第75話:結果
「――以上が、私からの報告です」
エルグレシア王国セトラベルク地方にある立派な王城。その中でも他者に魅せるため特に豪奢な作りとなっている謁見の間にて、たった今龍斗が報告を終えた。恭しく頭を下げている彼の正面にいるのは、玉座に座るこの国の女王、エルペローゼ・ミラ・デ・マルクス・ラ・アンドリュー・エルグレシア。その右隣には、宰相にしてエルペローゼの夫、正に女王の右腕たる男ウォルトン・ラ・ヴァンデント・アンドリューが控えていた。段を下りて左右には、貴族たちが列を為して立っている。彼らは近くの者と口々に何かを言い合ったり考え込んだりしていた。女王やその夫も、立場上顔には出さないように努めているものの、内心はかなり驚いていた。
「……何はともあれ、内乱平定、大儀であった。褒賞などについてはまた後日に知らせる故、今日はもう下がって良いぞ」
「はっ……では、失礼致します」
一礼した後、龍斗は謁見の間から去っていった。
「……とんでもないことになったわね」
人が去って静かになった謁見の間に、女王の呟きが広がった。相変わらず王の印である王冠をぞんざいに扱い、威厳の欠片も無い姿を晒している。彼女がここまで気を緩めるのは、この部屋にいる人間が自分と自分の夫以外にいないという状況だからである。公私共に彼女の右腕たるウォルトンは、今回もまた苦笑から会話を始めた。
「確かに。まさか自力で、軍の力借りずに……反乱が起きてる地方で更に反乱を起こすなんてね。とんでもないことしてくれたよ」
「そういう割に、随分嬉しそうね」
不満げな様子のエルペローゼは、胡乱な目をウォルトンに向けた。彼の顔は、苦笑とは違う確固たる笑みに変わっており、いかにも嬉しそうだと判断できる。
「うん、まあね。平民だから期待してなかったけど、想像以上にはるかに有能な人材だと分かったからね。才能を持つ人間には素直に好感が持てる人間だよ私は」
国にとって、ひいては王家や自分にとって利益となるか否か。そういう損得勘定で世渡りをしてきたウォルトンらしい返答だった。それを聞いたエルペローゼは、飽きれて1つ溜息をついた。
「いいわねぇ貴方は。目先の損得勘定で割り切れて」
「まあ評価の上ではね。ただ……王家にとってはどうかって問題が残ってる」
「そう、そこよそこ」
そもそも今回のライトベルク反乱平定を龍斗に一任した理由は何であったか。無理難題を押し付け力量の無さを知らしめ、エルペローゼ達の影響下に置く。それによって国内の反抗的勢力を牽制する、という目的の為であったはず。しかし結果はどうか。処理しきれずに断念すると思われた龍斗は、レイア、ミーアという協力者はいるもののほぼ1人で事に当たった。戦力はどうにもならないだろうと思っていたら、なんと反乱軍を内部決裂させて戦力を補充した。最終的に、無理難題として与えられた反乱平定を見事成し遂げてしまったのである。
それだけではない。龍斗は反乱が終わった後のことも考えていた。自治政府をただ壊して返還してきたわけではない。ライトベルクに住む民を説得し、後腐れの無いよう処理をしていた。綺麗に事を治めた代償として、傭兵に支払う給料等の金、ライトベルクの税率を不当に高くしない、協力者、平民の身柄保障等、様々なことを要求されたが、エルペローゼもウォルトンも龍斗がこの件を成功させるなどとは予想だにせず、後のことなど全く考えていなかったし、女王自身が全権を龍斗に任せると言った手前もあって、その要求の全てを受け入れるしかなかった。2人は『完全にしてやられた』という状態だったのだ。
「ライトベルクの民を説得するために正体を明かしたんだったか。ならもう彼を王族だと認めるしかない」
「それしかないわね……褒賞もそれなりの物を与えないと。要求された金、だけじゃ駄目よね……」
「いっそのこと、ライトベルクの全てを任せてしまうというのはどうだ? 政治の面でも優秀かどうかはまた別問題だし、上手くやるようなら、それはそれで良いじゃないか。幸い、現王家に害を為す考えはないと、全員の前で公言してくれたことだし。何かあっても対処は容易だ」
「……そうね。ここまで来たらもうなるようにしかならないわね……反国家勢力が不安だわ……」
「それについては、私からも奴に言い含めよう」
数日後、龍斗を正式に王族として認めること、その存在を公にすること、龍斗にライトベルクの全権を委任することが本人に伝えられた。もはや断るという選択肢が無い事を暗に示された龍斗は、渋々ながらこれに同意。翌日、盛大な催しと共に新しい王族としての龍斗が世間一般に公表された。但し本人の強い要望により、金髪に紫龍眼、つまり「ルート・イースト」としての公表となった。
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読んでいただいている皆様、本当に有難う御座います。
拙い作品ですがよろしくお願いいたします。
さて、これでようやく、長かった、悩みに悩んだ反乱編も終わり……ではありません。あと一話あります。