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龍の逆鱗  作者: 銀狼
武闘大会編
35/92

第35話:魔法合戦

大陸の一般常識で魔法とは詠唱系魔法のことを指す。魔法の発動に魔力が必要なのは言うまでもないが、もう1つ重要な要素として詠唱がある。

 詠唱とは、魔法を使う代償として魔力と共に神や精霊に捧げられる言葉である。そもそも詠唱系魔法というのは、大陸で広く信仰されている宗教上の神や精霊にその信仰心を示し魔力を与えることで、与えた側が神や精霊の加護を享受しその力の一部を具現化することが出来る、という物である。端的に言えば、

「天の神様精霊様、私は貴方の事をこれだけ深く信じてます敬愛してます尊敬してます。その信仰心と魔力をあげるから見返りに貴方たちの力を使わせてね」……という理論なのである。

 そして詠唱の要素は3つ。

「対象」どの神や精霊に捧げるのか、冒頭につく「~の神/精霊よ」の部分である。

「心象」心に浮かぶイメージ、つまり神や精霊の力や自分が起こそうとする現象のイメージを固める部分であり、言葉としては神や精霊への祈り、お願いをするような文面になる。

「現象」どのような現象を起こすのか、これは大抵魔法の技名として収まる。

 この内「心象」の部分は人によって長さも言葉も大きく変わってくる。それは魔術師の力量に関係する部分で、力量のある者ほど省略することが出来る。同じ神に祈り同じ現象を起こすのにも、「心象」無しで仕える魔術師もいれば「心象」に何分もかけてようやく出せるといった者もいるのだ。

 最終的に詠唱で不可欠なのは「対象」と「現象」だけ。戦闘において長々と呪文を唱え続けることなど出来ない。その間は大きな隙が出来るからだ。何十人を巻き込む攻撃が出来たところで発動させる前に封じられれば意味がない。だから魔術師にとって早さというのは非常に重要な要素である。如何に呪文を省略し、如何に早く唱え、如何に強力な攻撃が出来るか。そしてどれだけ状況判断が出来るか。それが魔術師に求められる技能なのである。



 呆気にとられていたアゲートは魔術師に必要な力の事を思い出し我に返った。何とか判断力を取戻し、再びワンドに魔力を通す。

「くっ、俺としたことが。水なら雷だ……雷の神トールよ、その鉄槌は敵せん者を全て打ち砕く!! その御力を我に与えたまえ!! その力にて我が敵を貫かん、『ミョルニル・サンダー』!!」

 ワンドの装飾、そして今度は赤い石とは真逆の位置にある黄色い魔法石が光を放つ。赤い魔法陣が消滅すると共に黄色い光の魔法陣が現れ、火炎から雷撃へと変わっていく。その雷は意思を持つように宙に集まり、やがて巨大なハンマーのような形を作って龍斗へと落下していく。

 しかし龍斗の対応も早かった。

「『我田引水』、水を以て壁と為す、『水壁』」

 炎が消えたと同時に素早く手を動かす。すると一直線に噴出していた水が軌道を変え、魔方陣を中心に巨大な球体となる。両手を広げるように動かすとそれに合わせて水も形を変え、結果龍斗の眼前には水で出来た巨大な壁が完成した。

 水の壁と雷のハンマーが激突した。周囲に轟くは雷鳴と水の蒸発する音。先程よりもさらに多い水蒸気を発しながらも、水は電気を吸収し龍斗に当たるのを防いでいる。アゲートの集中が切れたのか、黄色い光の魔法陣が消滅した。肩で息をしつつ龍斗の方を見る。

「な、なんて奴だ……上級魔法だぞ、それを水で作った壁に吸収するなんて……しかも何なんだ、陣を変えてないのに、水が形を変えた……? 水は専門外だが、そういう事じゃない。火だろうが雷だろうが、形変われば陣も変わるはず……」



 魔法は対象に祈りを捧げ、攻撃のイメージを心象で固め現象を起こす。それが大陸における「詠唱魔法」の一般常識。だが龍斗の使う魔法は「魔法」ではない。「忍術」であり「妖術」なのである。

 そもそも龍斗は「対象」、神や精霊に祈りを捧げていない。「心象」の言葉しかないといえる。その「心象」の言葉の中にも属性を指定する言葉はあれど神に対する言葉は無く、あるのは「現象」に対するイメージのみ。これは龍斗が15年間暮らしてきた島国大和で教わった術の呪文だからである。大陸と大和では根本的に文化が違い宗教観も違う。それが魔法発動の呪文にも影響していると考えられる。

 そしてもう1つ、上級魔法と張り合うほどの魔法を使っておきながらその詠唱はかなり短い。これは手印という大陸の魔法には無い物を組んでいるからである。様々な組み方を全て覚えるのも大変だが、それを瞬時に組むのはもっと難しい。しかしこの手印を上手く結べなければあらゆる術を発動させる事は出来ない。龍斗はそう教えられて育ってきた。しかし2年間の修行期間の内に龍斗は気付いた。

 結論を言うと、この手印を組むという行為はアゲートのワンドや魔法石と同じ、魔力増幅、属性指定の効果を持つものだったのだ。更には魔方陣と同じ役割も果たしている。余談としてマーティス姉妹の見解を挙げると、魔法というものの理論が確立されていない時代、魔力を持たない者が無理に術を発動させようとした名残ではないかとのこと。大陸でも詠唱魔法を戦闘でメインに出来るほど魔力を持つ者は少ない。元々発動させることが出来る人間が少ないがために大して効果の無いものと看做されるようになったのでは、という話である。



「さて、そろそろ行くか」

 龍斗は再び腕を動かす。それと同時に水の壁がさらに形を変え、また巨大な球体となる。だが今回はあちらこちらに電気のスパークが走っている。アゲートも今度は硬直せず、相手が動くと同時に呪文を唱えた。

「炎の神アグニ、雷の神トールよ!! 汝らの力をここに!! 『ファイアボルト・ストーム』!!」

「『我田引水』、其はあらゆるものを飲み込む大波、『波浪』」

 手印を組むと水球が弾け、大きく広がりながらアゲートへ向かう。アゲートは赤と黄色2つの魔法陣を展開し、下級魔法の小さな炎と雷撃を連続して何発も撃ち続ける。だがそれらは全て水の中に消えていくだけで、どれ1つとして龍斗に届く事は無かった。

「ぐっ、ぐあっ、あ、あああぁぁぁ……」

 波がアゲートを飲み込んだ。全身が水に濡れていくと同時に自身が放った雷に身を貫かれ苦痛に顔を歪める。波が通り過ぎた後、アゲートはもはや立っているのがやっとだった。ふらふらと体を揺らし、朦朧とする意識の中、辛うじて顔を上げ龍斗を見るアゲート。いつの間にか自分の隣まで龍斗が歩み寄ってきていたが、もう驚く事も出来やしなかった。ワンドにも光は無い。

「……は、はは……規格外だな、あんた。宮廷魔術師に憧れ12の時から魔法を習い始め、ただひたすら修行を積んで……あれから10年、異名をつけられる程実力はついたはずだったのにな……何が【雷火のアゲート】だ……」

「10年であれだけ出来るのか、それは貴方が真の実力者である証拠でしょう。力の使い方は違いますが私には上級魔法は使えません。来年、同胞として共に働けることを願いますよ」

「そうか……少年、決着をつけてくれ」

「では、いずれまた」

 龍斗はアゲートの肩を軽く押した。何の抵抗もなく、アゲートは地面に倒れた。

(また、か。1年……精進あるのみ、か)

 観衆の声援、歓声も、カウントダウンも待つことなく出口に向かう少年の背を視界に納めた後、アゲートの意識は深い闇に沈んでいった。

やたら理屈っぽい話になってしまいましたねorz

何かありましたら感想頂けると嬉しいです。

ユニーク6600人越え、お気に入り80件突破、本当にありがとうございます。

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