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龍の逆鱗  作者: 銀狼
王宮編
78/92

第78話:軍の強さ

「言いだしっぺのあたしが言うのも何だけど……本当にこれでいいのかい?」

 【毒呼び】マリアーナが戸惑いの声を上げた。他の親衛隊のメンバーの考えも同じだった。龍斗の提案は1対17という多勢に無勢の戦い。まして相手は、見た目が変わっているとはいえ王族の1人。怪我でもさせようものなら一大事、加害者は牢屋行きだけでなく、この世を離れることも覚悟しなければならないだろう。しかし龍斗はそんなこと意にも介さなかった。

「大丈夫ですよ。あ、もしかして傷つけたら……とか考えているなら気にしないで下さい。私の自己責任ですので」

「と言われてもな……王族だしな……」

 誰かの呟きを拾った龍斗は、それを鼻で笑った。

「王族だからって何ですか。今あなた方の前にいる私は仮にも敵……どんな人間であれ敵は敵。戦場じゃ身分なんて関係ない。私は全力で命を賭して戦いますので、全員そのようにお願いしますよ。でなければ……生半可な者は命を落とすことになる」

 途中から龍斗の雰囲気、声色、態度が変わった。先程までの気軽さは何処にもない。無表情で静かに佇むその姿。自分を人間として見ていないかのような酷く冷徹な視線を前に、隊員達は認識を改めるしかなかった。それほどまでに隙のない、相手に殺しを認識させる雰囲気をまとっていた。

「では、用意」

 剣、刀、銃、突撃槍、ワンド、等々皆レイアの声を合図に各々の武器を構えていく。龍斗はその間、片膝をついて次々に手印を組み口を動かしていた。やがて手印を解き、ゆっくりと立ち上がる。

「無常の闇を切り裂かん、『暁』」

 同時に懐にあった脇差を引き抜き腰を落とす。構えを作った龍斗は審判役のマーティス姉妹に視線で合図を送った。ミーアが頷き、2人が両者の真ん中辺りに移動する。

「では……」

 暫くして、試合開始の合図となる拍手(かしわで)が1つ鳴った。そして無情にも、その一瞬で勝敗が決まった。隊員達が動き出そうとした途端、得物を落とし膝から地面に倒れていった。崩れ落ちた隊員達の最後尾には、いつの間にか龍斗が立っていた。暗く重い、闇のように無機質な声で呟いた。

「……勝負あった」





「――というわけで、いくら個々人が強かろうが軍にあっては関係ない。軍の力は組織力。1人1人が好き勝手に動いて、まともに戦えるわけがない」

 試合の後、龍斗は隊員に対して軍の何たるかを説いていた。忍とは、暗殺者であり、間諜であり、参謀であり、武人でもあり、ときには政を司ることもある存在。故に忍を志す者は、体術だけでなくありとあらゆる知識を習得しなければならない。ではそれが何処で生かされるかというと、例えば敵国に軍の参謀として潜入、自国に有利な陣展開を敷かせたり。例えば敵国の財務を扱う部署に潜入し、経済を破綻させ国を弱体化させたりといった工作の場合である。故に龍斗も、これに倣って様々な知識を身に着けていた。その中には当然兵法もあるということである。

「……ハァ、ま、しゃーないかー。あたしの目的のためには辞めるわけにいかないしねぇ……ただ、さっきあんたが何をやったのかは教えてくれるんだろうね?」

 全員を一瞬で戦闘不能にしたのはどういうことか。その答えを知りたがっているのはマリアーナだけでなく、隊員全員が口々に似たようなことを言ってきた。

「ああ、あれか……其の速きこと風の如し、我走るに大地を欲さず。即ち我宙を駆けんとす、『天駆翔走』。其の速きこと風の如し、風を味方に事を成す、『追い風』。我が身を鋼に矛盾とならん、『金剛鉄身』……」

 手印を変えつつ、複数の呪文を唱え術を発動させていく龍斗。一通り終わると紫の目を隊員に向けた。

「……とまあこれだけの術を予め発動させた。気概空手の『衝拳』や『砕岩衝』も使いながら、俺の最高速度で駆け武器を持つ手と膝に峰打ちだ」

「そ、そんなに沢山の魔法を予め発動させていただと!? そんな卑怯な――」

「卑怯だと思うか? 命を張った戦場で、勝つか負けるか、生き残るか死ぬかしかない状況でも同じことが言えるか? 結果が全てだ。勝つためには手段は選ばない。俺の戦いとはそういうものだ」

 誰かが挙げた抗議の声を、龍斗は冷酷に一蹴した。なまじ正論であるだけに、反論する者は誰もいなかった。龍斗が続ける。

「俺の全力とは、術、体術、剣、頭、己が持つ全てを最大限生かすこと。最も効率よく相手を仕留める、そのためにとった手段の1つが速さだ。無駄な打ち合いは控え狙い定めた攻撃に集中する。逆に言えばその狙い定めた攻撃を防がれると、俺は危うい……今回も、本堂殿に初撃を防がれたしな」

 全員の視線が、集団の中にいる和服姿の男に向いた。刀を傍に置き、正座して話を聞いていた【一撃必殺】本堂浩太は静かに答えた。

「拙者の剣は大友流の奥義『居合』、速度と威力を両立させるために得た速さが、運よく東殿の速さと噛み合ったのでしょう。なれど直ぐに膝をやられ、結局は地に伏した。免許皆伝した身とはいえまだまだ修行が足りませぬ」

「得物が違うし、『居合』はその一撃が全て。剣を振ってしまった後はどうしようもない……誤解の無いように言っておくが、今回俺が勝ったのはあくまで本当の意味で出せる力を全て出した、それが上手くいったからだ。1つ1つの力で言えば……正々堂々逃げずに魔法のみで戦えば、【毒呼び】や【雷火】には勝てないだろう。術の強化なしに剣のみで戦えば、本堂殿はおろか坂本殿にも勝てるかどうかは怪しい。総合力とはそういうものだ。そして軍の強さは集団としての組織力と総合力。魔術師に剣で戦うことが出来るか? 剣士に魔法で戦うことが出来るか? 不得手は他者に補ってもらい、長所を最大限発揮出来てこそ軍は力を持つ」

 その後龍斗は隊員1人1人と、文字通り『正々堂々』戦う試合を行った。魔法には魔法、剣には剣、槍には槍で戦った結果、龍斗自身が言ったように勝ちはほとんどなく、良くて引き分け、負けることが多かった。

『軍とは組織力、総合力。個々の力だけでは強いと言えない』

 その言葉を再認識した隊員達は角を丸め、真面目に軍の一員として訓練するようになったという。

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