21ローイに向かって
気付くと薄暗い部屋にいた。
ローイには海を渡らないと行けないし、地面が震えている。おそらく船の中だと思う。
いつの間に海の上だったのだろうか。実のところ、かなり疲れていた。だから深く眠ってしまっていたのかも知れない。
そしていつの間にか両手両足が縛られていて動く事が出来ない。
今は一体いつなのだろう。オーウェンと何時夢で会うのか、を約束しなかったのが悔やまれた。夢で会うにはお互い眠っていなければならないからだ。
「大丈夫だったかな…」
思わず零れ落ちた言葉に驚いた。そんなにあいつの事を心配していたつもりは無いのだが。
しかし何か嫌な感じがある。何かあった事は間違いない。
突然天井が開いて人が降りてきた。差し込んだ光が眩しい。
「やっと起きたのか」
降りてきた男は天井を閉めた。先程まで明るい所にいたのに暗順応が早いらしく、真っ直ぐアズのもとに来た。
「…腹とか減ってるか?」
「…減ってる」
言った途端にお腹が空いてきた。
男はそうか、と言って固い黒パンを差し出した。
しかし手を縛られているので差し出されても受け取れない。こいつは何故そこに気付かないのだろうか。
「…縄を解いてくれないと取れないんだが」
「あ、そっか」
と言って暫くの逡巡の後、上に登っていった。
少し立つと戻ってきて、手の縄を解いた。どうやら了解を得てきたみたいだった。
黒パンを食べる。食べている間、ずっと見つめられて食べづらかった。
「…お前さぁ、何したんだ?いち国王の命令で捜されるって、よっぽどの事だぜ?」
「…それはこっちが聞きたいくらいだな」
「ふうん。あ、俺、お前の世話係になったから。それにしてもお前…女だろ?何でそんな格好してんだ?最初フツーに男だと思ったし」
「…何か問題があるのか?それよりも、何で女だと分かった?」
「お前運んだの、俺なんだけど。世話係だし」
良かった。見た目はきちんと男に見えるらしい。
「おい、ロイズ!さっさと戻ってこないか!仕事は山ほどあるんだぞ!」
「今行きます!」
こいつはロイズ、っていうのか。
上から降ってきた声に返事を返した。
「じゃ、もう行くから」
アズの手を再び縛って登っていった。