第73話:攻城戦、各々の力
煙管を仕舞ったユーヤは、ウォーハンマーを肩に担いで最前列へと歩いていった。誰からともなく道を開け始め、リョウイチの所から外壁まで人垣が出来ていた。壁と対峙するように立ち止まったユーヤは、ウォーハンマーを両手持ちにし大上段に構えた。
「リョウイチ!! 分かってんだろうなぁ!!」
突然名指しされたことで周囲の視線がリョウイチに集まる。それを歯牙にもかけずリョウイチが答える。
「ええ、準備は出来てます」
「上等……!! オラ!!」
「【獅子】だけじゃない……私の焔をなめるな!!」
ウォーハンマーが斜めに振り下ろされ、砦の外壁と衝突した。そしてその刹那、同じ場所で激しい爆発が発生した。石を積んで作られていた、堅牢なはずの外壁に穴が開いた瞬間だった。
その勢いのまま大地を穿つユーヤ。その衝撃がそのまま地震となって、敵味方関係なしに辺り一帯を揺らした。
「ちょ、ちょっと!! これは無いでしょう!!」
揺れの激しさに立っていられなくなったリョウイチが、味方側全員の心中を代弁した。唯1人平然と、次のポイントに移動するユーヤに悪びれる素振りは一切なかった。
「悪い、が、あともう一発だ」
「絶対悪いと思ってないでしょ……ハァ」
悪態をつきながらもリョウイチは、ユーヤが外壁にハンマーを当てた瞬間を見計らって指を弾く。破壊された外壁の石を、爆風などのエネルギーによって勢いをつけ相手に向けて飛ばす。手っ取り早く外壁を攻略できるし相手にもダメージを与えられるという一石二鳥のこの策は、この2人にしかできないことである。
丁度揺れが小さくなってきた頃で、ユーヤが声を張って指令を出した。
「サウロ班!! 全員集合!! こいつをぶっ倒す!!」
その声を聞きつけ、筋肉隆々の大男達が数人壁際に並んだ。そして、筋力、魔力、精神力の全てを注ぎ込んで、叫び声を上げながら一斉に壁を押し始めた。
「次、ポライト班とガイゼン班!!」
『嵐の神エンリルよ!! 天候の神、アイテールよ、ウーラノスよ!! 天空神ゼウスよ、ディオーネーよ!! 汝らが司りし力、今ここに束ねて1つの風と為さん!! 『アルティメット・ゴッド・ストーム』!!』
『水の神テーテュースよ!! 大地の神ガイアよ!! 汝らの御力を以て我が敵が立つ大地を変えよ!! 『液状化』!!』
ポライト班と呼ばれた魔術師の班は、思いつく限りの神々に祈りを捧げ、他に類を見ない強烈な風を呼び起こした。その風は木の葉や枝、兵の一部を巻き込みながら渦を作り、サウロ班の頭上、外壁の上部に大きな力を加えていく。それとは別の魔術師班、ガイゼン班は、外壁が建っているところの地盤を液状化し、柔らかい泥へと変化させた。
「上出来だ!! どけ!!」
ユーヤのその言葉を合図にサウロ班が離脱、唯1人残ったユーヤは人がいないのを見計らって円を描くようにハンマーを振り回す。
「――だりゃあ!!」
気合の掛け声と共に、遠心力の勢いがついたウォーハンマーが外壁と衝突した。地盤が緩み、更に限られた方向から強い力で押されたことにより、外壁はいとも容易く倒れていった。土煙と共に現われたのは、呆然と間抜け面を晒している貴族軍の私兵達。ユーヤはそれらを睨みつけながら、ハンマーで地面を軽く叩く。泥と化して緩んだ地盤が固い地面に戻っていった。
「構え!!」
その声を聞いた兵士全員が体を震わせた。しかし、離反組の兵士と傭兵達は、直後に各々の武器を構え直し戦闘態勢を取った。
「さあて、吠え面かきやがれ!!」
ユーヤのその言葉をきっかけに、傭兵や兵士が鬨の声を上げながら城内へと侵入していった。
「リョウイチ!! 俺は右回りで行く、反対は任せた!!」
「了解!!」
城壁内に侵入して早々、離反組の軍主力は2手に分かれた。同じように、リョウイチ側にレイア、ユーヤ側にミーアがそれぞれついていく。これも、龍斗が考えた策の1つである。
「小娘!! まずぁ何処だ!!」
「こっち側だと……一番近いのはセレス大佐、第3ブロックですね」
「セレス? チッ、弓じゃねぇかよ。こりゃ来る方間違えたか? ……おい!! 第3ブロックまで道作れ!! 無理に倒さんでいい、防いで場所開けろ!!」
ユーヤの指示に従い、私兵達の間に割って入り徐々に隙間を広げていく兵士達。そこにユーヤが追い打ちの指示を飛ばした。
「傭兵!! 出番だ!! だが仲間潰すなよ!!」
戦闘準備万端で、今か今かと待ち構えていた傭兵の集団が、思い思いに攻撃を仕掛けていく。離反組というのは元々本国の王国騎士団員だった者達と、彼らが新しく育てた者達で成り立っている。つまりその戦い方は、統制がとれた組織としての戦い方、軍としては一般的な集団対集団の戦い方となる。それに対して傭兵は、基本的に統率、具体的に言えば軍にある指揮系統のようなものを嫌う傾向にある。元々があらゆる意味で自由な職であるためで、扱う武器や戦法も1人1人違うものとなっている。故にユーヤ、リョウイチは彼らを好き勝手に暴れさせることにしたのだ。攻撃や守り、撤退などの指示は厳守するよう言いつけているが、それ以外は自由としたのだ。
統率のとれた軍とは違い、ありとあらゆる得物で不規則に攻撃を仕掛ける傭兵達の影響で、敵の陣営は乱れるようになっていった。その隙を見逃さず、離反組が更に割り込んでいく。そうして出来ていく道の中を、ユーヤは歩いていった。ミーアもそれに少し遅れる形でついていった。
暫くすると、道の先に1頭の馬が見えるようになった。と、その時。
「来る!!」
ユーヤが身を翻すと、先程まで立っていた地面に1本の矢が突き刺さった。通常のものよりも遥かに大きいその矢は、長さだけでミーアの身長ほどあった。ミーアがふと前方を見ると、馬上の人物が次の矢を番えようとしているところだった。これだけのものを放つには、当然それなりに大きな弓が必要であり、その弓を扱うには相応の筋力が必要である。ましてこの遠距離でユーヤを狙った精確な狙撃能力。相手が相当な実力者である証拠だった。
「だから遠距離は苦手なんだクソッタレが」
馬上の人物を睨みながらユーヤが独りごちる。狙われているというのに姿勢を動かさないまま、片足を少し浮かせ勢いよく踏み締めた。
次の瞬間、突撃槍のように先の尖った土塊が地面から生えるように出現し、弓の射手は馬と共に貫かれた。土塊がただの土くれに戻ると、馬も射手ももう2度と起き上がってくることは無かった。
「おお、1発で逝ったか。運が良い。さあて、次ぁ何処だ」
「えっ、あ、えっと、第3ブロックA地区のカレスドーン准将です」
「あいつか……セレスは落ちた!! 次ぁ第3Aのカレスドーン!! 切り開け!! せいぜい暴れやがれ傭兵共!!」
意図してか知らずか、味方を鼓舞し、敵の不安を煽る指示を飛ばしてユーヤは次の敵を目指した。
同じ頃、リョウイチ率いる一団はユーヤ達よりも早く作戦をこなしていた。それはひとえにリョウイチの力が大きく関係している。
「次、第9ブロックC地区のコルベドール中将です」
「9のCか」
情報部担当の一兵卒に案内させ、指定された地域周辺まで近づいていくリョウイチとレイア。その目が対象を捉えた。
「いたいた。馬に乗って一段高いし、飾ってるから良く目立つ。狙ってくれと言ってるようなものだな」
暫く相手を見据えた後、リョウイチはおもむろに指を弾いた。直後、爆発音が響き渡り、馬の上から人が消えた。いや、人だけではない。そこに存在していたものは、唯の血肉、金属片として周囲に飛び散った。馬も人も、鎧も鞍も、全てが綺麗に吹き飛び大地を赤く染めた。そしてその隙を逃さずゲリラ戦法を仕掛けていく傭兵達。
「流石ですね大佐。相手の体内で爆発させるとは、大佐はグロテスク嗜好ですか」
「最も確実に殺せる方法を取っているだけだ。流石と言うべきはこっちだね。『兵の指揮系統から潰す』という彼の作戦。理解している離反組によって効率を上げ混乱を起こし、傭兵に掃除させる。実に良い作戦だ。脱帽だよ」
「帽子被られてませんけどね。次は第10ブロックです」
「それは慣用句というものでだね……まあいい、無駄話は終わりだ」
彼らもまた、次の目標に向かって進軍していった。
さて、内乱編もいよいよ佳境。3月中に終わるってのが一番理想的ですかね~。
……無理かもしれませんね。ハイ、無理しない程度に頑張ります←
不定期更新ですが、お楽しみいただければ幸いです。