第42話:事後処理 2
台詞ばっかです。めっちゃ長いのあります←
「さて、と……ヴァンサードだっけか。まずはあんたの処分からだ」
「う……うわぁぁ!!」
様々なことに耐えきれず、龍斗に殴りかかろうとするヴァンサード。だが。
「動くな」
龍斗の言葉で、本人の意思とは関係なしに動きが止まった。動けないなら口でと何かを叫ぼうとするも、
「黙れ」
龍斗に睨みつけられ声を失くし、どうしようもなくなってその場に崩れ落ちた。この時龍斗の藍色の眼は刃物の如き鋭さを持っており、表情に至っては全く感情の無い、人を人とも思わぬ冷酷なものだった。それを見た21人は皆恐怖に体を震わせた。
(こいつの所有権を得る、即ちこいつを奴隷とすることには成功している。奴隷は意思に関係なく主人の命令に絶対服従、だからな)
冷静に現状を確認した龍斗はヴァンサードに言う。
「さて、まずはお前が持っていた奴隷についてだ。彼らをどうやって従えていたかを言え。当然、嘘偽りなく真実を、必ず喋ってもらう」
「……全員に『拘束の手枷』、それと……女10人に『束縛の呪い』……」
呟くような声で命令に従ったヴァンサード。
「改めて聞くが、それらの引き継ぎは」
「さっきの履行の時に全ての権利が移っている。手枷も呪いも、全て」
「ふむ」
いったん会話を区切り、龍斗は彼の後ろに控える緊張した面持ちの20人に目を向けた。ヴァンサードを含め、全員の両手首には黒い革の腕輪がついている。これが『拘束の手枷』と呼ばれるものである。
左端から5人、これは決闘の中で龍斗と戦った者達である。フードを被っていた2人は普段からそうなのか、今でも被ったままだった。そこから何人か男が続く。尋ねてみると、護衛よりは荷物持ちとして従えていたという。そこから右端までの残りは全て女性だった。なるほど、欲に忠実との噂通りさっと見ただけでもそれなりの容姿と顔を持っている美しい女性ばかりであろうと予測できた。しかしその顔に生気は無い。龍斗の冷徹な表情を見たことも一因ではあるが、大きな理由はやはり彼女達の認識であろう。即ち性奴隷であるとの認識である。
「随分綺麗どころを揃えてるようだが。幾ら積んだ」
「……さあ……それなりにいい女なら、相場は……金50から上くらいかと……少なくとも、俺が買ったのはみんな金10から始まってたと思う」
基本的に奴隷の売買は奴隷商人との間で行われる。しかし女性奴隷の場合は非常に人気が集中しやすく、他と同じように扱っていたのではトラブルが続出する。そこで行われるようになったのが奴隷オークション。奴隷を買いたいと思う者を一堂に集め、その中で最高値を払うと言った者に奴隷を売る方法である。公には認められていないが、裏社会では定期的に、高頻度で行われているという。
そういった後ろめたい取引にカード払いは使えない。カードでの支払いは全て商人ギルドの経営する銀行が把握しているからだ。急に大金が動くと社会に何かしらの影響を与える場合があるので、事実確認を行うようになっている。建前上様々な国で人身売買は禁止されている。足がつくのを恐れて利用しなくなるのは当然の流れだった。故にこういった裏取引では現物、貨幣が支払い手段として使われる。金10からとはつまり金貨10枚、100万ドルクから競りを始めるという意味であり、今龍斗の前にいる女性達は1人500万ドルク以上の値打ちなのだという。
金額計算をしている間、何かを感じ取ったのか、背後から4つの刺さるような視線が当たっていたが気にしないことにした龍斗。しかし続くヴァンサードの言葉はそうもいかなかった。
「けど、ここにいるのはそれだけじゃない……平民共から奪ったのも数人――」
藍色の眼が鋭さを増した。本能的に感じ取ったのか、相手は身をすくめて縮こまる。
「噂に違わぬ外道だな。それと、その平民共より下の立場となったことを自覚しろ」
龍斗の言葉に、更に頭の位置が下がる。
「酒場で暴力を振るった挙句代金を踏み倒す、住民にいちゃもんをつけて金を巻き上げる、また家族を強引に連れ去り好き放題……その他諸々の悪逆非道、自分がしてきたことに間違いないな?」
「……はい……」
「ふむ……なら、もういい。お前、家に帰れ」
『……は?』
龍斗以外の全員が同じ反応をした。あり得ないことを聞いたという彼らの空気を他所に龍斗は続ける。
「ヴァンサード・ディ・ガートランド・ベル・オルドラン、お前に命じるのは2つだけだ。まず1つ、お前は自分の家に帰れ。2つ、自殺を禁ずる。誰かに頼んで殺してもらうのも禁ずる。死にたくなったら俺の所に来て懇願しろ。以上だ。それ以外は自由にして構わん」
あまりにも自由度の高い命令にその場にいるほとんどが理解出来ずただ呆然としていた。マーティス姉妹も、「あんな外道には処罰を与えないと」とは聞かされたものの、その内容については全く知らされていなかった。
その空気に飲まれていないのは、発言した当人である龍斗。じわじわと顔に喜びを浮かべていくヴァンサード。そして、奴隷が並ぶ列の左端にいた、青い髪を持つ槍の男。この3人だけだった。
「理解したか? なら、さっさと行け」
「は……は、はい!! 有難うございます!!」
龍斗に向かって勢いよく一礼すると、喜色満面の笑顔を湛えながらヴァンサードは出口へと走っていった。
「……理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ん?」
ヴァンサードが出ていった後、レイアが重い口を開いた。
「その……あのような寛大な処置をした理由、です」
ミーアが21人を代表して発言した。だが龍斗はそれに笑いを返した。
「ククク、寛大、ああそうか、そう見えるな、うん」
「? ……どういうことです?」
「……流石ですな。処罰でしたか」
ここで口を挟んできたのは、左端にいた青い髪の男だった。全てを察しているようなその言葉に、龍斗は満足げに頷いた。そして未だ理解できていない全員に示すため、龍斗は姉妹に声をかけた。
「ではミーア、いくつか確認する。まず貴族とは、一般にどう思われている存在か?」
「金持ちで……プライドが高く傲慢です」
「ほとんどの者は自分が特別な存在であるとの認識を持ちます。また身分もそれなりのものを持っているため、市民を見下す者が多いです」
「レイアのそれも大事だな。でだ、プライドの高い貴族の事、当然保守的になっていくよな?」
「ええ。幾ら権力があるといっても王の裁き次第では地位の剥奪がありますので。更には他の貴族への体裁もあります。それ相応の器量や実力を示せない者は他の貴族に潰されることもあります」
「さて、ここで問題だ。国王主催の武闘大会、大衆が見ている前で反則まがいの手勢で決闘をし、挙句大敗してしまった人間を、貴族の家は温かく迎え入れてくれるだろうか?」
『――!!』
姉妹は何かに気付いたような顔をした。2人が口を開く前に、龍斗が続ける。
「国を挙げて行われる舞台で反則まがいの卑怯な手を使い、おまけに大敗。あれだけの一般市民が見てたんだから当然世間では噂になる。悪い噂だな。そしたらどうだ? 家の名を汚す恥さらし以外の何物でもない。直ぐに他の貴族に知れ渡り、そうすれば奴の親は、いや一族が皆肩身の狭い思いをする。貴族としての面目丸潰れだ。このまま家が潰れちまうかもしれない。……その原因となった息子を意地でも擁護し、家が潰れることになっても家族として愛していこうという貴族がいると思うか? ましてや奴は三男坊、長男次男はそこそこ慕われてるみたいだから、まあ、どう考えても家督は継げない。おまけに普段からの素行が悪いと評判だ。そんな悪評だらけの、面汚しの人間を家族として受け入れる器量があると思うか? そもそも奴は奴隷に身を堕とした。平民すら見下す貴族の一家だ。奴隷を家族だと思うのか? 他にも仕えてる平民とか、あいつは今までそういう奴らにも暴挙を働いていたはずだ。今まで虐げられてきた奴らはあいつのことを許すと思うか? 答えは否だろう」
「……まさか、完全に孤立無援の状態に……?」
「でも、そんな状態、私だったら耐えられません。そんな、家族からも見捨てられた状態で……誰も助けてくれない生き地獄、そんな中で生きるくらいなら、死んだ方がまし……あ」
動揺しながらも必死に主張するミーアは、そこでもう1つのことに気付いた。
「そう、如何なる扱いを受けるか知らないが、どう転んでも今までのようにはいかないし、まともに扱ってはくれない。死んだ方がましだと思うだろうな。だが奴は死ねない。主である俺が、自らの意思で死ぬことを禁じたからな。それに恐らく一家の中ではもう既に三男ヴァンサードは死んでいる。わざわざ殺してやろうという慈悲もないだろうな」
世間から、他の貴族から、今まで虐げてきた者達から、更には家族からも白い目を向けられる。死んだ方がましだというのに、死ぬことすら許されない。何が寛大な処置か。死ぬよりも辛い八方塞がりの生き地獄の中に放り出しただけなのである。
(……死すら生ぬるいと感じる処罰……なんて非情な……)
無感情の冷酷な表情、その口だけが、全てを嘲笑うかのように歪んでいる。姉妹を始め、それを見た者全員の背筋が凍りついた。
死ぬより辛い地獄……やですね、恐ろしい←
ちょっと不安ですがこれで行きます。けど、前にも書いたように最終的な処分がどうなるかは決まってません。