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龍の逆鱗  作者: 銀狼
王国内乱編
58/92

第58話:傭兵志願

 ライトベルク地域北部にある森の中を1人の少女が歩いていた。銀白に近いプラチナブロンドのさらさらとした髪を持つ彼女は、鳶色の目を正面に向けて真っ直ぐ道を歩いていた。

 暫くすると森が途切れ、代わりに大きな壁が近づいてきた。壁の前には衛兵らしき人物が2人、槍を持って待ち構えていた。

「何者だ? 冒険者か?」

「そうです。傭兵募集の依頼を見てここに」

 少女は鉄製の胸当てを着け、槍を片手に持っていた。右腕と足にもアーマーを着けており、冒険者然とした格好だった。念のためカードを見てみると、確かに冒険者ギルド所属だということが分かった。

「わかった。上に話を通そう」



「やあ、これはこれはお美しいお嬢様。一体どのようなご用件かな」

 城塞の一室に通された少女。黒革のソファに座って待っていると、歯の浮くような口調と共に1人の男が入ってきた。黒髪に黒目、青い軍服姿の男は少女と向かい合うように座った。

「あら、この軍は折角の戦力を口説き落として潰してしまうような人間が上にいるのかしら?」

 少女の毒舌が先手を打った。一瞬目を点にした男だったが、直ぐにまた笑みを浮かべた。

「おや、これは心外だね。美しい女性には美しいと素直に言うタイプなんだよ私は」

「それはどうも。ですがその歯の浮くような台詞を何時聞かされるか分からないような所を職場にはしたくありません。依頼の件は無かったことにして頂いてよろしいでしょうか」

「厳しいねぇ。惨敗だ」

 苦笑しながら首を横に振る男。しかしその動きが止まり再び少女を見据えた時、男の顔からはさっきまでの軽薄さが消えていた。表情も消え、真面目な軍人としての顔に変わった。

「――と、前置きはこのくらいにして。うちがどういうところなのかは既に知っていると思う。それを承知で傭兵志願してきた理由は何か」

 しばし瞑目していた少女だったが、やがて意を決したように男を見据え、静かに語り始めた。

 曰く、自分は北方大陸の武家の出身であること。家族と共に船に乗り、ランドレイク大陸を目指していたこと。その船が海賊に襲われ、占領されたこと。小舟に乗せられて海に放り出され、両親と別離したこと。そして、舟が転覆し、自分だけ陸地に上げられたこと……

「……家族も家も失った今、自分にあるのは武家の教養として身に着けた戦力のみ。それを活かして生活していくしか道はありません。それに……軍であれば、もしかしたら妹の消息も何か分かるかもしれないと考えたのです」

「ふむ……」

 男は顎に手を当てて瞑目した。長い沈黙の後、男は漸く口を開いた。

「志望理由は分かった……だが、本当にそれでいいのかな? 軍ということは戦いに出るということ。戦いに出るということはいつ死んでもおかしくないということだ。生き別れた妹さんについて何も分からないまま犬死に、そんな事態だってあり得るが?」

「承知しています。家族である前に武家の人間ですから。戦いで命を落とすのなら、妹も私も納得出来るでしょう」

 少女の意志は確固たるもので、目には何の迷いもなかった。真っ直ぐな目をじっと見つめていた男は、1つ息をついて笑みを浮かべた。

「……フッ、分かった。事情も聞いたし、何より美しいお嬢様の頼みだ。断れるはずもない」

「……やはり無かったことにしても?」

 少女の目が据わっていくのを見た男は冷や汗をかき、慌ててフォローを入れた。

「あ、いやすまん、つい癖でな。以後気を付けるから勘弁してほしい。貴重な戦力を失いたくは無いのでね」

「まあ、最後の部分だけは信じましょうか」

「最後だけ……まあいいや」

 苦笑しながら黒い頭を掻いた男。その手で1つ膝を叩いて立ち上がり、少女に向けて右手を差し出した。

「さて、改めて歓迎しよう。ようこそ我が軍へ。私はリョウイチ・マスダ。地位は大佐だ」

「レイア・フォルデント・マーティスと申します。以後宜しくお願いしますね、軍事面だけで」

「やれやれ、貴女の信用を得るのは難しそうだ」

 冒険者の少女レイアも右手を出し、2人は握手を交わした。その後リョウイチが申し訳なさそうに話をした。

「うちが反乱軍であることは承知のことだと思うが、そのお陰で本国から間諜が入らないよう厳重に警戒しないといけないのさ。女間諜が来ることも多くてね……だから、女性の本音を引き出すためにも大抵の女性志願者に口説きをかけてるんだ」

「女性にとっては何とも迷惑な話ですね」

「ハハハ、すまないね。でも必要なことなんだよ。それに、女間諜の摘発率は私が一番だ。といっても、ここまで取り付く島が無いのは君が初めてだがね。既にお相手がいるのかな?」

「ノーコメントで。それに貴方の場合、相手がいても関係なさそうですしねぇ。取り敢えず、今後私に対してそのような言動は慎んで下さい。私の中では、貴方は既に記憶に残したくない人物になろうとしていますので。ああ、そう言えばお名前は何でしたっけ、ロイ・マスタングさん?」

 その言葉を聞いたリョウイチは、効果音の幻聴が聞こえるくらいに肩を落とした。あと一撃加えようものなら、間違いなく地面に膝と手をついてしまう、そんな状態だった。

「……初対面で、女性から、ここまで毒づかれるとは思わなかったよ……しかも名前……ロイ・マスタング、そりゃあよく間違えられるさ。だがいきなりそれは……今のこれはきつい、猛毒だよ……加熱殺菌しなければならないかもしれないな……ハハハ、【焔の大佐】と呼ばれる私が焼身自殺……面白い、実に面白い……」

(……少々やりすぎたかしら? でもまあ、いいわ。私を口説き落とすなんて1000年早いわね。……それに私の相手はもう……)

 多少の反省はしたものの、レイアが後悔することは無かった。その日の夜、上官の1人が焼身自殺を図り、全身大火傷で診療所送りになったという噂が下士官の間に広まったが、レイアがそれを聞く機会は無かった。

そろそろ登場人物紹介を作ろうかと思っています。

ただ、どういった感じにするのがいいのか……


お気に入り登録160件、皆様、ありがとうございます。

拙い作品ですが、宜しくお願いします。

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