表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名も無き物語  作者: ルイ
2/3

0-2雨夜(あまよ)

グロあり。ぬるいですが

支給品の長刀ではなく、サワラーと呼ばれる短刀だ。刃渡りは約2クレール(1クレールは10,1センチ)の一番小型のもので、彼の愛用品だ。

「左利きか…珍しいな」

少年の斬撃を避ける。が、切っ先が服を霞めた。今度は服が燃え上がる前に脱ぎ捨てる。紫の炎が床の上の衣服を凍てつかす。

「喰らえっ!」

後のことは一切考えず、深く深く踏み込んで、武器を振るった。その切っ先は、少年の髪を数本落としただけだった。瞬く間もなく、男の首は宙を舞うことになった。首のない胴体からは、さながら噴水のように血が吹き出す。首が紫色の炎に包まれる。断末魔すらあげることなく、紫に抱き締められた首が地面に無造作に転がった。命の灯の消え失せたからだは骸となりはてる。肉塊がゆっくりとたおれる。時間が遅くなったような奇妙な視覚の起こす錯覚。血をふきだし、やがて動かなくなったそれ。

「さ、てと…」

少年は懐から人間のテを、手首から上の部分のミイラのような物体をとりだした。何とも言えない嫌な臭いのするそれを、燭台に突っ込んだ。当然のことながら、それに火が燃え移った。

「あー、気持悪い」

そうぼやきながら、少年は脈打つ壁に手を触れた。少年の手が、壁に溶け込むように消えていく。壁はそれを拒絶し激しく脈動する。それは、人間の体内に、臓物の中にてを突っ込む感覚ににていた。少年はそんな感触に目眩さえ覚えた。

「慣れない…」

最悪…、その一字が少年の思考の中心に座していた。壁に少年の腕が完全にのみ込まれる。絶叫が壁から漏れた。それはいったい何を意味するのか?…やがて少年は壁の中に飲み込まれて、消えた。

鳴り響く雨音は空の涙か。涙だと言うのなら、感涙か、悲涙ひるいか…。

轟く雷鳴は絶望の複線。口付けをほどこした、あの女神はもういない。無粋で、冷たい雲に覆われて、愛しいものを見守ることすら出来ない。

燃え続けていた紫炎しえんは、既に消え去っていた。

微かに香る血の臭い。誰にも届かぬぬ最後のことば。

何人なんびとの思いも等しく抱き締めて。

雨は降り続けた。

雷鳴は轟き続けた。

風は悲しみ、歌い続けた。

女神の口付けの代わりに夜の闇がそっと、抱き締めた。

夜は更ける。新たな、物語の始まりに向けて。急速に、静かに、優しく…。

世界は、悲しみにくれていた。そう、王宮の詩人が歌ったのは、ちょうどその頃。人々は、歌の終りを知らない。

楽しんでいただければ幸いです。感想は励みになりますし、何より上達したいのでよければお願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ