第65話:2つの出会い
「……ミーア……」
「姉さん……!!」
姉妹は互いに抱き合い嗚咽を漏らした。少し離れたところにいる農民の息子セヴル、竜騎士隊のゴドリック等は場の雰囲気に感化され、もらい泣きをしていた。それを見たユーヤの眼が一瞬鋭く光ったが、吐息と共に力を抜き、チエと共に穏やかな目で2人を見つめていた。
レイアがゴドリックの話を聞いた次の日、レイアは彼に頼み込んでワイバーンに乗せてもらい、トルヌ村まで運んでもらった。ユーヤ将軍に話を通し、彼から浜にいると教えられて向かった先に待っていた感動の再会、という流れである。勿論、姉妹にとっては予定調和。前日の夜、龍斗も含めて念話を行い、作戦の前倒しを決定した。抱き合っている今も、
「それで、この後の流れは……」
「私も『狗』で良いのよね」
「そうよ、それと……」
と、今後の作戦進行について話し合っていたが、その非常に小さな声を聞きとった者は誰もいなかった。当然ながら、涙を流して抱き合うその全てが演技だと見抜ける者もいなかった。
一通り終わって2人が離れた頃、ユーヤが煙管の煙を吸いながら歩み寄ってきた。
「んで? これからどうすんだ、小娘共」
「……こうしてまた姉さんと会うことが出来ました。これ以上の事は望みません……それと、私達を引き合わせてくれたライトベルクに恩返しがしたいです。姉さん程ではありませんが、何かお役に立てるのなら……同じように、軍に入りたいです。1度断っている上で厚かましいですが」
「いや、俺が言ってたのは単に覚悟の問題だ。命捨てたくねぇ奴を戦場に出すわけにいかねぇからな。てめぇがそう言うんなら止めはしない……おい、帰りは1名追加な」
『生き別れた姉妹の感動の再会』という明るいニュースは、直ぐにライトベルク中に広まることとなった。
1体のワイバーンが海の方へ飛んでいくのを森の中から目で確認した男は、木から飛び降りて道へと出た。シャツにズボンという至って普通の格好だが、レザーアーマーとシャツは野獣の返り血で赤く染まっている。ズボンのベルトには黒光りする短い棒を挿していた。
そのまま道を歩いていると、レンガを積んだ関所と衛兵らしき人物2人が見えてきた。何やら興奮した様子で、饒舌に話をしている。
「――あの大佐と魔法で張り合ったんだぜ。氷が反射する光に包まれたあの姿といったら……と、何の用だ?」
1人が男に気付いて仕事の質問をした。
「ああ、傭兵志願者です。それより、何か面白い事でもあったんですか?」
「おおよ。生き別れた姉妹の感動的な再会だってよ!!」
「あの【無慈悲なる氷の槍】も、心までは凍りついちゃいなかったのさ――」
「あー、では、通らせていただきますよ」
2人の会話を邪魔しないように、男は関所を通り抜けた。
「失礼します」
室内にいた男は、入ってきた者を見て驚いた。相手は上半身は血に染まった赤色、冒険者然とした格好の黒髪の男。全く見覚えのない人物である。
「何者だ!!」
黒髪の男はそれに答えず、全く違うことを尋ねた。
「……貴族の方とお見受けするが?」
「ああ、それが何か? お前は傭兵か何かか。ここは執務室だぞ」
「なら、これが何か、分かるか?」
男が投げた物を、反射的に受け止めた貴族の男。ゆっくりと開いて受け取ったものを確認する。
「何だこれは? ネックレスか? 中々良さそうな品物……だ……が……」
徐々に目が丸く大きくなっていく。黒髪の男は薄ら笑いを浮かべていたが、それには全く気付かなかった。
「……いや、待て……この飾り……まさか、『金珠貝の首飾り』!? いやいや、あれは、王家のご息女の為にしか作られない……は……ず……」
目を丸くしたまま黒髪の男を見た。
「お、お前、これを一体何処で……その前に、これは一体誰の……?」
「なら、見てみましょうか。それが今まで見てきたものを……時の神クロノスよ。汝は時を司り、過去の全てを知る者なり。今我は望む、彼のものが過ごせし時を。我は望む、彼のものが経た過去を。我が望みしもの、汝の力を以てここに具現せよ、『記憶解読』」
首飾りから薄緑色の光のスクリーンが発生し、いつぞやと同じ映像が映し出された。反応も、あの時の貴族と同じである。違うところは、まず映像を見ている人数。そして流される映像の長さ。今回の映像は、フェルミレーナの成長を確認できた辺りで終わった。
「フェル……フェル……」
映像が終わった後も、貴族の男は呆然としていた。やがてゆっくりと顔を動かし、黒髪の男を見た。
「お前……一体……」
「お初にお目にかかります。私の名はルート・イースト。貴方は?」
「……ランゴバルト・ベス・アルマ・ウェストル」
光の加減か、ルートと名乗った男の藍色の眼が、妖しく光ったように見えた。そしてその色は、いつの間にか紫色へと変わっていた。
一応設定集なるものを作ってみました。今のところ人物のまとめを作っています。もしよろしければ目を通してみて下さい。