第37話:第3回戦 1.対戦相手
「第3回戦、第4試合、勝ったのは……ゴードン・ウォルマンだー!!」
『ウオオォォォォーーーーーー!!』
控室のような場所で、龍斗は第4試合の終了を告げる声を聞いた。それから約10分後、龍斗は騎士団の1人に呼ばれ、コロッセオの中央へと歩いていった。定位置についたところで進行役の声が会場に響く。
「では第5試合の選手を紹介しましょう!! まずは、異国大和の服装をした青年、かの有名な【雷火のアゲート】を下した若き天才魔術師、リュウト・アズマだーー!!」
『ウオオオォォォーーーー!!』
流石に3回目ということもあって空気に慣れた龍斗。眉1つ動かず静かに相手を待つ。その正面の登場口から相手が現れると、進行役が珍しく詰まりながら声を張り上げる。
「対するはー、あー、エルグレシア王国貴族、伯爵位、オルドラン家の三男坊、ヴァンサード・ディ・ガートランド・ベル・オルドラン!!」
『オオォォォ……』
明らかに歓声の声色が変わっているにも構わず、男は悦に入った様子で、金色の装飾が施された華美な胸当てを見せつけるように闊歩してきた。顔につけているのは同じような装飾のヘルム。マルコ達騎士団員が付けていた顔全体を覆う兜ではなく、その中から額当てと頬当ての部分だけをつけたような形である。それ故に顔は丸見え。浅黒い肌に金髪、その奥に見える青い目。間違いなく龍斗が大外刈りを掛けた相手であった。左手の盾にはオルドラン家の紋章と思われる模様、翼を広げた双頭の鷲が描かれている。右手には片手剣の一種ブロードソード。鍔の部分は白い鳥の羽を寄せ集めたかのような形であった。その剣と盾を頭上に掲げたヴァンサードは、意気揚々と声を上げた。
「よく見ておけ平民共!! これが我が家の紋章、オルドラン家の紋章だ!! 伯爵家の紋章などそうそう見られるもんじゃねぇ。更にこの剣は先祖代々家に伝わる由緒正しき聖剣だ!! どこの馬の骨か知らんが、平民!! その魂、この剣に捧げてもらうぞ」
切先を龍斗に向け、にやけた顔をするヴァンサード。ヒーロー気取りでかっこよく決まったと思っているようだが、それを歓迎する声は何処にもない。観客のほとんどは呆れてものも言えず、微かに失笑を漏らす者がいる程度だった。龍斗も観客席にいたら同じように笑っていたかもしれないが、表見上はあくまで無表情に務めていた。
(魂を捧げるだと? 武闘大会では結界のお陰で死ぬことはないんだろうが。そんな初歩的なところも忘れてるのか)
が、予想以上に呆れた龍斗は表情を崩し溜め息をついてしまった。
「なっ、貴様、今俺様の事を馬鹿にしたな!! 俺を誰だか分かって……ん? 貴様、何処かで見たことが……」
その様子を見たヴァンサードが怒りを露わにしてきたが、途中から首を傾げて龍斗を注視した。鼻で笑った龍斗はしっかり覚えているので、挑発の意味を込めて言った。
「ほう、私の事をお忘れですか。そりゃあそうですよねぇ、あの時は義妹に目が眩んで他のことは一切見えてなかったんでしょうからねぇ。おまけにその後は気付いたら天井を見上げてましたっけ?」
笑顔でそう語りかけると、一瞬呆けた顔をしたヴァンサード。だがその次には湯気が立つほど真っ赤になり、龍斗を睨みつけた。
「貴様……!! そうか、あの時俺様に無礼を働いたあの!! 平民の分際で貴族に手を挙げるとは!! ん? そうか……フフフ、貴様には俺から最高の礼をしてやる……全員、さっさと出てこい!!」
今しがた自分が出てきた登場口を振り返ったヴァンサード。それにつられて龍斗や観客も視線を向けた。そして全てを知り口元を歪めるヴァンサード以外、全員の顔に驚きが広がった。
「おいおい……」
「正気か!?」
「普通に無しじゃろ……」
「あり得ん……まさかここまでとは……」
観客達がざわつき始めた。臨機応変な対応を心掛けている龍斗ですら思考が固まって反応できずにいた。龍斗が正気を取り戻した時には、ヴァンサードの周りを5人の人間が取り囲んでいた。
緑色の髪を持つ筋肉隆々の大男は片手斧を持っていた。しかしその刃がある部分、斧頭はヴァンサードの盾よりも大きい。青い髪の男は穂先が棒の両端についた特殊な槍を持っている。恐らく魔術師であろう赤い髪の少年は、アゲートが着ていたようなローブ姿に身長とほぼ同じくらいの長さの白い杖を持っている。あと2人同じようにローブ姿の者がいた。こちらはフードを被っていて顔を見る事は出来なかったが、隙間から出した手の得物で、おおよその戦闘手段が分かった。
(でかい斧、槍、魔法。顔が見えないから男か女か分からんが……片や弓、片やダガー2本。それはいいが、何故ここに?)
その疑問を口に出す事は無かったが、聞かずともヴァンサードから種明かしをしてくれた。
「クックク、どうだ、なかなかバランスの良い構成だろう。貴様のために揃えた手駒だからな。貴様の相手をするのはこいつらだ」
「なっ!?」
龍斗が驚きのあまり声を上げた。途端に巻き起こるブーイングがコロッセオに響き渡る。
「卑怯者ーー!!」
「なんて奴だ!!」
「正々堂々やりやがれーー!!」
「大体、そんなの反則だろう!!」
その声を聞いた龍斗は頭を振り、ヴァンサードを睨みつけた。
「1回戦のバトルロワイヤルならまだしも、第2回戦以降のトーナメント戦は1対1の真剣勝負。それ以前に、グラウンド内には選手以外の人間は入れないはずだが」
そう言うと相手はいつになく豪快な笑い方で龍斗の言葉を跳ね除けた。
「ハッハッハッハッハ、これだから平民風情は。確かにルールはそうなってる。だが同時にこうも書いてある……選手がグラウンド内に持ち込めるのは戦闘に必要な道具のみ」
「……何が言いたい」
龍斗の視線がより鋭く、声色もより低くなった。しかしヴァンサードはそれに全く気付く様子もなく嬉々として言葉を続けた。
「こいつらは『戦奴隷』、主の命令で動く戦うための『道具』なんだよ!!」