第45話:再来
第3回戦の残り3試合は1日で終わった。第4回戦からは選手の体調管理のためという理由でインターバルが挟まれる。インターバルは第4回戦が始まる前に3日、その次の準決勝の前に3日、更にその次の決勝の前に3日、と大会規定で定められている。その3日の間、龍斗は野次馬に絡まれる以外は至って普通に生活していた。
そして当日、第4回戦第1試合が始まった。
「お待たせいたしました!! 第4回戦第1試合を始めたいと思います!! まずは選手の紹介からいきましょう。まずはこちら、召喚魔法を得意とし、毒によって相手をじわじわと追いつめる、何ともサディスティックな魔性の女!! その名も【毒呼び】マリアーナ・リーシャ!!」
マリアーナと呼ばれたのは魔術師の正装ともいえるローブを身につけている女性。しかしマントのように前を開けているために体の線が露わになっている。また、体にぴったりと張り付くような服装が大きな胸や細い体をより強調している。腰まであるピンクの髪に、妖しい光に包まれた青い目。その姿は正に妖艶の美女と呼ぶにふさわしい。
「対するは、水を自在に操り、宙を駆けるという驚異の技を披露してくれた男!! 果たして、今度はどんな奇跡を見せてくれるのか!! 【水精の天馬】東龍斗!! 奇しくも魔術師対決の再来であります!!」
腕を組んだ黒い髪の青年は相変わらず大和の普段着である和服姿。鼻の下を伸ばすことなく、藍色の眼で平然と相手を見据えていた。
「……毒って目の毒って意味か?」
その声を聞いたマリアーナが妖しく笑った。
「フフフ、あたしを見て開口一番がそれかい、面白い奴だね」
その後は何も言わず、ただ互いの視線がぶつかり合うのみ。図ったように進行役の声が響く。
「それでは第4回戦第1試合、スタートです!!」
「侵略すること火の――」
「おっと、させないよ」
龍斗が術を仕掛けようとした途端、マリアーナの動きを察知して後ろに跳んだ。小さな爆発音の後、さっきまでいた地面に何かが埋まるような音がした。その音に違和感を覚えた龍斗は、マリアーナに目を向け、そして驚いた。
「……何であんたがそれを持っている」
マリアーナは杖のようなものの先を龍斗に向けていた。しかしそれは金属の筒と木で出来ており、しかも筒からは微量ながら白煙が出ていた。それを見た時、龍斗は目を疑った。それはかつて大陸で発明され、魔法が普及してからは使われることが無くなったと言われている物。故郷大和においても、戦無き今の世において、ある集団以外は主戦力としていない武器。
「何であんたが、鉄砲を持ってるんだ……」
そう、マリアーナが手にしているのは紛れもなく鉄砲、火縄銃と呼ばれるものだったのだ。マリアーナがまた笑みを浮かべた。
「ほう、こいつを知ってるのかい? こいつはね、『シーカース』とかいう傭兵団の誰かが置いてったもんでね。中々使えるもんだからそのまま使ってるのさ。それより気ィつけな。あたしの本分はこいつじゃないよ?」
その言葉に気付いた龍斗は足元に目をやった。弾丸が撃ち込まれたところを中心に彼の足元まで魔方陣が展開されている。危険を感じた龍斗は更に下がり距離を取る。
「その弾丸には召喚魔法の魔法陣を凝縮して詰め込んである。撃ち出せば着地点で陣を展開、そして魔物の召喚に入る」
その言葉の間に魔方陣の効果が発動、陣の上に巨大な蜘蛛が姿を現した。異常な彩色で見るからに毒々しいこの蜘蛛は、たくさんある目全てを使って龍斗を見ていた。マリアーナが何かを言ったが、龍斗はその内容を聞き取る余裕などなかった。第六感の赴くままに横に跳ぶ。先程までいた場所を見てみると、蜘蛛が吐き出した毒によって地面が白煙を上げていた。
(……おいおい……)
頬を伝う冷や汗をぬぐい、手印を組んだ龍斗。再び飛んでくる毒を避けながら呪文を唱える。
「其の速きこと風の如し、『天駆翔走』」
言うが早いか宙を踏み込み、衝撃波と風によって体を跳ね上げた。そこに大地があるかのように、縦横無尽に宙を走り攻撃を避けていく龍斗。その間にもまた別の手印を組む。
「動くこと雷霆の如し、其は大地を穿つ災禍、『轟雷』!!」
黄色い魔法陣から放たれた雷は、音を轟かせながら毒蜘蛛の頭を貫いた。気絶でもしたのか、胴体が地面につく勢いで砂煙が巻き起こる。それを見た地上のマリアーナ、一瞬だけ目を見張り、そして楽しそうに笑みを浮かべた。
「フフフ、まさか一撃とはね。でも、まだまだこれからだよ」
彼女の銃が2、3度乾いた音を響かせる。再び魔方陣が展開し、今度は複数の毒蜘蛛が出現する。
「ちっ、まだ出てくるか。この――」
〈さあて、そろそろ期限切れだぜ〉
「――!!」
前触れもなく脳内に響いた声と、それに伴う強い頭痛。突然のことに集中が切れてしまい、同時に術の効果も切れて龍斗は地面に落下した。幸いだったのは地面まで数mと比較的低い位置にいた事。そのお陰で、地面とぶつかってもさほどダメージを受けなくて済んだ。丁度毒が飛ばされるところだったので、観客は避けるためにわざと術を解除したのだと思い込んだ。だが実際に戦っている相手の目は誤魔化せない。マリアーナは驚いていた。
そうしている間も龍斗の苦痛は続く。手を額に当てて痛み、そして声に耐えながら考える。
(くそっ、こんな、時に……取り敢えず、ここに、居続けるのは駄目だ……)
頭の中に響く声が外に出ないようにだけ気をつけながら、龍斗は何とか声を絞り出した。
「……どうやら、毒にやられたようだ。これ以上、戦闘は……無理だ、降参する。そういうわけで、俺はさっさと出てくわ」
「え、あ、ちょっまっ」
慌てるマリアーナには目もくれず、龍斗はグラウンドから退場した。
『龍斗様、一体何が!?』
誰もいないホールの中、姉妹が龍斗に駆け寄った。しかし龍斗は手を広げ、暗に来るなという意思を伝える。
「期限切れだ……物憑きがまた来やがった」
『!!』
姉妹の顔が目に見えて青くなった。2年前にも彼女達は物憑きを見ている。そしてそれを抑えるために失血死寸前になったことも。しかし、今の龍斗はあのころとは違っていた。懐から一本の簪を取り出すと、それをミーアの手に乗せた。次いで首にかけていた貝の飾りがついたネックレスをレイアに渡す。
「それは妹と、母の形見だ。父と祖父は留守番か……そいつを持って待ってろ。……くっ、何、前の時のようなことは絶対にしない。……家族の元……帰る場所があるからな」
その言葉に目を丸くした2人。何か言いたげな様子だったが、やがて口を閉じた。強い意志を瞳に宿し、覚悟を決めた顔で龍斗に告げた。
「分かりました。ご武運を」
「……待ってますから。ずっと」
龍斗は頷き、コロッセオを出て宙へと駆け出した。あっという間に城壁の何倍もの高さにまで駆け上がり、人気のない森の方へと走っていく。
〈おいおい良いのか? あんなべっぴんさん泣かせたままでよー〉
欲丸出しの響きを持つ声が響いた。その声に、眉間の皺が更に深くなる。
「償いはする。まずは貴様だ……今度こそ、完全に決着をつける」
というわけでおそらくこれが2011年最後の更新です。
ここまで来れたのも読んでいただいてる皆様のおかげです。有難うございます。
では皆さん、良いお年を。




