表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の逆鱗  作者: 銀狼
王国内乱編
71/92

第71話:獅子の決断

 翌日龍斗は、居間で再びユーヤと対面した。彼に呼び出されたためである。龍斗が部屋に入ってから座るまでの間、ユーヤは何の動きも見せなかった。龍斗が座ってからも、暫くは沈黙が続いていた。

 不意にユーヤが白煙を吐き出した。そして唐突に話を始めた。

「お前、俺が何でこっちにいるのか分かるか」

 龍斗に答えられるはずも無く、直ぐに否定を示した。ユーヤが続ける。

「……実はな、俺ぁお嬢……てめぇの母親、フェル嬢の親衛隊員だった」

 流石の龍斗も驚きを隠せなかった。その様子を軽く笑いながら、ユーヤは煙を吸って吐き出した。

「俺ぁ見ての通りの性格だからな。何かと上に食らいつくことが多かった。命令だとか圧力だとか、そんなもんでは抑えきれねぇもんだから、上が判断して転属になった。まあ、あれだな、高嶺の花である別嬪の王女でも見せりゃあ改心するとでも思ってたんだろう。男だからそれで良いだろとか言ってな」

「そんな理由ですか」

 龍斗の苦笑いを見ながら、ユーヤは鼻を鳴らした。

「フン、それだけの実力もあるにはあったよ。結局性格やらは改善されず今まで来てるけどな。それもお嬢の性格によるところが大きいな。俺らがイメージする王女ってのはまあ、深窓の姫君とかいうあれだ。多分上の連中も、そういうところしか知らなかったんだろう。だからそんな転属が出来たんだろう」

「実際は違ったと?」

「あんなお転婆は生まれて初めてだったぜ。俺のガキの頃だってあそこまで暴れちゃあいなかったな。ああ、連中の前じゃ猫被ってただけだったんだよ」

 ユーヤはそこで、龍斗がかなり引いた顔になっているのに気付いた。だからといって変にフォローしたり、話を変えたりということは意識せず、変わらぬ口調のまま続けた。

「しかしまあ、それと同時に王族らしくも無かった。王族貴族ってのは兎に角威張って偉ぶってってイメージだった。けどお嬢はそんなプライドとか自尊心とかってのが無かった。この口調に文句をつけることも無かったし、一応お嬢の部隊だからな、お嬢が指揮官なんだが、自分の指揮能力がどうとか言う訳でも無く、俺ら兵士の活躍だとか言ってやがったか。正直ありゃあお嬢の指揮能力もあると思うんだがなぁ……と、悪い、話が逸れた」

 仕切り直すように煙管の煙を吸うユーヤ。一瞬のホワイトアウトの後、またユーヤが言葉を紡ぐ。

「まあ要するに何が言いたいかっつったら、俺がてめぇの母親、お嬢の親衛隊だったこと。んで……あの日、俺はその役目を全うしていたということ」

 『あの日』とは、エルグレシア王国王城が襲撃された日のことである。そして親衛隊とは、要人の身辺警護が主な役目。そこまで判断した龍斗に冷や汗が流れた。

「ということは、まさか……」

「ああ……王城襲撃事件の時、俺はお嬢を脱出させるために共にいた。だから、お嬢が実際どうなったのかを全て見ている。ランゴバルト(やつ)と違って全ての真実を見てきた。だから、てめぇはまず恰好だけの偽物だと思ってた」

 不味い、と龍斗は思った。彼自身、首飾りが持つ『記録』の共に逃げている人、即ちフェルミレーナの真の動向を知る人の存在は気にかかっていた。この作戦はフェルミレーナという人物が既に死んでいるという前提で進められている。勿論それは事実で、龍斗も目の当たりにしているのだがそういうことではない。ここで生死が問われているのは『フェルミレーナの遺志』である。フェルミレーナと共にいた人物が、フェルミレーナの遺志を受け継いで持ち続けている可能性がある。もしそこに、今回の作戦とそぐわないものがあったとしたら。不都合なものがあったとしたら。彼女の息子とはいえ、果たしてそれが覆せるのか。つまりここから、全てが破綻する可能性があるのだ。

 警戒、緊張、恐れ、そういった感情が体を支配しようとしているのを感じ取った龍斗。唾と共に飲み込んで、話を細部まで探る姿勢を取り直す。

「そう、海の向こうに渡る手伝いまでやった。そこまでする必要があるのかと必死に引き留めたんだが……王権を狙う者にとっちゃ絶好の機会、どうせ命の覚悟せにゃならんのならまだ生きられる可能性にってな。そん時に言われた。『自分は王の器じゃない。適材適所、分相応でいたかった』それともう1つ、『国を作るのも、治めるのも成り立たせるのも全部人がいてこそ』と」

「それは、つまり……」

「ああ。『民あってこその国』、俺の考えはお嬢から来てんだよ」

 龍斗は驚いた。まさか自分の母が、今日のユーヤを作っていたとは思いもしなかったからだ。

「昨日言われて色々考えて、最終的にそん時の言葉思い出してな……まさか母子揃って民がと言われるたぁなぁ。俺もまだまだか」

 そう言いながら頭を掻くユーヤ。龍斗はそれに苦笑いと冷や汗で答えた。彼が民の事を口にしたのは、今のユーヤが持つ信条から考えた結果に過ぎないからである。

あの野郎(ランゴバルト)についたのは、お嬢の為だと奴が言ったから。実の姉を追い出すような国家に民を任せられるかと言われたから。だが実際はこのザマだ。19年あって何故気付かなかったかと反省はあるが、過ぎたことは仕方ねぇ。お前の言ってることは正しい。真に民の為というならそっちの方が良いに決まってる……それにお嬢は、いくら自分の為と言われても戦いを望みはしねぇだろうなぁ。民の為こそお嬢の為だろう」

「……では……」

「ああ。てめぇの話、乗ってやろうじゃねぇか」

 何処か吹っ切れたような清々しさを纏いながら、ユーヤは煙管の灰を灰皿に叩き落とした。

「さて、そうなってくるとまずぁリョウイチだな。地位で言えば俺が最高だがこのザマなんでな。軍内部の実質的なトップは奴になる。奴と情報部、そこからこっちに引き寄せるのが一番安全だ……ああ、あの野郎(ランゴバルト)ら政治部門の私兵は取り敢えず無しだ。情報が洩れたら終いだからな。離反組と市民から志願してきた組、傭兵」

「それともう1つ、平民も。どれにおいても私よりあなたの方が信頼があります。勿論全てお任せする訳じゃありませんが――」

「承知した。協力はする」

「では、宜しくお願いします。それと、有難う御座います」

「『民の為、それが国の為』ついでにお嬢の為、お前の為だ。忘れたらそん時ゃ覚悟しやがれ」

「肝に銘じておきます。獅子に襲われるのは怖いですから」

 こうしてユーヤが動いたことで、ライトベルクの情勢は一気に変わることとなる。そして龍斗の作戦にも拍車がかかり、『その時』が、刻一刻と迫ってくるのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ