだそこに…、あれ、いなくなってる。どこ行った?」
「でも、この虐殺は乗りきったんだろう。今も生きているんだし。それにしてもあいつら…」
「あぁ。もっと近くに行ってみるか」
しかし、急に目の前が暗くなった。
そして、ぐらり、と体が傾いた。