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龍の逆鱗  作者: 銀狼
王国内乱編
53/92

第53話:受勲、そして『騎士の誓い』

「――ではこれより、エルグレシア王国騎士団新入団員への受勲を始める。団員勲章を」

「はっ」

 玉座の下、左右に列を為している飾り立てた貴族の1人が、盆を持って段を上り、国王の側まで歩み寄る。しゃがみ込み、持っていた盆を頭上に掲げた。盆の上にはエルグレシア王国王家の紋章、獅子の意匠を象った勲章が並べられている。エルペローゼはそれら全てを撫でるように手をかざした。その時龍斗は、彼女の手から勲章へと魔力が流れていくのを感じた。

 それが終わると盆を掲げた男が立ち上がり、段を下りて戦士達の間に転がされた赤い絨毯の上を歩いてきた。男の側近らしき人物が2人現れ、勲章と短い針を1人1人に配っていく。全員に行き渡った後、男と側近は振り返り、女王に向けて一礼した。それを合図にエルペローゼが次の指示を出した。

「これよりエルグレシア王国騎士団入団に際し、『騎士の誓い』の儀式を執り行う。誤解の無いよう予め言っておくが、これは神に対して主従関係と国への忠誠を明らかにするための儀式であり、奴隷契約などとは違う性質のものである。そのことを理解した上で、儀式に臨んでもらいたい。……では、理解した者はその身に流れる血を勲章に刻め」

 龍斗は渡された針で左の薬指を刺し、その血を勲章に落とした。銀行で作ったカードと同じく、銀色の勲章に赤い血が吸い込まれていく。全員が作業を終えたところで、再び女王が口を開いた。

「契約神ヴァルナの名において命ず。エルグレシア王国の名の下に、騎士としての忠誠を示せ」

 その言葉が鍵となり、団章に変化が訪れた。銀色のそれが、シャンデリアの水晶にも負けない強い光を放った。そのあまりの眩しさにほとんどの者が反射的に目を瞑る。光が治まり、瞑っていた目を開けると、先程まで銀色だった団章が黄金色へと変化していた。……ただ1つを除いては。

 全てを見下ろす女王は直ぐにその事態に気付いた。しかし一瞬目を丸くしただけで、直ぐに仮面を被り直す。

「……それこそ、お前達がこの王国を守る騎士である証。お前達はこれで、正式に我が王国の騎士となった。今後はこの国を守る盾として、この国の敵を破る剣として、力を発揮してもらうぞ」

『ははっ!!』

 正式に騎士団入りしたことで、気持ちが引き締まった戦士達。全員の声色が張りのあるものに変わっていた。

「うむ……これにて、王国騎士団団章の受勲式を終了する。今後のことについてはオーランド伯爵から説明がある故、彼の案内に従うように。では、頼むぞ」

「畏まりました、陛下」

 右列の一番奥にいた人物が返事をした。その男、オーランド伯爵が戦士達を立たせ扉に誘導していく。と、その時。

「ああ、右から2、前から2のその方。その方は、海を隔てた異国の者だな?」

「……左様でございます」

「実は少々異国について聞きたいことがあるのだ……構わぬか?」

「……私でお役に立てることならば、何なりと」



「……さて、まずは名を名乗ってもらおうか」

「東龍斗にございます」

「……後ろの2人は?」

「レイア・フォルデント・マーティスでございます」

「ミーア・フォルデント・マーティスでございます」

 戦士達の中で、唯1人残された龍斗は、正座のまま、女王を見上げて対峙していた。その後ろでは彼の関係者、マーティス姉妹が片膝をついて控えている。彼女達の名前を聞いた時、女王の顔に驚きの色が現れた。しかし女王は彼女らには触れず、龍斗に向けて言葉を紡いだ。

「さて、龍斗よ。何故お前1人が残されたか、分かっていような」

「御意。『騎士の誓い』なる儀式を経た後、私の団章には何の変化もございません」

 列を為す貴族たちからどよめきが広がった。マーティス姉妹も戸惑いを隠せない。ミーアが思わず小声で聞いてきた。

「どういうことですか、龍斗様?」

「2人共後ろから見てたろ。血を垂らした団章は強い光を放った後、銀から金へと色を変えた。だが俺に渡された団章は、血をつけたにもかかわらずこの通りだ」

 龍斗は2人に自分の団章を見せた。それは他の15人とは違い、黄金色に変わらず銀色のままだった。

「どういうことですか……?」

「貴様!! 王国への忠誠心が足らんのではないか!?」

 貴族の内の誰かが怒鳴った。しかし女王がそれを否定する。

「いや、それは無い。『騎士の誓い』などと銘打って国への忠誠を誓わせているが、その実態は王家と騎士の間の雇用契約のようなもの。そもそも、神の名において結ぶ契約がなされないなど、忠誠がどうという話ではなかろう」

 貴族達は眉を顰めながら唸り、長い沈黙が場を支配した。暫くして、右列の最も女王に近い所にいた男が、苦い顔で言った。

「……陛下、1つだけ……この事態の原因と思しきものがありますが……」

「!! なんだ、ウォルトン、その原因は!?」

「いや、しかし……これはまずあり得ないと思われ――」

「思いつきでも何でもいい、話すだけ話して!!」

 逡巡していたウォルトンだったが、女王の語気に負けて重い口を開いた。

「1つだけ、王家との契約が成立しない場合がございます……それは……」

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