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龍の逆鱗  作者: 銀狼
王宮編
86/92

第86話:尋問其の三 哀車の術

「さて、ちょっとお話を聞かせてもらおうか」

 罪人を拘束している牢の1つ。龍斗はその中に入り、椅子に座って正面にいる女暗殺者を見据えた。捕らえられた時と同じメイドの服装、髪の色は緑。ごく最近龍斗の部屋に忍び込み、龍斗に返り討ちにされた人物である。

「取り敢えず確認だけさせてもらおう……あんたの本名、エステナ・ディオンだな?」

 暗殺者の口から返答が出ることは無かった。だが藍色の目は、相手の目が揺れ動くのを見逃しはしなかった。

(目が揺れるのは動揺の印……ロビンの情報は正しいということか)

 僅かな動作も見逃すまいと注視しながら、龍斗は女、エステナに更なる言葉を投げかけた。

「3週間前、メイドに扮してこの後宮へと侵入。入り口付近で俺を出迎え、その日の夜に俺を殺しに来た。そして逆に、俺に捕らえられた間抜けさん」

 最後の言葉に反応したか、エステナは俯いて体を震わせた。その変化に注意しながら、龍斗は更に言葉を続ける。

「そんでっつーか、まあこっから考えてもそそっかしいのは明白だな。急いては事をし損じる、とはよく言ったものだ。手口も非常に単純だな。寝込みをナイフでか。それで済むならまあとっくの昔に死んでるわな俺は」

 龍斗の言葉1つ1つに反応するエステナ。次第に体の震えが大きくなっていくのが見て取れる。これを機と捉えた龍斗は、他の情報の確認をするために言葉を続けた。

「でだ。あんたが今までに関わった案件はこれを含めて5件。うち成功したのは2件のみで、残りは全て失敗と」

「う、うう……」

 微かに呻き声を上げた緑髪の女。様子に注意しながら、尚も龍斗は言葉を続ける。

「慎重さにも欠けるな。相手を知らずして仕掛けるなど論外だ。そういう意味ではやはりオリヴィアが一番か。ありゃあ潜入の基本をしっかり押さえてた。お前とは正反対だ。あとロビン。あいつは見事に隠れてた。ほとんど隙が無い侵入だった」

「うう……そ、そんなエリート達と私を比べられても……!!」

 エステナが声を震わせながらそう言った。その言葉に少し疑問を感じる龍斗。

「ん、オリヴィアはこれが初任務だろ? ロビンはともかく何故オリヴィアがエリートなんだ?」

「ち、小さい頃から、潜入特化の訓練受けてるから……私と違って……」

 オリヴィア本人から聞いたのと相違ない情報。ここで龍斗は椅子から立ち上がり、腕を組んでエステナに数歩近寄った。エステナは鎖で壁に繋がれ、膝立ちになっている状態の為、龍斗はこれを見下す格好となる。

「せっかちで辛抱がない、慎重さに欠ける、相手を知らず仕掛けていく怖いもの知らず、気は弱い、こんなんでよく暗殺者なんてやってられるな」

「……!! し、仕方、ないじゃない……わ、私たちがいい、生きるには……この仕事しかなかったんだから……!!」

 龍斗が投げかける辛辣な言葉に耐えかねたか、エステナの目から涙が落ちだした。それを見ても龍斗は態度と声色を変えず、威圧的な響きを以て彼女に問いかける。

「どういうことか、簡潔に言ってみろ」

「う……い、家っが貧しく、て……親はとっくに死んじゃってるし、弟妹を養ってくには、こんな仕事でもやってかないといけなくって……!!」

 自身の窮状を涙ながらに吐露していくエステナ。龍斗は話を聞きながら、無詠唱で『即応の霧』を発動させた。

(む……これで演技だったら相当な手練れだが……どうやらこれは素らしいな……)

「ふーん、あんたも大変なこった。それにしても、なんであんな時期にあんたみたいな素人を送り込んできたんだ?」

「そんなの、他に人がいなかったからに決まってるじゃない……この任務に関わった人間は、誰1人帰ってこない……ギルドマスターも大分焦ってた……『もうお前しかいない』って……なのに……もう駄目だわ、ギルドは壊滅よ……私も……」

 顔を伏せ、更に嗚咽を響かせる。そんなエステナの様子を見た龍斗は、眉を顰めて頭を掻いた。

(参ったな、このままじゃ何にもならん……いや、逆に付け込んで忠実になるよう洗脳、調教するか? ……その方が楽か……)

 龍斗は片膝をついて視線を下げ、手をエステナの肩に乗せた。





 翌朝、レイアが後宮の通路内を歩いていると、気難しい顔をした龍斗が正面から歩いてきた。

「おはようございます、龍斗様……どうかなさいましたか?」

 いつもと違う様子に違和感を感じたレイアはそう尋ねた。龍斗ははっとしたように顔を上げ、レイアを見てまた眉を顰めた。

「ああ、レイアか……いやちょっとな……」

「昨日は確か尋問をなさっていましたよね。結果を教えて頂けますか?」

 数瞬眉間の(しわ)を深くした後、龍斗は大きな溜息をついた。

「……ハァ……駄目だ、何の収穫も無かった。強いて言うなら暗殺者ギルドは壊滅寸前ってことくらいか」

「あら……珍しいですね、龍斗様が失敗なんて」

「別に俺は完全無欠ってわけじゃないからな……次はどうするか……」

 渋面のまま、次の策を考えながら龍斗は廊下の奥へと去っていった。レイアは何も言わず、ただその背中を見つめていた。

長らくお待たせいたしました。86話です。流れは出来ていたのですが問題は情報の方でして……結局こんな感じに終わってしまいました。もっと詰めておけたと反省しています。というわけで残り2つですね……


お気に入り登録件数が260件を超えました。読んで頂いている皆様、本当に有難う御座います。拙作ですがお楽しみいただけると幸いです。

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