第52話:謁見
龍斗達が案内されたのは城内の一室、謁見の間。四方の何処を見渡しても、磨き上げられた白亜の壁が明りを反射して輝いている。その光源を見上げてみると、黄金色が大きく枝を伸ばし、その先端部では真珠のような丸い水晶1つ1つが太陽の如く光を放っている。銀の鎖で天井から吊り下げられたそれを見て、龍斗は目を見張った。
「……蓬莱の玉の枝……」
「龍斗様、シャンデリアがどうかしましましたか?」
龍斗の様子に気付いたミーアが小声で声をかけた。
「いや……大和に伝わる伝説の秘宝の1つに、あれとよく似た特徴の物があった。根は白銀、黄金の茎につける実は真珠というまさに宝の木」
「へぇ、それは凄いですね。でもあれはシャンデリア……照明器具の1つです。光を放っている部分は水晶ですね。魔法を用いることで蝋燭などよりも明るい光を出せるんです……私達が住んでいた屋敷にも、応接間に1つだけありました。流石にここまで大きなものではないですが」
「……そうか……そういやあの話でも自分で作ってたっけ……」
自虐気味に口元を歪めたその時、大きな扉の前にいた衛兵2人が声を張り上げた。
「間もなく国王陛下が参られる!! 準備なされよ!!」
声を聞いて真っ先に列を作りだしたのは、豪華に飾り立てた服装の明らかに庶民とは違う高貴な集団。数段高いところに置かれた椅子の左右から、向かい合うように並んでいく。その人たちが並び終わった後、ようやく他の者が動きだした。春闘でベスト16に残った猛者達である。レイア、ミーアは受勲しない人間のため、扉横の壁際に身を寄せる。龍斗達は指示されるまま、2列2列で真ん中を開け、玉座の方を向いた。
こういう時人間は面白いもので、無意識のうちに同族を探して固まっていくらしい。龍斗が並んだ後、彼と同じ着物姿、黒髪の人間が2人続いたのだ。つまり大和人が固まったのである。上着に袴という簡素な格好だが、龍斗はそれに少し安心感を覚えた。因みに龍斗の格好は、浅葱色の上着に灰色の袴、そして黒の紋付羽織。黒紋付羽織とはどんな着物であってもこれさえ羽織っていれば礼装と看做されるという非常に便利な代物である。
(出来るだけ礼装でって言われたし、麻袋の中に入ってて良かったと思ったけど、無くても良かったかな……春闘に参加してるのって庶民が多いんだよな。庶民が礼装なんて持ってるわけないわな)
実際、黒紋付羽織を除けば、大和人は全員が普段着、大陸出身の戦士たちも新調した普段着といった感じだった。余談であるが、他の大和人2名は龍斗の姿を見て、
(しまった、羽織があれば……)
と羽織の無い自分の格好を恥じていたそうである。流石は礼儀を重んじる大和人といったところだろうか。
閑話休題。
「国王陛下、御入来!! 各自最高の敬礼を以て迎えられよ!!」
再び衛兵の声が響いた。高貴な貴族と思しき面々は右握り拳を左胸に当て、腰から45度の最敬礼を以て頭を垂れた。マーティス姉妹もこの礼をしている。大陸の戦士達は貴族の真似をする者、片膝をつく者、ただ頭を下げるだけの者など多種多様だった。そして大和人は、正座をした上で両手をつき、頭を下げて土下座した。
列の間に何かが転がる音がした。龍斗はその上を歩く、布が擦れる微かな音を聞いていた。国王が出しているであろうその音が龍斗の側を通り過ぎる瞬間、その人物が持つ魔力に思わず目を見張った。
やがてその人物が椅子に座った。澄んだ声が部屋中に響く。
「面を上げよ」
『は、はい!!』
大和人でも貴族でもない、大陸の戦士達が大きな返事と共に顔を上げた。途端に貴族達から鼻で笑い、失笑する声が漏れてくる。扉の前を動かない衛兵がその戦士達に怒鳴った。
「馬鹿者!! 儀礼の場において、1度目で上げてはならん!!」
これが全ての理由である。大和においてもそのしきたりがあるため、大和人は顔を上げなかったのだ。
「良い、そこまでだ。折角の祝いの日、そう騒ぎ立てることでもあるまい。だが今面を上げている者は、以後気を付けるように。では改めて、面を上げよ」
2度目の要求で、全員が顔を上げた。龍斗はそこで表情に出さない驚きという器用な真似をやってのけた。玉座に座っていたのは金髪青眼の妙齢の女性。その頭の上には、少々大きめの王冠が乗っている。彼女の赤い唇が言葉を紡いだ。
「まずは挨拶させてもらおう。エルペローゼ・ミラ・デ・マルクス・ラ・アンドリュー・エルグレシア。これが、今お前達の目の前にいるこの私の名だ。同時にお前達の主君となる、エルグレシア王国現代国王の名前でもある。しかとその胸に刻み込むが良い」
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有難うございます。