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龍の逆鱗  作者: 銀狼
王国内乱編
64/92

第64話:明くる日

「よう嬢ちゃん、今日はあのナンパ野郎と一緒じゃなくて大丈夫か?」

「ご心配なく。自衛できるだけの力は持っておりますので」

「アウ!!」

 私は振り返ることも無く、槍の石突を跳ね上げた。強化した感覚で背後の様子を探る。背後に立っていた男が、股間を抑えて悶絶しているのを感じ取った。私のお尻を触ろうとするからよ、自業自得だわ。

 軍や傭兵団という集団は……女性がいないわけでもないけど、やはり男性が多い。故に品格の無い集団であることが多い。冗談であろうと何であろうと、作り出される雰囲気は女性にとってあまり良いものとは言えない。それでもそこに留まろうとする女性はどうするのか? ……男勝りな言動で女性という認識を外してもらうか、ちょっとでも手を出せば嚙み付かれる恐ろしい女として認識してもらうか、そのどちらかになると思う。因みに私は後者の方。前者は例えば……そうカトレアさん辺りね。そのカトレアさんと張り合えるほどの実力と、手を出してくる者(初日のリョウイチ大佐含む)に情け容赦なく制裁を加える冷徹さから、私は『五本槍が一、無慈悲なる氷の槍』という異名を与えられてしまった。もっとも、私の力は総合力……強化魔法や詠唱魔法、槍に気概空手と、使える手段を全て使っての戦闘でやっと互角。中でも気概空手が一番大きいと思う。どんなに軽いパンチでも、衝撃が乗ればそれなりに重くなるのだから。強化魔法はほとんどの人が使うから良いとしても、気概空手の衝撃が無かったら他の『五本槍』と言われている4人には恐らく勝てない。総合力というのも切り替えが難しく、思うように操りきれていないのが現状。龍斗様にはまだまだ及ばないわね……

 そうこうしている間に試合の会場、グラウンドに着いた。槍を構える。正面にいる今日の相手は……

「【無慈悲なる氷の槍】が相手とは、恐れ入るよ。お手柔らかに願うよ」

 黒髪黒目に青い軍服、【焔の大佐】リョウイチ・マスダその人だった。





「では、試合開始です」

 茶髪の騎士が砂時計をひっくり返した。ガラスの中の砂が、少しずつ下に落ちていく。レイアは力を入れ直し、穂先をリョウイチに向ける。それに反応したリョウイチは、手袋を着けた右手をおもむろに顔の近くまで上げた。手の甲には、トカゲのような生き物が己の尾を銜え円となっている姿と、その円の中に炎を模した意匠が赤色で染め抜かれている。

「さて、避けられるかな?」

 リョウイチは右手の親指と中指を合わせ、音を鳴らしながら弾いた。その瞬間、レイアは直ぐ近くに魔力の塊が現れるのを感じ取った。『感覚強化(センス・ポイント)』の発展系となる術『即応の霧』を発動させていなければ、気付く事は出来なかっただろう。即座に反応して後ろに下がるレイア。

 その数瞬後、レイアの眼前で爆発が起きた。

「なっ……!!」

「ほう、鋭いね。初発を避けられるとは。さあ、次だ」

 驚愕の表情を見せるレイアに不敵な笑みを向けたリョウイチ。言葉通りに次々と指を弾き、爆発を発生させていく。その爆発の位置は非常によく計算されたもので、レイアは一定以上距離を詰めることが出来なかった。当然ながら槍の穂先がリョウイチに届く事も無い。ある程度の所でリョウイチは攻撃を止めた。

「どうした? 逃げているばかりでは私に攻撃できないぞ?」

 その言葉を聞いたレイアの手に更に力が入った。目の前に魔力を感じた。レイアは大きく踏み込むと、槍の穂先を勢いよく振り上げた。魔力強化をかけた槍で、その軌道上にあったリョウイチの魔力を『斬った』のだ。

(爆発による遠隔攻撃、ということは後衛タイプのはず。一気に詰めて近接戦に!!)

 その算段通りに距離を詰めていくレイア。腕を戻し、突きを放つために力を溜める。

「ハッ!!」

「フッ」

 レイアの突きは躱された。それと同時に、リョウイチの拳がレイアの腹に叩き込まれた。勢いよく吹っ飛び、砂煙を上げながら足でブレーキをかける。

「……カハッ」

 レイアは思わず咳き込んだ。格闘攻撃を出してくるとは思っていなかったために防御が遅れたのだ。自ら後ろに飛び退いて威力を殺したが、それでも無防備な部分に直接打撃を受けたためダメージは大きい。完全にレイアの油断である。眉間の皺を深くしたレイアは、両手で拳を作り構えを取っているリョウイチを睨んだ。槍と気分を振り払い、再びリョウイチと対峙する。一際大きな魔法陣がレイアの前に現れた。

「氷の世界を支配する神ヘルよ、その力を我に与えよ。我が敵を貫かん、『アイシクル・シュート』」

 魔方陣から現われた無数の氷柱が、リョウイチに向かって飛んでいく。その数に警戒を深めるリョウイチ。

「私の焔を、なめるな!!」

 リョウイチの眼と両手がせわしなく動く。視界に捉えた氷柱に向かって指を弾き、爆発によって氷柱の勢いを()いでいく。発生した炎の熱で溶けた氷柱は水となり、蒸気を上げながらも火を消していく。

 その隙間から槍の穂先が現れた。パンチで弾き、追撃をかける為に前へと踏み出した。その時、リョウイチの脇腹に衝撃が走った。

「……くっ」

 レイアの左拳が入っていた。右足を支点に、弾かれた勢いを利用しながら体を捻り、衝撃付きで放たれた攻撃だった。追討ちとばかりに槍を振るい、蹴りや拳も織り交ぜ『衝拳』で攻撃するレイア。爆発の炎を目くらましに、両の拳で応戦するリョウイチ。暫く激しい攻防が続き、どちらからともなくバックステップで間を開けた。

「氷の神ヘルよ、(つぶて)を敵に、『アイス・ロック』!!」

「爆ぜろっ」

 握り拳程の氷塊が魔方陣から飛び出した。2人のちょうど真ん中辺りまで直進した氷塊は、突如発生した炎に包まれた。溶けて小さくなり、威力も落ちた氷塊は、リョウイチに難なく掴み取られ、地面に落ちていった。

「あ……あ、試合終了です!!」

 あまりの迫力に我を忘れていた茶髪の騎士は、砂時計の砂が完全に落ちていることに気付き、慌ててそう叫んだ。既に距離を詰めていた2人は、繰り出された拳を槍の長棒で受け止めた状態で静止した。





「いや流石、五本槍の一角を占めるだけあるね」

「私などまだまだ……大佐の足元にも及びませんわ。近接格闘が出来るとは思いませんでした」

「出来ないとは言っていないからね」

 じゃ、と言って立ち去っていくリョウイチ。レイアも彼とは別の方向に去ろうとする。と、その時。

「やあ君、一体いつの間に入団してたんだい? あの時は断られたのに……しかも大佐と魔法で張り合うなんてなぁ」

 観衆の1人がレイアに話しかけてきた。紫がかった髪色を持つ男だったが、レイアには見覚えが無かった。

「どちら様でしょうか。ナンパなら他をあたって下さい」

「え、あれ、浜で自己紹介したよね? 反乱軍竜騎士隊(ドラゴン・ナイツ)所属の、ゴドリック・オーランド。覚えてない? ミーアちゃん」

 レイアの目が皿のように大きくなった。小首を傾げる相手の顔を凝視した。

(……まずい、これはどうすれば……いや、下手に嘘をつくのは駄目ね。龍斗様も言っていたし、これは予定を早めるしかないか……)

 判断を下したレイアは顔を伏せた。頭を抱え、取り乱す寸前のような演技で台詞を口にした。

「……私の名はレイアです。ミーアは私の……妹です。生きて、る、んですか?」

お気に入り登録件数が180超えました。読んでいただいてる皆様、本当に有難う御座います。拙い作品ですが、お楽しみ頂ければ幸いです。

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