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龍の逆鱗  作者: 銀狼
邂逅編
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第5話:「異世界」

 木製の扉を開け放つと、そこは異世界であった。勿論(もちろん)比喩的表現ではある。龍斗は海を渡っただけで世界を渡ったわけではない。だが目の前に広がる景色は、元いた大和と比較するとあまりにも違いすぎていたのだ。

 快晴の空の下、雲を全て大地に引きずり下ろしたかのように街が白い。龍斗は2~3段の階段を下りた。足元を見てみると床も地面が露出せず、何かが敷かれてやはり白くなっている。降りきったところで後ろを振り返る。今しがた龍斗が出てきた建物も例外なく白かった。

 そうして建物の壁を見ているとき、龍斗の第六感が何かの到来を知らせた。すかさずその気配の居所を探る。忍として生きるためにはどんな些細な変化でも見落としてはならない、その教えが身に染みているのだ。

(2人、1人は軽く走ってきてるか。多分……)

「霞だろ」

 すぐ後ろにまで来た気配に、振り返らないままそう言った。気配の主はそれを聞いて身震いした。

「お、おはよう東君、な、なんで分かったの?」

「お前も忍目指してたんなら分かるだろう、っと」

 言いながら振り返った龍斗は、霞が着ている服に驚き言葉を詰まらせた。桜の花のような色の袖が短い上着、足を見ると白い袴のようなものをはいているが、その長さはかなり短く、膝まであるかないかというところ。履物も草履ではない。栗のような色をして、足全体を覆うような作りとなっている。

 そうして観察しているうちに、さっき感じた内のもう一つの気配がすぐ傍まで近づいてきた。龍斗はまた姿を確認することなく正体を言い当てる。

「遅かったな連」

「おっ、いや、霞が勝手に走ってっただけだよ。後ろ向いてたから脅かそうってな」

「だと思った。脅かすのなら成功してるぜ、っと……お前らのその格好で」

 霞の向こうにいる連に目を向け、またその格好に言葉を詰まらせる。連の格好は霞の色違いとも見える青い半袖の上着、下は二本の筒に足を通す感じの物をはいている。因みに色は黄土をかなり薄くしたような色だった。昨日会った時には全く気付かなかった、というより格好にまで気が回っていなかった。

「ああ、そうか。この上着はシャツ。下にはいているのはズボン」

「あたしがはいてるのはスカートだよ」

 聞けばこちらではこの格好が普通なのだという。異国の神秘だ、と龍斗は思う。だが今はそれを学んでいかなければならない。目的地に向かう間、取り敢えず龍斗は根本的なところから聞くことにした。



「そういや昨日散々こっちこっちて言ってたけど、ここって何処なんだ?」

 すると連は少し意外そうな顔をして口を開いた。

「小母さんから聞いてないのか。ここはランドレイク大陸って名前だよ。文字通り、大和とは比べ物にならないほど大きい陸なんだ」

「その中で最も東に位置する、つまり大和に一番近いのがここ、『商業都市国家オリジア』だよ」

 途中から霞が説明に加わった。龍斗は記憶を辿ってみたが、母から大陸の名前を聞いた覚えは無かった。気を取り直して次の質問に映ることにした。

「やけに白い街だけど、これ建築資材は何だ? 同じものが足元にも敷いてあるし」

「大陸の家は大抵が石造りだよ。木製の家もあるけど、大和にあったような茅葺き、瓦屋根、漆喰とかは無い」

「敷いてあるのも石を加工したものだよ。その町の中で重要な道は大抵こうなってるね。例えば王様の住む城に続く街道とか。あ、ここには王様はいないよ。ここは商人達が統治してるから」

「へぇ、商人がね」

「それもこれもここに経済の大事な拠点があるから……あ、着いたよ。ここ」

 三人は石畳の街道の終着地点に来ていた。そこにあったのは他の建物とは比べ物にならない程大きな建物。ただ大きいだけでなく、所々に曲線を描くように石が並べられていたり、壁石の表面が綺麗に磨かれていたりとかなり手の込んだ造りがあり、この街の象徴ともいえる存在感を放っていた。その荘厳さに思わず唖然とした龍斗だったが、入口前の屋根を支える柱に気付いた。

「なあ、あの柱はなんで赤いんだ?」

「ああ、あれは煉瓦っていうの。土を焼き固めて作ったものだよ」

 霞の情報によると、石の代わりに煉瓦を使って建てられた家もあるとのこと。その説明の後、霞は入口の上を指さした。龍斗もその方向に目を向ける。

「あれが銀行の(マーク)。黄色い大きな円に模様、つまり金貨を表しているの。で、その下にアルファベットでBANK(バンク)って書いてある。分かった?」

「なるほど、絵で何の店か分かるのか。中々便利だな」

 ここで連が気になったことを口にする。

「そう言えば龍斗、アルファベットの綴り読めるのか?」

「母さんが大陸の人間だったからな。小さい時から読み方と文字くらいは教わってた。読みは自信がないけど……左からブ・ア・ン・ク、でバンクだな。なんとなく分かる」

 なら大丈夫だ、と連は笑みを浮かべた。彼は扉の持ち手に手を掛けると、ゆっくりと押して中に入っていく。龍斗、霞もそれに続いて銀行の中に入った。

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